ニュルのFF車最速タイムを持つ『シビック タイプR』がピックアップに!
CIVIC(シビック)とは「市民の」「都市の」という意味である。その名が示す通り、『シビック』はホンダを代表するコンパクトファミリーカーで、同社の歴史を語るうえで欠くことのできない存在だ。1970年に制定された悪名高きマスキー法(大気浄化法)をCVCCエンジンで真っ先にクリアし、ホンダの四輪車のなかで最初に北米市場に食い込んだ記念すべきモデルでもある。
とりわけ1983年に登場した通称“ワンダーシビック”と1989年のVTEC(ブイテック)採用モデルは『シビック』の名を一躍知らしめ、血気盛んな若者たちに絶大な人気を誇った。
『シビックTYPE R(タイプR)』は、『NSX-R』『インテグラ タイプR』に続くホンダ第三のRモデルとして、1997年に初代モデルが設定されたハイパフォーマンスカーだ。欧州車の多くが市販化前のテストを行い、また、そのタイムを競い合っているニュルブルクリンク北コースでFF車最速のタイムを持つ。2018年6月中旬には、ベルギーのスパ・フランコルシャンでも市販FF車最速のラップタイムを記録した(下の写真)。
その『シビック』が、『タイプR』が、まさかピックアップトラックになって登場するとは、いったい誰が想像できただろうか。
コードネームは“プロジェクトP”、『タイプR』の動力性能をそのまま継承
『タイプR ピックアップトラック』を製作したのは、イングランド南部にあるUKホンダのスウィンドン工場の精鋭チームで、コードネームは“プロジェクトP”。現行の5代目『シビック』の標準モデルが正式発表されたのがちょうど1年前の2017年7月だったので、製作期間もそれくらいと見ていいだろう。
このピックアップを「カッコいいだけのトラック」と侮ってはいけない。アメリカホンダには『リッジライン』という中型ピックアップがあるが、もちろんそれと同列に考えるのも間違いだ。シャレで作ったファニーカーなどではないのである。
『タイプR』は新開発の2.0L直列4気筒ターボエンジンを搭載し、最大出力320psを発生。最高速度は165mph(265.5km/h)を超え、0-100km/h加速は6秒を切る。このピックアップは、『タイプR』の動力性能をそのまま受け継いでいるのだ。
外観では、荷台のスペースを作るためにルーフのBピラーから後方を大胆にカット。ボディ剛性を確保するためにスポーツバー風の極太スチールパイプを装着した。カットされたリアフェンダーの上部は不自然さがないように見事に処理されている。
面白いのは、ハッチバックのテールゲート部分を生かし、その上部に大型のリアウイングを残していること。これによって独特なスタイリングが生まれ、ピックアップにもかかわらず、荷物の積み卸しはゲートを上に開いて行う。
UKホンダはニュルブルクリンクの「前輪駆動ピックアップ最速」挑戦も検討中
UKホンダのオフィシャルサイトには、「このプロジェクトはチームがクリエイティビティを示す素晴らしい機会でした。(中略)ニュルブルクリンクでも最速の前輪駆動ピックアップトラックを記録できるかどうかを検討しています」というプロジェクトリーダーによるコメントが掲載されている。
つまり『タイプR ピックアップトラック』は、ニュルブルクリンクでの「前輪駆動ピックアップ最速」を目指しているわけだ。ヨーロッパでは今、あらゆるセグメントのクルマがニュルの最速記録を競い合っているが、もしこのクルマがニュルを走れば、本当にピックアップ最速タイムを記録するかもしれない。
『タイプR ピックアップトラック』はワンオフのコンセプトモデルで、現時点では市販化の可能性は未知数としかいえない。とはいえ、現在の農業従事者人口がわずか1.2%程度(日本は3.7%)しかないイギリスにあっても、このクルマの反響の大きさは相当のもの。量産化への力強い働きかけになったのではないだろうか。
Text by Koji Okamura
Photo by (C) HONDA MOTOR EUROPE
Edit by Takeshi Sogabe(Seidansha)