多目的動力装置=『ウニモグ』、ダイムラーが生んだロングセラーの特殊車両
『ウニモグ』という名前だけを聞くと、子ども向けアニメのキャラクターやぬいぐるみを連想してしまいそうだ。しかし、この名前はイメージ優先でつけられたペットネームではない。
『ウニモグ』という名は、ドイツ語の「Universal-Motor-Gerät(ウニバザル・モトル・ガレ)」を略号法によって表したものだ。ウニバザル・モトル・ガレは「多目的動力装置」を意味する。とはいえ、多目的作業車といういかつい存在でありながら、デザインには愛嬌もあり、不思議なくらいネーミングにマッチしている。
フロントグリルのエンブレムでわかるように、製造しているのはメルセデス・ベンツの親会社であり、世界一のトラックメーカーでもあるダイムラー。販売はメルセデス・ベンツ(日本の正規代理店はワイ・エンジニアリング )が行っている。
初代『ウニモグ』は、ダイムラー・ベンツの航空機エンジン開発責任者だったアルベルト・フリードリッヒが農業支援車として設計した。開発がスタートしたのは戦後まもない時期で、1946年にプロトタイプが完成し、販売が始まったのはその翌年。もちろん、時代の変化と要求に応じ、初代から現行モデルまでのあいだに多くのモデルチェンジを行っている。
販売台数は、じつに累計40万台。超ロングセラーモデルであると同時に、多目的作業車のジャンルで圧倒的な販売実績を誇るベストセラーモデルなのだ。
名作漫画の『エリア88』にも登場、『ウニモグ』は悪路や急斜面も苦にしない
『ウニモグ』には多くの特徴がある。大径タイヤとショートホイールベースによるスタイリングはユニークで、ぬかるみや急斜面も苦にしない悪路走破性、劣悪な環境でこそ真価を発揮する高い耐久性を持つ。
多彩な外部装置による多機能性も『ウニモグ』ならではだろう。もっとも、開発当初の『ウニモグ』はあくまでパワーテイクオフ(PTO、動力の外部供給のこと)が可能な自走機械という位置づけで、どのモデルにも外部出力装置が備えられていた。戦後は食料生産のための農業用動力が世界的に不足していたため、各国の作業現場に導入されると大歓迎を受けたという。
走破性の高さには、ポータルアクスル(ハブリダクション)の採用が大きく寄与している。ドライブシャフトがハブの中心からオフセットされているため、ディファレンシャルギアの位置が高く、一般的なハブ機構と比べると圧倒的に高い最低地上高が得られるのだ。
ポータルアクスルは戦時中にドイツ軍が小型軍事車両の『キューベル ワーゲン』に採用していたので、技術的にも蓄積があったのだろう。柔軟性のあるフレームと合わせ、さまざまな悪路や障害物を乗り越えるうえで設計上の大きなポイントとなっている。
トランスミッションは、セミオートマチック化されたマニュアル24段(前進8×3段、後進6×3段)を足によって操作するが、かつてはディファレンシャルロックを切り替えるレバーを含めた3本のシフトレバーを持っていた。
驚くべきことに、ローギアよりさらに低いギア比のスーパーローによって崖に近い急斜面も上ることができるという。航空部隊の傭兵を描き、1980年代に人気となった新谷かおるの名作漫画『エリア88』では、主人公たちが『ウニモグ』で逃走するシーンが出てくるが、そこでもスーパーローを駆使している。
消防車、除雪車、鉄道保守用軌陸車、災害救援車…多彩な派生バリエーション
極めつきは左右に移動可能なハンドルだ。悪路や傾斜の多い状況では、どうしてもハンドル位置による可動制限が多くなる。しかし『ウニモグ』は、エンジン停止後にレバー操作ひとつでハンドルを左から右へ、右から左へと変えることができるのである。
これは輸出するときに認定上の障壁になることもあるが、危険が伴う作業現場では福音となる画期的な機能といえるだろう。
『ウニモグ』の生産台数は1960年代に10万台を超え、ボディサイズ、エンジン、出力の異なるさまざまなバリエーションが生まれた。なかでも、1974年に登場した最高出力120hpの「425シリーズ」は、直線的でありながらメルセデスらしい洗練された印象と、軍事車両的な無骨さを併せ持ったデザインとして注目を集め、現在にいたるまで『ウニモグ』の "顔" というべき存在だ。
派生モデルは枚挙に暇がない。一例を挙げると、消防車、除雪車、建設機械、鉄道の保守用軌陸車、災害救援車、極地仕様車、ミキサー車、さらにキャンパー、ラリー仕様車…といった具合だ。軍事車両として採用する国は世界30カ国以上に上る。
東日本大震災後に被災地用の復興支援車として寄贈された4台の『ウニモグ』
日本人にとって忘れられない出来事となったのが、2011年3月の東日本大震災後にダイムラーがトラックタイプの『ウニモグ U4000』と『ウニモグ U5000』を2台ずつ、被災地の復興支援車として寄贈してくれたことだ。
『ウニモグ』は特殊な車両のため、通常なら上陸の手続きは困難を極める。しかし、日独両政府の連携によって短期間でのナンバー取得が可能となり、さらにダイムラーは、メンテナンスを含むアフターサービスや運転するドライバーのトレーニングにも協力を惜しまなかった。
豪雨災害のよう大災害を目の当たりにすると、東日本大震災当時のことを思い出さずにはいられない。『ウニモグ』は、困っている人々を救ってくれる正義の多目的作業車でもあるのだ。
Text by Koji Okamura
Photo by (C) Daimler AG
Edit by Takeshi Sogabe(Seidansha)