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第46回 | 大人ライダー向けのバイク

その名はODYSSEY──モーターサイクルを再定義せよ

このスタイリングをひと目見て、あなたはどう思われただろうか。冷静な人なら「イタリア製のバイク? それともスウェーデン?」などと想像し、「奇抜なだけでは…」と眉をひそめるかもしれない。しかし、このモーターサイクルはヨーロッパ製ではなく、東南アジアのベトナム、旧サイゴンのホーチミンで誕生した一台。そして、単にスタイリングが奇抜なだけでもない。ファクトリーの名はBandit 9(バンディット・ナイン)。モデル名は『ODYSSEY』だ。

『ODYSSEY』は「未来的な」といった使い古された形容詞では語れない

独創的なデザインに対しては、しばしば「未来的な」といった形容詞が用いられるが、『ODYSSEY(オデッセイ)』にはそんな常套句は失礼に思える。

いかついメカを曲線と連続した平坦なステンレス板で囲み、極太の前後タイヤで強烈な存在感を演出する。そのボディシェルはエッジの端にいたるまで仕上げに気が配られ、それでいてモーターサイクルとしての動的な訴求は十分にはたしている。

「これにまたがることができるのか?」と思わせるが、シートは形状記憶フォームをイタリア製のカーフレザーで覆っているという。

実用性はまだなんとも言えないが、既存の概念をぶち壊すような十分なインパクトがあり、なおかつ美しい。これこそ“新たなる潮流”と呼ぶべきだろう。

高い技術力とオリジナリティ…『ODYSSEY』は比べるスタイルが存在しない

ビジネスマンなら気がついていると思うが、ベトナムは近年、工業国として目覚ましい進歩を遂げている。

たとえば、WIPO(世界知的所有権機関)とフランスのビジネススクール「INSEAD(インシアード)」、アメリカのコーネル大学が共同で作成した「2017年世界技術革新ランキング」では、ベトナムは2015年から一気に14ランクもアップし、47位とトップ50入りをはたしている(1位はスイス。日本は市場要因とビジネス環境の悪化により2ランクダウンの13位)。

ベトナムは社会主義国家でもあり、多くの日本人はクリエイティビティという面でまだまだ途上にあると考えがちだ。しかし、『ODYSSEY』のインパクトと精緻な仕上がりには、とても高い技術力とオリジナリティを感じる。賛辞を贈るときには、よく「○○を超えた!」といった表現を使うが、そもそもこのモーターサイクルには比較するべきスタイルが存在しないのだ。

ステンレス板で覆われたボディ内のパワーユニットは、1400ccのVツインエンジンとデュアルドライブの電動モーターの2種類から選択できる。

ホイールは前後ともボラーニ製のワイヤースポークで、Fフォークはマルゾッキ製。そして、ブレーキにはベルリンガー製のラジアルマウントと、いずれも機能とデザインの両面で満足できるパーツが選ばれている。

アビオニクスのイメージを取り入れた先進的なシースルーLEDディスプレイ

注目してほしいのはタンク下部から投影されるシースルーLEDディスプレイである。ステンレスの外板と同一となる曲面の内側がインストゥルメントパネルの役割を担い、速度、エンジンの回転数をはじめ、ガソリンの残量、水温、航続距離、ナビ情報といった各種情報が映し出されるのだ。

このあたりは、開発者が航空機に触発されたというだけあって、アビオニクス(航空機用電子機器を表す造語)のイメージが取り入れられている。

この類を見ないデザイン、スタイルを生み出した開発者の名は、ダリル・ヴィラヌエバ(Daryl Villanueva)。バンディット・ナインの公式サイトにプロフィルは載っていないが、さまざまなソースにあたったところ、ヴィラヌエバはフィリピンで生まれで、香港、オーストラリア、マレーシアで育っている。国籍はベトナムと思われるが、それを裏付ける情報はない。

デザインを学んだのはアメリカで、ロサンゼルス、ドバイ、ベトナム、北京でアートディレククションを仕事としたようだ。バンディット・ナインを創立し、チーフデザイナーとなったのは2012年。ホーチミンに戻ったのは、東南アジアでのオペレーションを開始するためだという。

バイク=スーパーカブを意味するベトナムが生んだ芸術的なモーターサイクル

ベトナムでは、1960年代半ばに米軍が南ベトナム政府への経済援助として2万台のホンダ『スーパーカブ』を購入して以降、『スーパーカブ』が日々の生活においてかけがえのない、もっとも信用できるモビリティとなっている。

そのため、彼の地ではバイク=「ホンダ」を意味する。ヴィラヌエバも初めて『スーパーカブ』に乗ったときの感動が忘れられないひとり。しかし、ホーチミンの街なかに同じ形をしたホンダ製バイクがあふれていることへの不満があった。それが芸術性の訴求につながり、その作品群に現れているようだ。

もちろん、バイクは走って移動するためのものだから、社会に受け入れられる最低限の要件を満たす必要がある。その点からすると、『ODYSSEY』は現実的な機能を持っていないかもしれない。それゆえに、ヴィラヌエバは世界中のコレクターが欲しがる未来指向で高度に様式化されたデザインを生み出し、モーターサイクルを再定義しようとしているのだろう。

