あるイベントの終焉、そして運営として考えること

Daisuke Maki
Jun 10 · 6 min read

Maker Faireを運営しているMaker Mediaがスタッフを全員解雇し、操業停止したというニュースが最近あった。思うところがあったのでつらつらと書く。

これは草の根 and/or コミュニティ系カンファレンスをやっている人たちは少なからず気にしておいた方が良いニュースだろう。


個別の事由はあるのであくまで一般論なのだが、このニュースから得られるひとつの見解は基本的にイベント開催というものが利益どころか、継続的に開催するための売上をイベント単体で得ることが相当難しい、ということだと思う。

自分のような人間のやっているイベントの売上は基本的に協賛費+チケット料金でまかなっている。このうち、チケット料金は、イベントというプロダクトにへの対価としてエンドユーザが支払ってくれるものであり、イベントそのもののクォリティや方向性によってある程度のコントロールができる。

やっかいなのが、このチケット料金というのはよっぽどの場合を除いてイベント開催の原価を大幅に下回ることだ。自分の場合、実はチケット料金だけでは原価の三割を賄えるかどうか、というレベルである。

残りは全てスポンサーを集め、協賛金としていただいたものの中から捻出することになる。

そして協賛金とは、実に不安定な収入源なのである。

まず大前提として、協賛金とは企業が本業に支障が無い程度に資金を拠出できる体力がある時のみしか期待できない。

スポンサーしてくれるとしても、毎年同じ金額が期待できるかと言うとそうでもない。去年は100万円いただけたけど、今年は10万円、なんていうことは普通にある(もちろん、少額であってもいただけるだけでありがたいのだが、ここで言いたいのは定額収入として期待するには変動する可能性が高すぎる、ということである)。

つまり先に書いた収益モデルでは、安定性の低いソースに売上の7割を頼っているわけで、これでは通常のビジネス感覚では勝ち目がない、としか言いようがない。

それでも我々運営者がこのような活動を続けるのはひとつにはそれが好きだからだし、利益のためにやっているわけではなくそこから得られるなんらかの社会的な意義のためにやっているからだ。

だがそれでも利益は必要なのだ。

余談だが(一般論として)あなたがボランティアとして参加するなら、それがどんなイベントでも、金の事を些事だという大人を簡単に信じるべきではないと僕は思う。なぜなら全ての活動には対価が生じるからだ。

金を些事だと言い切れる人間はあなた含め他人の労働力も些事だと考える傾向があるというのが僕の経験知だ。大義のために奴隷になるな。金の事を真面目に考えられない人はあなたが提供するリソースの対価も真面目に考えられない。

自己犠牲を提供して良い結果が生まれることもたくさんある。実際、僕も全く儲からない事をしている自覚はある。だが、自分は少しの無理をしている、という自覚もはっきりある。スタッフにもそれぞれ無理をお願いしている自覚もある。

その自己犠牲を「当たり前」だと説く人にはついていくかどうかはよくよく考えてみるべきだろう。

閑話休題。

話を利益に戻す。利益が必要なのはなぜか。それは単純で利益があれば継続的にイベントを開催するために助けになるからである。物事がうまくいかない時のバッファ、スケールアウトするための投資、その他様々な事柄は金がかかる。

泥縄方式で都度都合するという手もあるが、必ずしも成功するとは限らない。

想像でしかないが、Maker Mediaは多分そんな資金ショートが少しずつ積み重なった結果の操業停止なのではないだろうか。

なお、自分が主宰しているイベントbuilderscon は正直に言えば、2019年 は一時期「こりゃだめだ」というレベルの売り上げでとどまってしまった。そして僕の心はギスギスになった。スタッフにも迷惑をかけた。なぜなら、金が集まらなければ全てを無しにするしか方法がないからだ。ない袖は振れない。(だが、最終的にはなんとか赤字にはならない!というレベルになって無事開催することになった)

だが、もし収入的な意味で成功し続けているイベントを数年続けられていたら、きっとそんな事は起こらなかったろう。

例えば自分が過去に主宰したYAPC::Asia Tokyo 2015 は最終的に利益があがったが、準備期間中そんなことを考える必要すらなかった。それまでの10年あまりで積み立てた利益の結果である現金が、開催を保証するには十分にあったからだ。

お金の心配をしなくていいのは端的に言って最高だった。

大規模イベントを継続したい人は考えておこう

小規模な集まりは好きなタイミングで好きなようにやればいい。だが、大規模イベントを作り、組織化して、それをさらに他の人に引き継いでほしい、と思う人は今回のMaker Mediaの件を頭の後ろのほうに覚えておくといいと思う。

Maker Faireはイベント的には盛況だったはずだ。参加者の熱意も感じられたし、結構ビッグネームなスポンサーもついていた。それでも操業停止だ。

例えば法人という器を作ったその後の事はどうなるのか?お金は定期的に、滞ることなく流入する仕組みが作れるのか? お金の事を考えるときに誰かが責任を取るのか?いや、そもそも取れる運営形態なのか?

正解はないと思う。ケースバイケースだし、イベントとはそのクリエイターの思想が色濃く反映するのでやりかたはいくらでも出てくるだろう。「特定の企業にお金をたっぷり出してもらう」「継続性は度外視して、赤字になったらイベントも終了」とかでもいいかもしれない。

けれども、主宰が売り上げ、収益、それらの事柄から逃げてはいけない。ただ集まって酒を飲みたいなら自分のポケットマネーでやればいいのだ。他人のお金でイベントをやるなら、少なくともお金の流れについて考え続ける責任がある。

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Daisuke Maki

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Go/perl hacker; author of peco; works @ HDE Inc; mastermind of builderscon; Proud father of three boys;