14年ぶりの家庭用『RPGツクール』はここまで進化していた!! 『RPGツクールMV Trinity』開発者インタビュー

著者:ゲーム★マニアックス編集部

PlayStation4/Nintendo Switch/Xbox One向けソフト『RPGツクールMV Trinity』(発売:株式会社角川ゲームス /開発:KADOKAWA、epics)が2018年11月15日に発売となる(Xbox One版は2019年初冬)。プログラミングなどの専門知識がなくても、オリジナルゲームを制作できる『RPGツクール』シリーズ最新となる本作には、どのような機能が実装され、どのような新要素が追加されているのか。同作のディレクター渡辺祐樹氏を直撃した。



▲KADOKAWA 『RPGツクールMV Trinity』ディレクター 渡辺祐樹氏

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いまの時代だから実現可能になった“PC版の完全移植”

──『RPGツクールMV Trinity』(以下『Trinity』)を開発するにあたってのコンセプトは?

渡辺 PC版『RPGツクールMV』(以下、PC版)の完全移植です。従来の家庭用ゲーム機版と違ってPCとほぼほぼ同じことができるので、そのまま移植しようということになりました。

──そうした判断に至るには、PC版自体の人気や完成度の高さも要因としてあったのっでしょうか。

渡辺 もちろんそれもあります。PC版は現在、全世界で30万本をセールスしている人気タイトルであり、タイトルに『MV』とついているからには、ユーザーさんは同じ内容を期待すると思います。

──従来の家庭用ゲーム機版『ツクール』シリーズとはコンセプトが異なるんですね。

渡辺 2016年にはニンテンドー3DS用の『RPGツクール フェス』をリリースしましたが、据え置きゲーム機ではPlayStation 2版『RPGツクール』(2004年)以来ということで、今回のリリースは大きなチャレンジでもあります。

──PC版というベースありきの『Trinity』、とのことですが、開発自体は順調だったのでしょうか?

渡辺 2016年の秋ごろからPlayStation 4版とXbox One版は開発スタートしました。最初は収録素材作成を優先させながら、でしたね。Nintendo Switch版は1年ほど遅れて2017年冬から着手しました。

全体を通してそんなに大きな問題はなかったのですが、終盤になればなるほど調整が必要になって……。一番の問題はマップ表示ですね。いまのコンソールは3Dグラフィック表示に特化しているので、機種ごとの2Dマップの描画処理のスピード確保には苦戦しました。

ゲーム制作初心者にも優しいコンシューマ・アレンジ

──コンセプトが“PC版の完全移植”とのことでしたが、どうしてもそのままというわけにはいかない部分もあるかと思います。そのあたり、どのような方針で家庭用ゲーム機向けにしていったのか教えてください。

渡辺 PC版では問題なくできるグラフィックやサウンドの素材の自由な出し入れや、プラグインの導入は、コンシューマハードではできません。そこはいまのところどうしてもクリアできない部分ですね。でも、そこがストレスにならないよう、他の部分で充実させる方向で調整しています。

なので今回は収録素材の量を大幅に増やしました。

具体的に言うと、素材量としてはざっとPC版の2倍以上です。PC版のデフォルト素材のテーマは「ファンタジー」と「SF」の2つでしたが、『Trinity』では「和風」「中華」「アラビアン」「現代」「スチームパンク」「ダークファンタジー」を追加しています。

すべての追加テーマに新作の背景タイル、敵キャラ、楽曲、キャラクタージェネレーター用素材を用意しているので、素材数としてはシリーズの過去類を見ない規模になっています。

──これだけバリエーションが充実していれば、イメージした大抵のゲーム世界は実現できそうですね。

渡辺 新規のキャラクターグラフィックは、今回のパッケージイラストに描かれたキャラ以外は、PC版の時と同じイラストレーターさんが担当しているということもあり、素材のタッチの不統一感は、ほとんども感じないと思います。

──ツールの操作方法は、PC版から根本的に変わりますよね。

渡辺 標準コントローラーでの操作については、開発の早い段階で試行錯誤がありました。当初はUIを大幅に変更する案もあったのですが、ユーザーさんはPC版と同じものを連想されるだろうと思い、ほとんど変えていません。

ただ、ウィンドウを複数表示させて行うのがつねとなっていた細かいイベント設定を、統合されたひとつのウィンドウ上でできるようにする……など、PC版で使いにくかったところ・できなかったことをなるべくシンプルにするよう意識はしています。コントローラーのキーコンフィグもできるので、慣れればかなりスピーディーに操作できると思います。

──PC版経験者であれば「なるほど」と納得がいく改良が随所にされている、と。

渡辺 そうですね。たとえば、ダメージの計算式もユーザーが任意に作成できるようになっているのですが、PC版のように所定の変数を用いた式を直接入力するのではなく、設定したい内容のコマンドを選択していくだけで作れるようになっています。

プログラムチックに組まないといけない部分をすべて言葉で表現してみせることで、よりわかりやすく、使いやすくなっているはずです。

──PC版で挫折した人も、これならなんとかいけるかもしれませんね。

渡辺 ぜひ戻ってきていただければと(笑)。『Trinity』には、これまでPC版アップデート時に追加されてきた準公式プラグインの便利な機能があらかじめ実装された状態で、各種設定用のコマンドが構成されている……という意味でもおすすめできます。

声優のボイスをソフト内で自由に使える“画期的”な仕様

──コンシューマ化にあたって、PC版からさまざまな改良・変更が加えられたとのことですが、「これこそ『Trinity』ならでは!」という特徴について教えてください。

渡辺 『RPGツクール』シリーズ初の試みとしては、キャラクターボイスとボーカル付きのBGMを素材として収録していることですね。これは単純に私が入れてみたかったから、です (笑)。

──シンプルな理由ですね(笑)。

渡辺 『Trinity』では、いままでに『RPGツクール』シリーズで出してこなかった部分も詰めたいという思いがありました。提案したら普通に採用されて、ラッキーでしたね(笑)。

PC版では独自の素材を入れている人もいましたが、公式として配布したことは過去に一度もありませんでした。今回は声優さんにお願いして、パッケージイラストに描かれている8人のキャラクターをイメージしたボイスを収録しました。

──ボイスのバリエーションはどのくらいでしょうか?