『ODYSSEY』はバンディット・ナインの名刺代わりとして製作されたワンオフモデルで、基本的には一般に販売されない。購入についての相談には応じているようだが、日本の公道を走るのはむずかしいだろう。ショーモデルとしてでもいいので実車を目にしたいものだ。

Text by Koji Okamura
Photo by (C) Bandit9 Motorcycles
Edit by Takeshi Sogabe(Seidansha)

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第69回 | 大人ライダー向けのバイク

ドゥカティ ディアベル1260──悪役感溢れるクルーザー

クルーザーとは、平坦で長い直線道路を巡航(クルーズ)することに重点をおいたオートバイのスタイルのことだ。ハーレーダビッドソンやインディアンをイメージするとわかりやすいだろう。広大な北米大陸で発達したことから、日本ではアメリカンバイクとも呼ばれている。それをイタリア流のセンスによって味つけしたのが、ドゥカティ『ディアベル』である。従来のクルーザーと一線を画す独創的なデザインをもつ『ディアベル』は、2011年にデビューするや世界中で大ヒット。そして今回、第二世代へと進化した。

クルーザーでも「走りはやっぱりドゥカティ」。ファンの期待に応えるキャラクター

2010年にEICMA(ミラノモーターサイクルショー)で発表された初代『Diavel(ディアベル)』は、斬新なデザインだけではなく、従来のドゥカティのイメージと異なるクルーザージャンルに挑戦したモデルとして話題を集めた。じつは、ドゥカティは2014年にフォルクスワーゲングループに属するアウディに買収され、その傘下となっている。レース由来のスポーツモデルというブランドのアイデンティティを脇に置き、経営戦略を優先した結果の新型車と見る者が多かったことも、注目された理由のひとつだったのだろう。

しかし、初代『ディアベル』は見た目以上にスポーティで、実際にライディングを味わった人々からは「やっぱり走りはドゥカティ」との評価を得ることが多い。そうしたユーザーの声は、期待どおりのキャラクターに仕上げられていることを証明するものだ。

その『ディアベル』が第二世代へと進化した。ドゥカティは3月に開催されたジュネーブモーターショーで2019年モデルの発表を行ったが、そこで専用スペースを与えられ、ショーのアイコンモデルとしてお披露目されたのが『ディアベル1260』だ。しかも、2014年のようなマイナーチェンジではなく、すべてを見直した2代目としての登場である。

低回転域でもパワフルな排気量1262ccの「テスタストレッタDVT」エンジンを搭載

アイコニックな外観は、シルエット自体に大きな変化はない。しかし、全体にボリュームアップしており、重量感も増していると感じる。トレリス(格子状)フレームもまったく新しくなり、ぱっと見た印象としては、よりヒール(悪役)感が演出されているようだ。短いシートエンドとスラッシュカットで跳ね上がるサイレンサーエンドは、リアまわりをすっきりとさせた。同時にマスが凝縮されているようで、鍛えられた筋肉を連想させる。

その細部への作り込みによる質感の高さが評価されたのか、『ディアベル1260』は第二世代であるにもかかわらず、ドイツの権威あるプロダクトデザイン賞「Red Dot Award 2019:Best of the Best(レッド・ドット・デザイン賞)」にも輝いているくらいだ。

エンジンは、初代から継承されてきた排気量1198ccの水冷L型ツインからスープアップされ、1262ccの強力な「テスタストレッタDVT」エンジンを搭載。それにより、最高出力は従来の152hp/9000rpmから159hp/9000rpmへ、最大トルクは12.5kgm/8000rpmから13.2kgm/7500rpmへとそれぞれ高められている。車体重量はドライウエイトで218kgもあるが、これだけのトルクがあれば低速域でも軽快に扱えるはずだ。

ドゥカティ自身も新エンジンについて、「息を呑む加速とスムーズな低回転域のパワー特性を備え、日常ユースにも長距離ツアーにも対応する」としている。そのパワーを受け止めるのは、『ディアベル』のトレードマークである極太のリアタイヤだ。クルマ並の240mmという超ワイドタイヤを装着し、ボッシュ製のコーナリングABSも標準装備された。

特別なコンポーネントを与えられたスポーティ仕様車『ディアベル1260 S』も設定

新型には標準仕様に加えてスポーティな「S」バージョンも設定された。こちらには、専用のシートとホイールが与えられるほか、ブレンボ製M50ラジアルマウント・モノブロック・ブレーキ・キャリパー、オーリンズ製サスペンションなどを装備。さらに、クラッチ操作をせずに変速できる「クイックシフトアップ&ダウンエボ」も標準装備される。

『ディアベル1260』は、すでに1月半ばからボローニャにあるドゥカティの本社工場で生産が始まっており、ヨーロッパでは3月から販売が開始された。日本での発売は7月ごろを予定している。4月13日には大阪で「Ducati Diavel Meeting」が開催されたが、なんとこのミーティングの参加者は現行『ディアベル』のオーナー限定だった。新型のオーナーになれば、こうした特別なイベントへの招待状がドゥカティから届くかもしれない。

Text by Koji Okamura
Photo by (C) Ducati Motor Holding S.p.A
Edit by Takeshi Sogabe(Seidansha)

動画はこちら
Ducati Diavel 1260 オフィシャル動画
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