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第11回 | トヨタの最新車デザイン・性能情報をお届け

世界よ、これが日本の匠の技だ──TOYOTAセンチュリー

ロールス・ロイス『ファントム』、ベントレー『ミュルザンヌ』、メルセデス・マイバッハ『Sクラス』。いずれも数千万円のプライスタグがつく、限られた成功者のための最高級ショーファーカーだ。しかし、じつは日本国内にも、これらに勝るとも劣らないクルマが存在する。トヨタのフラッグシップサルーン『センチュリー』である。先ごろ、21年ぶりのフルモデルチェンジをはたした新型『センチュリー』は、文字通り“究極のセダン”へと進化。こだわりを極めた内外装は、工業製品というより工芸品と呼ぶたくなるほどの出来栄えだ。

日本のトップ層に愛されてきた最高級車『センチュリー』が21年ぶりに刷新

『センチュリー』は、トヨタのみならず、日本のフラッグシップサルーンというべき一台だ。初代モデルが登場したのは1967年。トヨタグループの創始者である豊田佐吉氏の生誕100年を記念して発売された。以来、御料車や総理大臣専用車にも使われるなど、50年以上にわたって日本のトップ層に愛用されてきた。

フルモデルチェンジした新型『センチュリー』は3代目となる。開発テーマは「継承と進化」。トヨタが誇る「匠の技」と「高品質のモノづくり」を受け継ぎつつ、パワーユニットを5.0LのV12からV8ハイブリッドに変更し、先進安全運転支援システムを採用するなど、メカニズムにアップデートを施した。

しかし、こと『センチュリー』に関しては、メカニズムはそれほど重要ではない。エンジンはクルマを快適に、静かに動かすことができればそれでいい。むしろ、日本のフラッグシップとしての品格を表すスタイリング、そして世界のVIPをもてなす室内空間こそがこのクルマの真骨頂なのだから。

職人が1カ月半かけて金型を手彫りしたフロントグリルの「鳳凰」エンブレム

正統かつ伝統のスタイリングは、もちろん変わっていない。ワイドなフロントグリル、角型ヘッドランプ、過剰な装飾を廃したシンプルな面構成、アンダーボディを囲むクローム、VIPのプライバシーを守る太いCピラーといった特徴は新型にも受け継がれている。

しかし、サイドショルダー部分にある溝状のキャラクターラインに視線を移せば、ひと目で新しくなったとわかるだろう。これは、平安時代の「屏障具(へいしょうぐ)」の柱にあしらわれる、「几帳面」と呼ばれる面処理の技法によるものだ。このラインが車両全体に高い格調を与えている。

フロントグリルは、縦格子と「七宝(しっぽう)文様」の前後二重構造。センターにある「鳳凰」のエンブレムは、職人が金型をていねいに手作業で彫り込んだもので、翼のうねりや繊細な羽毛の表情を鮮やかに表現した。金型を彫り込む作業だけで、じつに1カ月半もの時間を費やしている。

これらのディテールは、トヨタいわく、「日本の美意識に通じる静的な均整感を保ちながら、後席を上座とする独自の思想を造形に表した」ものだ。

ボディカラーは4色。エターナルブラックの「神威(かむい)」、シリーンブルーマイカの「摩周(ましゅう)」、ブラッキッシュレッドマイカの「飛鳥(あすか)」、レイディアントシルバーメタリックの「精華(せいか)」と、すべて漢字二文字の名が与えられた。

このうち新色の「神威」は、7層の塗装を行ったあと、日本の伝統工芸の漆塗りを参考に、流水のなかで微細な凹凸を修正する「水研ぎ」を3回実施。一点の曇りもないように「鏡面仕上げ」を施した。無論、すべて手作業だ。

後席のVIPをもてなすべく、日本らしさを随所にちりばめた至高のインテリア

ボディサイズは全長5335mm×全幅1930mm×全高1505mm。それぞれ65mm、40mm、30mm大きくなり、ホイールベースも65mm延長された。

この延長分は後席空間の拡充にあてられ、オーナーやゲストのレッグスペースに十分なゆとりを提供。さらに、後席のスカッフプレートとフロアの段差を15mm縮小し、フロアマットを装着したときに床面がフラットになるように設計することで乗り降りもしやすくなった。