渡辺 戦闘中の掛け声から、「こんにちは」みたいなひとこと会話を含めて、各担当声優さんごとに35種類用意しています。

柿原徹也さんをはじめとするプロの声優さんたちの声を自作ゲーム内で自由に使えるというだけでも画期的なことですが、『Trinity』では音声のピッチ(再生速度)も変更できるんです。

──えっ!? そんなことができちゃっていいんですか!?

渡辺 柿原さんの場合、御自身が『RPGツクール』をご存じだったということもあるんですけど(笑)、所属事務所や出演声優の皆さんの理解があってこそ、今回のような取り組みができた、という面があります。


▲主人公のイメージキャラクター“カロル”のボイスを担当した柿原徹也さん
 

──ただキャッチーな素材が収録されている……というだけの話ではないんですね。

渡辺 歌も本当に入れたかった要素のひとつですね。某大作PRGをプレイして、ボーカル曲には煌びやかなカッコよさがあることを再認識しました。

同じことを現状の『RPGツクール』でやろうとするとかなりハードルが上がるので、作詞作曲や音作りの難しいところを公式として提供することを思い立ちました。


▲ボーカル曲の歌唱を担当したエリアンナさん
 

──そのほか、機能面で「これは」という特徴を教えてください。

渡辺 すっごい地味なんですけど、デバッグログ機能を実装しました。自身でテストプレイする際に表示をオンにしておくことで、イベントの会話や実行命令をログ形式で確認することができます。これはいままでの『RPGツクール』シリーズではなかった機能ですね。

あとは、プラットフォーム準拠のトロフィー/実績機能も実装しています。

──「ゲームを完成させた」みたいな実績が入るということですね。

渡辺 何をもって“完成”と判断するかは難しいところですが……。詳細はまだ言えませんが、ゲーム制作の過程の区切りごとにトロフィー/実績を獲得できるようになっています。

──たとえエターナっても(※作っているゲームが未完成のままうやむやになること。英単語“Eternal(永遠の)”にかけた造語)、すべてのトロフィーを解除した! みたいなことは……。

渡辺 可能ですね(笑)。

『RPGツクールMV Trinity』は成長するゲーム制作ソフト!

──『Trinity』で作ったゲームを他のユーザーに遊んでもらう手段として、プラットフォーム専用のオンラインストアから無料ダウンロードできる“RPGツクールMVプレイヤー”を介したインターネット配信を採用されていますが、これは『RPGツクール フェス』のやり方をそのまま踏襲したということでしょうか?

渡辺 『Trinity』の開発を進めながら『RPGツクール フェス』の利用状況も確認していたのですが、このやり方がとても機能していることがわかりました。

従来の家庭用ゲーム機版『RPGツクール』シリーズのネックだった「ゲームデータのやり取りのしにくさ」が解決され、不特定多数のユーザーに気軽に遊んでもらえるようになったことは、作る側のモチベーションにとってもプラスに働いたと思います。

『Trinity』ではゲームデータの共有サーバーを地域別ではなく全世界共通にしたので、より多くの人に作品を届けられるようになっています。

──『Trinity』で作ったゲームで“世界進出”できるというわけですね! その際、テキストのローカライズは……。

渡辺 自動翻訳機能は残念ながら用意していないので、言語ローカライズは個別対応が必要です。本体設定で対象地域を切り替えることで、システムキーボードで各言語でのテキスト入力が可能になります(Nintendo Switch版での韓国語、簡体字、繁体字の入力は将来的に対応する予定とのこと)。

──『RPGツクール フェス』では賞金が出るコンテストが開催されたり、ユーザーフォーラムが開設されたりと、クリエイターを支援するさまざまな施策がなされていました。『RPGツクールMV Trinity』でもそういったことは予定されているのでしょうか。

渡辺 コンテストはやりたいなと思っていますが、まだ具体的な予定は立てていません。現時点では、素材コンテンツを定期的に追加していくことによって、作れるゲームのバリエーションを増やしていければ、と考えています。

──素材コンテンツは、キャラクターボイスやボーカル曲が増えたりといったことも?

渡辺 反響次第な面もありますが、ぜひそうしたいですね。

──それは楽しみですね! 最後に、『Trinity』の発売を期待している皆さんにひとことお願いします

渡辺 従来の『RPGツクール』シリーズのユーザーさんのご意見を参考にしながら、より作りやすく、より遊びやすいものになるよう開発しました。ソフトの機能自体もリリースしたらそのまま、ということはないので、本作でゲーム制作を存分に楽しんでもらえれば嬉しいですね。


インタビュー、文●戸塚伎一

『RPGツクールMV  Trinity』公式サイト

©KADOKAWA CORPORATION 2018 / YOJI OJIMA 

※画面写真はすべて開発中のものです。

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