「確かこうだったかな? 《
「さあ、クレマンお姉ちゃん……再開だよっ♪」
「《能力向上》《能力超向上》《超回避》《疾風走破》!! クソガキ、クレマンティーヌ様をあんまナメんじゃねぇよっ!!」
たった1回見ただけで自分の
いや、叫びだけじゃない。最大の加速を得られるようにクラウチング・スタートというよりむしろネコ科の肉食獣が藪に潜んでる姿を髣髴させるように、低く低く身を伏せていた。。
対するネムは剣と盾という装備もあり、そう低い姿勢を取ってるわけじゃない。確かにグッと腰を低く落としているが左手に持つ盾を前に、右手に握る剣を後に下げる構えだ。
(あのクソガキ、勘が良くてカウンターが上手い……しかも盾を単純な守りだけじゃなくて攻勢に使う
武技を制限して戦った一度目は《盾強打》で吹っ飛ばされた。
二度目のカウンターの《盾強打》は《流水加速》で上に避けるついでにカウンター返しでスティレットを脳天に差し込もうとしたが、
(それにしても、妙に戦い慣れしてやがる……不自然なほどに。なんでだ?)
☆☆☆
見た目どおりの年齢というのなら、空恐ろしい話だ。少なくとも自分はこの歳でここまでの戦闘力はとてもなかった。
クレマンティーヌは知らない。いや、法国の誰もが知らないだろう。
ネムが既に「人外領域の戦い」に慣れ、適応しているということなど。
この齢二桁に届いてない
並みの人間の10倍の戦闘力を持つとされ、人を殺すためではなく『喰うため』に襲ってくるビーストマンは正しく人外であり、その人外相手にネムは初陣で自分の年齢より多く屠ってみせたのだ。
毎年のビーストハントの参加メンバーは、モモンガは特に報告していないし、
その時期が近づくとモモンガは転移魔法を用いて頻繁に竜王国を訪れ、頃合を見計らって『選抜メンバーを
転移魔法で瞬間移動できるせいもあるのだが……参加メンバーを隠匿することでの防諜という理由ではなく、どうやら七星剣は式典とかそういう堅苦しい席はあまり好まないようだ。竜王国とて国民が食われないようビーストマンたちが間引きできればそれでよいわけで特にそれに対する異論は出ない。
それに、ドラウディロン本人としては毎年の
法国は当然竜王国にもいる間者や内通者から毎年、ビーストマンの間引きに『ダークウォリアー
”カルネ村の七星剣”の話は聞いているし、実存も確認している。だが、その実力の程は『単純戦闘能力ならアダマンタイト級に届く可能性はあるが、漆黒聖典には劣る』というあやふやな評価に過ぎない。
諜報力不足というより、ダークウォリアーとイビルアイ二人の戦力が余りに高すぎるため、もしかしたらその幻惑効果があるのかもしれない。
そして常識にも囚われている。普通、『齢二桁に届かぬ幼女が、単独で二桁のビーストマンを屠る』こともありえなければ、ましてやハムスケに跨り奇襲だったとはいえ『陽光聖典の
さてクレマンティーヌがネムの実力を知らないのはそんな背景があるが……ネムにとっても大きな意義をクレマンティーヌ戦に見出しているのは、身体能力にかまけて技術もへったくれもないビーストマンに対し、『ビーストマンに匹敵する身体能力を誇り、洗練された高度な武技や戦闘技術を持ち、尚且つ”
確かに人外の領域の身体能力を持ち、自分より優れた武技や戦闘術の使い手は村にも、外にも何人もいる。種族的に人外なデーバーノックやハムスケ、グは置いておくとしても
だが、ネムは良くも悪くも村のアイドルでマスコットだ。
ゼロもブレインも稽古をつけてくれるかもしれないが、擬似的な殺気は出せても毛穴が開き肌が粟立つような”本物の殺気”を期待するほうが無理というものだろう。モモンガとキーノに至っては何を
無条件の愛されキャラというのもこういうときには困りものだ。
村の外の強者にはそもそも繋がりもコネもない。