快適性を追求すると同時に、室内にも「日本らしさ」が随所に散りばめられている。

前席と後席は、「本杢(ほんもく)」のオーナメントで区切られ、VIPが乗車する後席には「折り上げ天井様式」を取り入れている。天井にあしらわれているのは、格調の高さを表す「紗綾形(さやがた)崩し柄」の織物だ。

本杢のパネルは、上質できめの細かい柾目(まさめ)調のタモ杢のほか、本革仕様ではシルバーの「アッシュ杢」も設定される。なお「杢」とは、木目のなかでも、とりわけ装飾性が高く美しい紋様のこと。一般的に高級車のトリムには葡萄杢 (ぶどうもく)が使われることが多い。

シートの素材は「瑞響(ずいきょう)」と呼ばれるウールファブリックで、カラーはグレー、ブラウン、ベージュの3色。さらに、「極美革(きわみがわ)」と呼ばれる本革仕様のオプションも用意された。こちらはブラックとフロマージュの2色から選択可能だ。

後席には無断階に調整可能な電動オットマンを装備。左後席はより快適な座り心地が追求され、リフレッシュ機能(マッサージ機能)を備えた電動リヤシートが採用されている。

後席の正面中央には、11.6インチの「リヤシートエンターテインメントシステム」を搭載し、12chオーディオアンプと20個のスピーカーを最適な場所に配置した。これらの機能、そしてエアコン、リフレッシュ機能などは、センターアームレストに内蔵された7インチタッチパネルディスプレイで操作できる。

『センチュリー』の価格は1960万円、究極のセダンは意外にリーズナブル!?

和のテイストが強調された贅沢な内外装でもわかるように、国産車のフラッグシップである『センチュリー』は、ある意味“特殊な”クルマである。

とはいえ、限られた成功者しか乗ることができないわけではなく、じつは一般向けにも販売され、全国のトヨタ店(東京地区は東京トヨペット、東京トヨタ)で注文を入れることが可能だ。あらゆるクルマを乗り継いできたオーナーには、“上がりの一台”として選ぶ人もいるのではないか。

価格は1960万円(税込み、北海道と沖縄のみ価格が異なる)。匠の技が詰まった工芸品のような最高級サルーンとしては、望外にリーズナブルといえるだろう。

Text by Muneyoshi Kitani
Photo by (C) TOYOTA MOTOR CORPORATION
Edit by Takeshi Sogabe(Seidansha)

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第17回 | トヨタの最新車デザイン・性能情報をお届け

超屈強なフルサイズSUV──トヨタ セコイアTRDプロ

日本の自動車メーカーが作るクルマには「日本では買えない海外専用モデル」というものが存在する。とくにSUVやピックアップトラックには、北米専用モデルが多い。ホンダなら『パイロット』『リッジライン』、日産なら『タイタン』にインフィニティ『QX70』。トヨタのフルサイズSUV『セコイア』も、そのうちの一台だ。この巨大な北米専用SUVに、モータスポーツ直系のチューニングを施した「TRDプロ」が加わった。日本では見ることもその性能を堪能することもできない、アメリカならではフルサイズSUVである。

全長5mの巨大なボディに豪華な装備。トヨタ『セコイア』は北米市場で人気のSUV

アメリカでは、フルサイズSUVを持つことがひとつのステータスになっている。多用途的とは言いがたいスポーツカーと違い、日常からレジャーまで幅広く利用でき、グレードによっては高級セダンに匹敵する乗り心地を実現し、さらに頑丈な車体は回避安全の意味でも頼りがいがあるためだ。VIPやセレブレティも移動にフルサイズSUVを使うことが多い。

フルサイズに明確な基準があるわけではないが、SUVをボディサイズでセグメントしたとき、もっとも大きなクラスを指し、コンパクトやミドルに対して「ラージサイズ」とも呼ばれる。全長は5m以上、全幅は2m以上かそれに近い車両がフルサイズにあたる。

トヨタの北米市場専用モデル『セコイア(Sequoia)』も、『ランドクルーザー200』以上の巨体をもつフルサイズSUVだ。トヨタ・インディアナ工場で製造され、初代は2000年にデビュー。その後、2008年と2018年にフルモデルチェンジを受けた。SUVを名乗っているが、どちらかというと『セコイア』は4WDとしてのヘビーさよりもオンロードでの快適性や利便性を重視したクルマで、充実したインテリアによってプレミアム感を演出している。それがユーザーの嗜好を捉えているのは、好調なセールスを見れば明らかだ。

