ジェームズ・グリッケンハウスから始まったフェラーリのワンオフ・プログラム
ジェームズ・グリッケンハウスは、映画監督であり映画プロデューサーだが、カーガイにとっては、希代の自動車コレクターとしてのほうがなじみ深いだろう。フェラリスタなら、世界にたった一台のオーダメイドモデルを発注して注目された人物といえば、思い出してもらえるかもしれない。
そのクルマが『P4/5 ピニンファリーナ』だ。これをきっかけに、フェラーリは顧客のオーダーに応じてワンオフカーを手がける「ワンオフ・プログラム」をスタートさせた。その最新モデルとなるが『SP38』である。
『SP38』は、2015年登場の『488GTB』のシャーシとパワートレインをベースに開発されたロードゴーイングカー。もちろん、サーキット走行も念頭に置かれている。オーナーとなる顧客も開発に携わり、スタイリングをはじめ、インディビジュアルのカスタマイズをフェラーリとともに進めたという。
『308GTB』と『F40』からインスピレーションを受けた『SP38』のデザイン
ボディには『488GTB』の面影が残るが、デザインはまったくの新作だ。先細った鋭いフロントマスク、スリムなヘッドライトながら、前後のホイールアーチやヒップラインの膨らみはマッシブ。くだけた言い方をすれば細マッチョな印象を受ける。
このデザインを目にして、新しさとともに懐かしさを感じるのは、40代以上の世代かもしれない。『SP38』のデザインは、1975年から1985年まで製造された『308GTB』と、1987年にフェラーリが創業40周年を記念して製作した伝説のスペチアーレ、『F40』からインスピレーションを受けている。
『308GTB』は、『SP38』のベースモデルである『488GTB』もインスピレーションを得ていたのであまり驚きはないが、『F40』は故エンツォ・フェラーリが最後に新車発表を見届けた特別な一台。それだけに、どのように活かされているか期待が高まる。
3.9L V8ターボは『488GTB』への搭載時からどれくらい進化しているのか?
『308GTB』のモチーフは、おもにフロントサイドだ。特に「デイタイム ランニング ランプ(常時点灯型ライト)は、『308GTB』を参考にしてリップ部へと移されている。
『F40』のモチーフはリアサイドで顕著。大型のリアスポイラーは『F40』の象徴である大型ウイングを想起させる。また、テール周りを囲むようなスクエアなフレームも、どことなく『F40』のそれを思い起こさせる。3枚のカーボンからなる印象的なエンジンカバーも、『F40』のエンジンカバーのデザインを大胆にアレンジしたものだ。
『488GTB』は3.9L V8ターボエンジンを搭載し、最高出力670cv/8000rpm、最大トルクは760Nm(7ギア使用時)。これが『SP38』でどれだけ進化しているかは興味深いが、現時点で確実な数値が得られる情報はない。『408GTB』からの進化はないといった一部報道もあるが、その場合、最高速度330km/h、0-100km/h加速3.0秒を目安とした動力性能になるだろう。
世界にごく少数存在する超富裕層だけが手にできるフェラーリのワンオフモデル
情報が少ないのは、『SP38』がたったひとりの顧客のために製造されたワンオフモデルで、公表する義務がないからだ。もちろん、どういった人物が顧客なのかについても、まったく明かされていない。
もともとフェラーリには、ボディカラー、ストライプのデザイン、シートの素材まで、オーナーの好みに合わせて無限に近い選択肢を用意した「テーラーメイド・プログラム」がある。
無論、限られた富裕層だけが享受できるサービスだが、「ワンオフ・プログラム」はその次元をはるかに超えている。世界にごく少数だけが存在する、我々の想像を超えた超富裕層だけが恩恵に預かれるのだろう。もはや垂涎の気持ちさえ起きない一台だ。
Text by Tsukasa Sasabayashi
Photo by (C) Ferrari S.p.A.
Edit by Takeshi Sogabe(Seidansha)