昨日参加した勉強会で、講師の先生が「日本でも集団的自衛権が議論されていますし、やがて徴兵制が導入されますよ」という話をしていてちょっと驚いた。こういうことを、大まじめに信じている人がいるんですね。
結論を言えば、日本で徴兵制はあり得ない。ただでさえ「子供がいない」とか「人手がない」と言っているときに、日本の若年層を漏れなく1〜2年軍隊(自衛隊でもいいけど)に引っ張っていく制度など作れば日本経済は沈没だ。軍隊は何も生産的なことをしない。消費するばかりだ。徴兵制による軍備増強は日本経済を悪化させる。徴兵制導入で不足する労働力をどうするか。外国人労働者を入れようか。日本の若者が軍隊に行っている穴埋めに、外国人が日本で働くのか。とんだアベコベだ。日本で徴兵制を導入しようとすれば、まず日本の経済界が大反対するだろう。
世界の軍隊の趨勢は徴兵制から徴募制(志願制)に移行している。これが再び徴兵制主流になることは考えられない。近代の国民国家は徴兵制が主流だったが、それは当時の戦争の方式として、兵隊の数がそのままその国の軍事力と不可分の関係にあったからだ。しかし現代の戦争はそうではない。少人数の軍隊がハイテク兵器で戦うようになっている。ミサイルが飛ぶ、空爆がある、無人機が飛ぶ。衛星で監視しながら、真夜中でも無人機で敵地を攻撃してしまうのだ。最終的には地上部隊が投入されるが、これはもう戦争の最終局面になってのこと。こういう戦争では、大量の兵士は必要とされない。
アメリカは世界中の基地に兵士を駐屯させ、紛争が起きればいの一番に軍隊を送れる体制を作っているが、現在のアメリカ軍はすべて徴募制だ。マイケル・ムーアの『華氏911』にも登場するが、アメリカ軍は下っ端の兵隊を貧乏人からリクルートする。貧しくて上級学校に進めない若者。不景気で職がない若者。地場産業がろくにない貧乏な町に軍隊のリクルーターが乗り込んで、地元のショッピングモールで青年たちに声をかけて回る。アメリカの貧困層が、世界の警察であるアメリカ軍の存在を支えていると言ってもいい。
日本はかつて一億総中流と言われたが、今は格差が広がっている。日本における子供の貧困率は7人に1人の割合。日本で兵隊を増やそうと思えば、徴兵制など導入するまでもない。アメリカと同じで、まずこうした貧困家庭がリクルートのターゲットになるだろう。そいういう意味では、軍備増強論者にとっては格差社会である方が好ましいことになる。現在の7人に1人程度の貧困では、まだまだ優良な人材を軍隊にリクルートすることが難しい。これが3人に1人ぐらいになれば、貧乏人の中からも優良な人材を思うがままにリクルートすることができるようになるだろう。
僕自身は昨今論じられている集団的自衛権については「よせいやい」という気分なのだが、だからといって「このままでは日本にも徴兵制が」などと言う主張を聞くと「勘弁してくれよ」と思ってしまう。そういう荒唐無稽な話をしていると、伝えなきゃならない話も伝わらなくなってしまうのではないかな。