チーム打率も防御率も上回っている楽天に、本拠地で負け越した。エース・則本昂は右肘手術でおらず、岸も出遅れたのに、彼らはソフトバンクと首位に並んでいる。昨季の監督代行から内部昇格し、チームを率いる平石監督はまだ39歳だ。
現役通算37安打。これは2リーグ分立後では最少安打(投手とプロ未経験者を除く)の監督だ。つまり支えてくれるコーチのほとんどは年上で、選手の大多数はすでに自分の実績を超えている。そんな平石監督の野球人生には、中日OBが色濃く関わってきた。
「トヨタの監督から『どうしてもプロで勝負したいと言っている選手がいる』と相談されまして。残り11球団の指名候補には載っていなかったと思います」。懐かしそうに話したのは、伝説のスカウトマン・法元英明さんだ。古巣の中日ではなく楽天に仲介したのは、どの球団も平石を候補リストから外しているのを知っていたからだ。誕生直後の楽天なら選手は足りないし、田尾安志監督は同大の先輩だ。誘われたのではなく、入れてくれと頼んだ結果の7位指名だった。
結果を残せず、わずか7年で引退。しかし、数字に表れぬ才能を見抜いてくれた人がいた。当時の星野仙一監督だ。「あいつは監督をやるべき人間なんや」。ず抜けたリーダーシップ、誰もが顔色をうかがう自分にも直言する度胸を買っていた。闘将がのこした言葉は、間違っていなかった。
メジャーリーグでは当たり前の「二流選手から名監督」になった例は、日本にも少ないながらある。阪急を率いて通算1322勝の上田利治(通算56安打)、悲運の名将と呼ばれた西本幸雄(同276安打)。若くして監督になったのも上田(37歳)、星野(40歳)がいる。
監督という仕事に本当に必要なのは、年齢や実績ではなくマネジメント能力だ。昨季は最下位。元二流選手・平石監督率いる楽天の快進撃は、日本野球に新風を吹かせるかもしれない。