例えば、ネムが見たことのある外部のツワモノの代表格は、毎年恒例のカッツェ平野での王国と帝国の小競り合いで見学するガゼフ・ストロノーフや帝国四騎士だろう。
ラナー? ツアー? あれは身内も身内だ。
竜王国のドラウ某はジャンルが違うし、そこのアダマンタイト級
ネムとしても股を開きたいのはモモンガだけなので、会ってみたいとも特に思わないが。
ネムに限った話じゃないが聖王国に至っては、そもそも行ったことすらない(ネムに限れば竜王国が始めての外国で、帝国にも行ったことがない)。
そんな中、今の自分の実力を計り試すのに都合のいいクレマンティーヌが現れたことは、ネムにとっては望外の幸運と言えた。
(なら、その幸運を目一杯楽しまないとね♪)
☆☆☆
(おそらく、クソガキは剣より鈍器の扱いの方が慣れてやがる……)
盾を防御武器として使わず、殴打や投擲に使ってきた。
(確かにさっきの斬撃は驚いたが……)
間合いを見計らい、クレマンティーヌは思考を加速させつつ最良の戦術を練ってゆく。
「剣の扱いはさほど上手いって訳じゃねぇか……」
一太刀は確かに見事だったが、追の太刀はなかった。
それどころか、斬撃を受け止めたら自分から間合いをとった。
となれば剣技だけじゃない。もしかすると、
(むしろ盾を防御に使うことは慣れてない?)
ならば話は簡単だ。
盾を鈍器として使いあくまで攻撃にこだわるなら、防御を取らせればいい。
経験則から考えれば、極端に攻撃にパラメータやリソースを振った者は防御に関しては脆い側面がある。
なら、そこを崩して突いてやればいい。
なんのことはない。いつもやってることではないか。
(クソガキも同じ手は使わないだろうが……)
だが、読めないわけじゃない。
ネムが地面を蹴った。
駆け出す小さな体の突進速度は、能力超向上の効果か?なるほど確かにさっきよりも早い。
そしてその速度を触媒に、
「武技《
これまでにない……カウンターでなく正面からのアタックとしての盾打撃を放ってきた!
誤解のないように言うが、漆黒聖典第九席次”疾風走破”ことクレマンティーヌ・メルヴィン・クィンティアは優れた戦士だ。
これまで盾によるカウンター技を基点に戦術を組み立ててきたが、ここぞという時は積極的な攻勢に出てくると思っていた。
ネムの動きはまさにクレマンティーヌの読み通りで、
「《流水加速》!
”ヒュッ!”
それは今まで見せてない隠し玉の武技。
足を動かさず、故に足捌きを読まれずに前方へ素早く体をスライドさせる歩法の武技であった。
クレマンティーヌは、高速で擦れ違うようにネムの盾を持つ左側を擦り抜け、後方へと回りこむ!
(
躊躇いなく突き出されるスティレット!
もし先端が丸められた訓練用武器でなく、彼女が日常的に使うそれであれば、ネムは脳を串刺しにされていたか、あるいは背中から心臓を一突きにされていた……のか?
否。断じて否!
「《
切っ先がネムに届く刹那、その幼き肢体は視界から消え、
「なっ!?」
気がつけばわずか1m先にその姿はあった。
ネムが振り向くまでの時間は、クレマンティーヌには何故かひどくゆっくりに感じた。
視界に映ったのは三日月のように開く口元……
「ふ、《不落よ」
「《
かつてネムが戦場で見た「一呼吸で四太刀浴びせる」とされる周辺国最強と謳われた漢の技が、クレマンティーヌの細い肢体に吸い込まれた……
お読みいただきありがとうございました。
とりあえず、今回でネムとクレマンティーヌのPvPイベントは決着。
とはいえ、次回で少しだけ余韻というかオチが付きそうですが(^^
連載を再開してから、ここのところ連日投稿してきましたが、次回は少し遅れそうです。
多分、今週中には次回が投稿できたらと。
よろしければ感想、評価などなどよろしくお願いします。