フルサイズSUVで唯一セカンドシートにスライド機構をもち、じつのところ、それも人気を支えている要素になっている。さらにサードシートのリクライニングやフルフラットも電動(オプション)なので、家族の評判が高くなるのは道理なのだ。このほか、初代から運転席の8ウェイのパワーチルトやスライド式ムーンルーフを標準装備。トライゾーン・オートエアコンも備え、Apple CarPlay、Android Auto、Amazon Alexaにも対応する。もちろんBluetoothハンズフリー電話機能とミュージックストリーミングも可能だ。

しかし、2月にシカゴでお披露目された『セコイアTRDプロ』は、標準仕様とはかなり趣が異なる。その名のとおり、これは「TRD」のバッジを冠するモデルだからだ。

FOX製のショックアブソーバーを搭載。『セコイアTRDプロ』はTRDの最新モデル

TRDは「トヨタ・レーシング・ディベロップメント(Toyota Racing Development)の頭文字だ。トヨタのワークスファクトリースチームとしてレーシングカーを開発し、そこで培った経験や技術を生かしてトヨタ車用にチューニングパーツの製作と販売を行っている。国内外の多くのレースに参戦しているが、近年では『ヴィッツ』(輸出名『ヤリス』)をベースにしたマシンでWRC(世界ラリー選手権)に参戦して注目を集めた。前身は1970年代にさかのぼり、モータースポーツマニアならずともTRDの知名度は非常に高い。

「TRDプロ」は、2014年から北米でトヨタのオフロードモデルにラインナップされているシリーズで、ピックアップトラックの『TUNDRA(タンドラ)』と『TACOMA(タコマ)』、そして日本では『ハイラックスサーフ』としておなじみのSUV『4 Runner(フォー・ランナー)』に設定されている。このTRDプロの最新作が『セコイアTRDプロ』だ。

5.7L V型8気筒ガソリンエンジンを搭載し、トランスミッションは6速AT。55.4kg-mという図太いトルクを発揮し、しかもそのトルクの90%をわずか2200rpmという回転数で得ることができる。加えて、マルチモードの4WDシステム(ほかのグレードではオプション)やロッカブル・トルセン・リミテッド・センターデフ(トルク分配式デフ)を搭載したことで、従来の『セコイア』になかった高い走破性をもつのが特徴のひとつだ。

しかし、もっとも重要なチューニングポイントはサスペンションだろう。オフロード用のショックユニットメーカーとして知られるFOX社のアブソーバーは、アルミ製の本体にインターナル・バイパスを装備し、外力の大きさによって異なる減衰機構が働く。日常の走りでは柔軟に動き、ストローク量に応じて減衰力が高まるのでボトムしにくいのだ。数多くのオフロードコンペで優れた実績を残したメカニズムで、むろん専用にチューニングされている。しかもTRDの厳しい要求に応えるため、前後で異なるユニットが採用された。

「オンとオフ」「シティとカントリー」「マニアとファミリー」をまとめて愉しむSUV

外観で目立つのは、P275/55R20タイヤを装着した20インチx8インチのBBSブラック鍛造アルミホイールと、フィニッシュがブラッククローム仕上げの単管エキゾーストだ。誇らしげに「TRD」のロゴが入れられたフロント下部のスキッドプレートは、もちろんトレイル走行中にフロントサスペンションとオイルパンを保護するのに役立つもの。また、フロントグリルも「TOYOTA」のロゴを配した専用デザインとなっている。

面白いのは、TRDのエンジニアが乗員に配慮し、キャビンの音質を改善するために周波数調整したサウンドキャンセルデバイスを採用したこと。これによって低く心地よいエキゾーストノートを提供するという。走りとは関係ないものの、ぜひ体験したい機能だ。

かつての四輪駆動車愛好者は、それ以外の自動車ユーザーと求めるデザインや装備、機能が明らかに違っていたが、技術の進歩とセンスの変遷はさまざまな境界を取り払おうとしていると感じる。「オンとオフ」「シティとカントリー」「マニアとファミリー」をまとめて愉しもう、というのが『セコイアTRDプロ』の隠れたコンセプトなのかもしれない。

Text by Koji Okamura
Photo by (C) TOYOTA MOTOR CORPORATION.
Edit by Takeshi Sogabe(Seidansha)

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