歴代の「スピードスター」をオマージュした『911スピードスターコンセプト』
「コンセプト」という名がつくと、そのデザインはいかにも大仰になりがちになる。だが、『911スピードスター コンセプト』は、外連味(けれんみ)のない、まさにポルシェの伝統を継承したといったデザインである。レトロな趣といっていいかもしれない。
それもそのはずだろう。このクルマのエクステリアには、『911 カレラ4 カブリオレ』をベースに、『356 1500スピードスター』や『911 スピードスター』などをオマージュした要素が加えられている。
1950年代の“レーシングポルシェ”を思わせるこだわりが詰まったディテール
歴代の「スピードスター」は大きく傾斜した短いフロントウインドが特徴だ。オープンであることからもわかるように、重心を低くして運動性能を極限まで高めることを目的としている。
もちろん、『911スピードスター コンセプト』もその例に漏れない。ボディは『911 カレラ4 カブリオレ』のワイドさを継承している。
しかし、『911 カレラ4 カブリオレ』とは異なり、電動開閉機構を省略するなど、限りなく軽量化された。コンバーチブルトップの代わりに備えられるのは、歴代「スピードスター」と同じく、ファスナーで取りつける軽量のトノカバー。走行時は基本的に取り外す。
歴代「スピードスター」で採用された、車体後部にあるダブルバブル形状の「スピードスターカバー」も健在だ。軽量化のためにカーボンファイバーで作られているという。ちなみに、フェンダーやフロントフードはカーボン製である。
一見、オーソドックスでオールドなポルシェデザインに感じるかもしれないが、細部には“レーシングポルシェ”を思わせるこだわりが詰まっている。
たとえば、ヘッドライトカバーの「X」。モータスポーツ好きならピンと来ると思うが、これはレースカーが飛び石による破損防止のために貼るテープを想起させる。ミラーはタルボットスタイルで、流線型のレーシングミラーを採用した。ホイールはシンプルな5スポーク。センター燃料タンクキャップはフロントフード中央に配置される1950年代スタイルが採用された。
1950年代というのは、つまり『356スピードスター』が現役だった年代。これらの意匠が、レトロな印象を与えているのだろう。
サイドにはレーシングカーを思わせる「70」のゼッケン。70周年を意識していることは言うまでもない。透明なプレキシガラス製ディフレクターにも「70 years of Porsche」ロゴが刻印されている。
生産を手がけるのは、特別な一台を作る「ポルシェ モータースポーツセンター」
インテリアでは、ヘッドレストに「Porsche」のロゴを刻印したライトブラウンのアニリンレザーのバケットシートが目を引く。これも一見するとレトロだが、骨格はカーボンファイバーだ。軽量化のために、ナビゲーションやラジオ、エアコンなどは装備していない。
パワートレインは最新のGTモデルに準じており、最高出力500ps/9000rpmの水平対向6気筒エンジン。トランスミッションは6速MTを搭載。足回りは『911 GT3』をベースにしたシャーシを採用した。
生産は『911 GT2 RS』や『GT3 RS』と同じく、特別な一台を手掛けるドイツ・ヴァイサッハの「ポルシェ モータースポーツセンター」が手がける。今後数カ月で市販化を進めるか否かの判断を下すという。
現行の911型『911』の最後を飾る大物として今秋か2019年に正式デビュー?
「スピードスター」は、『ポルシェ 356』をはじめとして、『ポルシェ911(930型)』『ポルシェ911(964型)』『ポルシェ911(997型)』の4世代にのみ与えられた名だ。
『911』シリーズでは、いずれもモデル末期に登場している。そういった意味では、現行モデルである『911(911型)』の最後を飾る大物として、市販車デビューする可能性が高いだろう。巷の噂では2019年にデビューともいわれているが、次世代『911(992型)』が発表される今秋以前を期待する声もある。
限定モデルになることは確実。70周年を記念して70台ということはないだろうが、生誕年の1948年に由来して1948台限定ということは考えられる。いずれにしろ、プレミアム必至の一台になることは間違いない。
Text by Tsukasa Sasabayashi
Photo by (C) Porsche AG.
Edit by Takeshi Sogabe(Seidansha)