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第12回 | ロールスロイスの最新車デザイン・性能情報をお届け

Rolls-Royceカリナン──砂漠でも魔法の絨毯は健在だ

1901年、南アフリカの鉱山で世界最大のダイヤモンド原石が発掘された。3106カラットという桁違いに巨大なそれは、9つの大きな石と96個の小さな石に切り出されたという。大きな石には「Ⅰ」から「Ⅸ」の番号が振られて加工され、すべてが英国王室や王族に献上された。鉱山の所有者であるサー・トーマス・カリナンにちなみ名付けらた、「カリナン」である。そして、「カリナン」の名は117年の歴史を経て、同じく英国の至宝、ロールス・ロイスへと受け継がれた。

ロールス・ロイスによる初のSUVであり、初の4WDともなった『カリナン』

『カリナン』は、ロールス・ロイス 初のSUVであり、初の四輪駆動車だ。ロールス・ロイスのトルステン・ミューラー・エトヴェシュCEOは、「どこへでも行ける最高級のラグジュアリー・スタイル、“ロールス・ロイス・スタイル“”のSUV」と評している。その言葉通り、昨今のプレミアムSUVブームとは一線を画す、“ロールス・ロイスが作るに値するSUV”といっていいだろう。

そもそも、外観からして流行の流線形とは距離を置いている。フォルムは、力強い縦横のラインで構成されたボクシースタイル。長いボンネットプロフィールやフロントフェイスが、伝統のグリル「パルテオン」がロールス・ロイスであることを主張している。

グリルは他のモデルにも見られる手磨きのステンレススチール製だが、上方・前方に押し出すことで独自性を出した。「ROLLS ROYCE」のロゴとオーナメントである「スピリット・オブ・エクスタシー」は、ライン上方の見晴らしの良い位置に堂々と据えている。

後部は装飾を最小限に抑えて、機能性を重視。テールランプのデザインは2つの狭い縦型ユニットでシンプルそのものだ。印象としては、優雅さよりも力強さが押し出されており、むき出しの鉄製エキゾーストパイプとスキッドプレートは『カリナン』の威風堂々とした佇まいをより高めている。

威風堂々という表現は、実車を見れば納得するだろう。とにかく、大きいと感じるはずだ。全長5341×全幅2164×全高1835mmのボディは、フラッグシップの『ファントム』よりも全長こそ430mm短いが、全高は190mm上回っている。ヨーロッパのほかのプレミアムSUVと比べると、ひと回り以上大きい印象を受けるに違いない。このサイズも「カリナン」の名にふさわしいといったら、こじつけ過ぎだろうか。

まさにロールス・ロイスの正統派ラグジュアリー、ため息が漏れる豪華な室内

室内に足を踏み入れるときに感動するのは、乗車までの過程だ。キーのアンロックボタンに触れるか、ドアハンドルに手を伸ばすだけで車高が40mm下がり、乗員を誘ってくれる。シートに身を委ねると、最高級のレザー、木材、金属で装飾された内装にため息が漏れる。まさにロールス・ロイスの正統派ラグジュアリーである。

しかし、ただ絢爛豪華なだけでなく、水平・垂直を意識したシンプルかつシンメトリカルな構成は機能性も高い。後部座席は、オプションによって、「ラウンジ・シート」と「個人シート」のカスタマイズが可能だ。

「ラウンジ・シート」コンフィギュレーションは、後部座席がベンチシートで3人乗り。ロールス・ロイスでは初めて後部シートが折りたためるようになった。トランクまたはリアドアポケットのボタンを押すと、シートが設定した数だけ電動で折り畳まれる。

荷室は560Lで、リアシートを畳むと全長2245mm、1930Lの大容量スペースとなる。「マーク・ロスコの絵画であろうとも難なく滑り込ませることができる」とアナウンスするのは、いかにもロールス・ロイスらしい。

「個人シート」コンフィギュレーションは、実用性よりも究極のラグジュアリーを重視する。後部の独立したシート2席は、ロールス・ロイス製ウィスキーグラスとデカンタ、シャンパンフルート、クールボックスを収納したキャビネット付き固定式リアセンター・コンソールによって分割されている。

魔法の絨毯のような乗り心地を実現する『カリナン』の「どこでもボタン」

『カリナン』はロールス・ロイス初の4WDでもある。気になるのは、名高い「魔法の絨毯」が健在かどうか。じつは、エンジニアリングチームがまず着手したのが、その乗り心地をすべての地形で実現する駆動系を開発することだったという。

それは、既存エアサスペンションシステムを全面的に見直し、新型の軽量アーキテクチャーと最新型自動レベリング式エアサスペンションを組み合わせ、さらにエンジンを刷新することにより達成された。

ちなみに、新型の軽量アーキテクチャーは『カリナン』が生み出されたキーポイントだ。正式名称は「アーキテクチャー・オブ・ラグジュアリー」。ロールス・ロイスが得意とするオールアルミ構造で、駆動力、牽引力、制御システムなど、サイズと重量の問題に対応できるように設計されている。新型『ファントム』で初採用されたが、今後はすべてのロールス・ロイスに採用される予定だ。

パワーユニットは、1600rpmという低回転で最大トルク850Nmを発生させる新型の6.75LツインターボV12エンジン。最高出力は420kW(571ps)/5000rpm、0-100km/hの加速は5.2秒、最高速度は250km/h(リミッター制御)だが、これらの数値はロールス・ロイスを語るうえであまり重要ではない。それよりも、いかに乗り心地が良いかのほうが重要なのだ。

快適性を象徴するのは、たったひとつのボタンだ。どんな状態の路面でも、指1本でボタンを押すと「魔法の絨毯」に早変わり。荒れた道路、砂利道、湿った草むら、ぬかるみ、雪原、砂の上…。どのような状況でもスムーズに走行できるように車高を調整し、850Nmのトルクを最適にタイヤへと配分してくれる。このボタン、ロールス・ロイス社内では「エブリウェア(どこでも)ボタン」と呼ばれているという。

本家本元の参入によって「砂漠のロールス・ロイス」という称号はなくなる?

