世界初の2ストローク燃料噴射システムを搭載するKTMのエンデューロマシン
KTMのEXCシリーズは、2016年にオールニューとなって登場した新世代のエンデューロマシン。これに続いて2017年に導入されたのが、オフロードの市販車として世界初の2ストローク燃料噴射システムを搭載したパワーユニットを持つ「EXC TPI」だ。
その衝撃の余韻が残るなかで、KTMは今回、MY(モデルイヤー)2019として排気量を拡大した300ccモデルを発表。それが競技専用車の『300 EXC TPI』と『300 EXC TPI SIX DAYS』である。『300 EXC TPI』は6月から日本でも発売され、『300 EXC TPI SIX DAYS』も11月に発売予定だ。
2ストローク最大排気量となる300ccモデルの日本導入を待ち望むライダーも多かったと思われるだけに、満を持しての上陸といっていいだろう。
燃料消費を低減させる「TPI」の搭載で、4ストロークのライバルに打ち勝つ
300cc 2ストロークモデルの『300 EXC TPI』は、その名のとおり、抜群のパワーとトルクを発揮する燃料注入システム「TPI(トランスファー・ポート・インジェクション)」を搭載する。それにより、複雑な構造の4ストロークライバルに打ち勝てる一台となった。
エンデューロは、レーサーといえども良好な燃料消費が求められる競技だ。これまで2ストロークエンジンはその点において不利とされていた。しかし、『300EXC TPI』は、2つのインジェクターからポートに燃料噴射を行う特許取得済みのEFIシステムにより、燃料消費も大幅に低減させている。当然、面倒なキャブレターの調整も不要だ。
また、WP(ホワイトパワー)のフォークと新設計ピストンのリアショックの絶妙なセッティングによって、足回りも申し分ない仕上がりとなった。車体には新しいグラフィックとシートカバーをまとい、“エンデューロ最強マシン”のひとつとして、一目置かれる存在となっている。
パリダカ以上に過酷なエンデューロレース“SIX DAYS”仕様のモデルイヤー
『300 EXC TPI SIX DAYS』も、同じくTPIを搭載する300ccの2ストロークエンジン。しかし、こちらは“SIX DAYS”モデルだ(メイン写真と下の写真)。
SIX DAYSとは、ISDE(インターナショナル・シックスデイズ・エンデューロ)という6日間連続で行われる世界最大のエンデューロレースのこと。その過酷さはパリ・ダカール・ラリー以上で、真のサバイバルレースといわれる。なにしろ、6日間で1000km以上を走破するにもかかわらず、マシンには出場選手しか触ることができないルールとなっているのだ。
つまりライダーには、単にマシンを速く走らせるだけでなく、車両の整備や修理を短時間で的確に行う技術も求められる。メカニックのサポートが受けられない以上、ライダーは睡眠時間を削って車両の整備や修理をしなければならない。人間の耐久レースでもあるのだ。下のリンクの動画は、2015年にスロバキアで開催されたISDEでのKTMチームのハイライトである。
KTMでは、自社のエンデューロレーサーがISDEで数々の優秀な成績を収めていることから、毎年SIX DAYSモデルを登場させている。もちろん、過酷な条件でもパフォーマンスを発揮するように設計されたモデルだ。
たとえば、新設計のプリロードアジャスターつきWP製Xplor48倒立フォークに、頑強な造りのソリッドリアディスクブレーキ、より効果的になったガード類など、走るために必要なパワーパーツを装着した特別仕様となっている。
また、レースの開催国に合わせたイメージグラフィックも毎年取り入れている。2018年のISDEは、南米チリのビーニャデマールで11月12日〜17日の日程で開催される。そのため、2019年型のSIX DAYSモデルには、青・白・赤のチリ国旗に合わせたチリグラフィックが採用された。
『300 EXC TPI』の価格は109万円、ただし競技専用車なので公道走行は不可
車両のメーカー希望小売価格は、『300 EXC TPI』が109万円、『300 EXC TPI SIX DAYS』が122万円(いずれも税込み)。
前述したように、『300 EXC TPI』は6月から日本でも販売が開始され、『300 EXC TPI SIX DAYS』も11月から発売予定だ。しかし、念のためにもう一度言っておくと、どちらも競技専用車のため、公道を走行することはできない。
エンデューロ界の最強マシンにまたがるには、それ相応の腕と度胸が必要となる。KTMレーサーは挑戦者を求めているぞ。
Text by Katsutoshi Miyamoto
Photo by (C)KTM Sportmotorcycle AG
Edit by Takeshi Sogabe(Seidansha)