走行性能で個人的に気になったのは、オフィシャル動画で砂漠を疾走するシーンだ。つまりこれは、「砂漠のロールス・ロイス」と称される“あのクルマ”を意識したものではないだろうか。本家本元が参入したのだから、もはや「砂漠のロールス・ロイス」という称号は必要なくなるのかもしれない。

創業者のひとりであるサー・ヘンリー・ロイスは、「すべてにおいて理想を追い求めなさい。今ある理想のものをより完璧に仕上げなさい。もし理想のものが存在しなければ、創ればいい」との言葉を残している。ロールス・ロイスは、その言葉に忠実に、これまでにない理想のSUVを創り出した。

すでに日本でのデリバリーも決まっており、車両本体価格は3894万5000円(税込み)。ミューラー・エトヴェシュCEOの言葉を借りると、「粋を極めたフォルムに完璧な実用性とオフロード性能をあわせ持つ」一台だ。満を持しての登場となった『カリナン』によって、プレミアムSUVブームがひとつのジャンルとして完璧に確立するかもしれない。

Text by Tsukasa Sasabayashi
Photo by (C) Rolls-Royce Motor Cars
Edit by Takeshi Sogabe(Seidansha)

動画はこちら
Rolls-Royce Cullinan オフィシャル動画
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跳ね馬色のロールス・ロイス──オーナーはGoogle副社長

家とクルマは成功を象徴するものだ。特にIT企業のトップには、数千万円から億単位の高級車を収集する自動車コレクターもめずらしくない。ZOZOTOWNの前澤友作氏はそのひとり。ブガッティ『ヴェイロン』、フェラーリ『エンツォ・フェラーリ』などを所有し、パガーニ『ゾンダ』にも乗っていたこともある。シリコンバレーでいえば、もっとも有名なのはグーグルのベンジャミン・スロス副社長だろう。8月の終わりにも、鮮やかなフェラーリ色のロールス・ロイス『ドーン ブラックバッジ』が納車されて話題となった。

グーグルのスロス副社長はフェラーリ『FXX K』を所有する有名な自動車コレクター

グーグルのベンジャミン・スロス副社長は、世界の自動車メディア関係者の間で広く知られた人物である。高価で希少なクルマを購入してニュースを提供してくれるからだ。

スーパーカーや高級車を何台も所有し、2012年5月に発生したイタリア北部地震では、被災者を支援するためにフェラーリが開催したチャリティオークションでサーキット専用車の『599XX EVO』を落札。ハンマープライスはおよそ1億4000万円だった。

とりわけ驚かされたのは3年前だ。なんと妻の誕生日にフェラーリ『FXX K』をプレゼントしたのである。『FXX K』もハイブリッドスーパーカーの『ラ・フェラーリ』をベースに開発されたサーキット専用車で、ひと握りの上顧客に向けて生産される。しかし、いくら希少なクルマとはいえ、妻の誕生日にレーシングカーを贈る人物はめったにいない。

それだけに、スロス副社長は4シーターのオープンカーに乗るときもありきたりなモデルでは満足できなかったようだ。彼がオーダーしたのは特別にカスタマイズしたロールス・ロイス『ドーン ブラックバッジ』。ボディは鮮やかイエローで塗装されている。

副社長いわく「北イタリアのモデナの旗の色をしたロールス・ロイスが見たかった」

ロールス・ロイス『ドーン ブラックバッジ』は、4シーターのオープンモデル『ドーン』の内外装にブラックのドレスアップを施したエッジーなスペシャルモデル。6.6LのV12ツインターボエンジンは専用チューニングによってパワーアップされている。

スロス副社長に納車されたのは、この『ドーン ブラックバッジ』にさらに特別なカスタマイズを施したビスポークモデルだ。最大の特徴は、「スーパーフレア」と名付けられた鮮やかなイエローのボディカラー。ボンネットやフロントグリルは、それとは対称的な濃いネイビーブルーで仕上げられた。こちらの名称は「パイクスピークブルー」だ。

じつは、スロス副社長が所有する『599XX EVO』や妻にプレゼントした『FXX K』も同じカラーコンビネーションをまとっている。つまり、これはフェラーリカラーの『ドーン ブラックバッジ』なのである。スロス副社長いわく、「所有するレーシングカーは北イタリアのモデナの旗の色。同じカラーのロールス・ロイスを見たかった」という。

もちろん内装も同じカラーだ。シートやトリムはネイビブルーのレザーで、ステアリングホイールやシートのステッチなどにイエローが差し色として添えられている。

フェラーリ色の『ドーン ブラックバッジ』は、スロス副社長の妻の日常の足だった

ちなみに、この『ドーン ブラックバッジ』はもともとスロス副社長の妻が2014年から「日常の足」として使っていたクルマで、すでに13000マイルを走っているそうだ。

しかし残念ながら、スロス副社長自身がどんなクルマを普段遣いしているのかについては情報がない。もしかすると、マクラーレン『P1』などのスーパーカーに乗ってシリコンバレーのマウンテンビューにあるグーグル本社に通勤しているのだろうか?

それにしても、自動運転技術で大手自動車メーカーを圧倒するグーグルの副社長がスーパーカーや高級車のコレクターというのも、なんとも面白い組み合わせである。

Text by Kenzo Maya
Photo by (C) Rolls-Royce Motor Cars
Edit by Takeshi Sogabe(Seidansha)

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