ミッドウェー海戦研究所

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自衛隊機開発秘話FSX編
FS-X(F-2)支援戦闘機の開発と教訓
2011.05.31(Tue)  松宮 廉
 
(1)からの続き

トピックス4

 以上主としてTSCで問題になったことをトピックスとして取り上げてきましたが、そのほかに大きい事象としては、平成3(1991)年から平成4(1992)年にかけての日本航空電子工業の武器不正輸出事件があります。
 
 イランへのミサイル部品の不正輸出が明らかとなり制裁措置が取られ、慣性基準装置の製造が危ぶまれたので、平成3(1991)年11月14日TSCの帰途ワシントンを訪れ、国防総省カール・フォード次官補代理に善処方を申し入れたことがありました。
 
 また、平成5(1993)年3月1日付でGDがロッキード社に買収され、GDFWがLMFWとなったこともありました。当時のロッキード社会長ほかの努力もあり、買収はFS-X開発に影響することなく順調に行われました。
 
 最後にマスコミに関わるトピックスですが、平成5(1993)年2月26日エグリン空軍基地での#8TSCの帰路、GDFW(後のLMFW)に立ち寄りました。
 
 2社が記者会見を希望しているというので、本国の了解を取る余裕はなかったが、地元の理解を深めFS-Xプログラムへの味方を増やすことも大切であると考えて受けることとしました。
 
 そして日米関係の重要性とFS-Xプログラムが日米防衛技術協力の Leading Program であることを述べましたが、取材に来たフォートワース・スター・テレグラム社とダラス・モーニング・ニュース社では報道内容が全く異なっており、翌日にはワシントンのTSC米国側委員長から電話で釈明を求められたことがありました。
 
 フォートワース・スター・テレグラム社は“Jockeying for Technology”(策略を用いて技術を手にいれる)“Japan may try to boost share FS-X fighter components”(日本はFS-Xの装備品シェアを増加させようとしている)と報道しています。
 
 一方、ダラス・モーニング・ニュースは私が話したことにほぼ忠実に、“FS-X Fighter work on schedule, Japan Officials says”(日本の高官はFS-Xは計画通り進行中と言及)と報道しています。
 
 このように、洋の東西を問わずマスコミというのは都合のいいことしか報道しません。
 
 この例に見られるように、自分の言いたいことをあらかじめ書いておいて、記者会見はやったという事実だけを利用して、自分に都合のいいところだけを「つまみ食い」するというのがマスコミの常套手段です。現役の皆様におかれましては、くれぐれも御用心なさることを切望します。
 

トピックス5

 次のトピックスはエンジン選定です。エンジン選定は平成2(1990)年6月20日P&W社、GE社に対して提案要求を行い、同年8月22日提案書を受領して評価作業に入り、同年12月21日GE社製のF110-GE-129を採用することを公表しました。
 
 P&W社がF100-220エンジンをベースとするF100-229を、GE社がF110-100エンジンをベースとするF110-129を提案してきましたが、ベースエンジンは両方とも米空軍のF-16Cに採用されており、いずれを採用してもおかしくはない状況でした。
 
 しかし航空自衛隊にとっては、FS-XはF-104以来の単発機であり、特に安全性を重視する必要があったことから、より熟成度の高いエンジンを採用することとしました。
 
 当時F100-220搭載のF-16では約5万時間に1件、F110-100搭載のF-16では約37万時間に4件の事故が発生しており、単位時間当たりの事故発生件数はGEの方が少ないこととGEの方が鳥吸い込み時の推力低下が小さいこと(重さ1.5ポンドの鳥でGEは7.8%のロス、P&Wは23%のロス)、さらにはGEのF110は-100と-129の間に約80%の共通部品があり、P&WのF100は-200と-229の間の共通率は34%と新規エンジンに近いものであることなどから、GEのF110-129の方がより熟成度が高く比較的安全性が高いと判断しました。
 
 なお、コストについてはLCCベースでGEの方がP&Wより10%程度高かったのですが、安全性は何物にも代えがたいことからGE製のエンジンを採用しました。FS-Xでは試験および運用段階でエンジンに起因するトラブルはあまりないようですので、選定は誤りではなかったと安堵しています。
 

トピックス6

 最後のトピックスとして、技術/実用試験段階および運用段階で生じた各種不具合とその対応について述べてみたいと思います。
 
 これらの状況は現役の皆様方の方が詳しいのでしょうが、私としては皆様方に教訓としてぜひ記憶にとどめておいていただきたいものですから、事実関係としては、若干正鵠を欠くところがあるかもしれませんが、御容赦願いたいと存じます。
 
 機体関係では、主翼複合材構造の破壊問題、横転性能不足と垂直尾翼、後胴のトルク過大の問題等が生じ、技術/実用試験を3回にわたって延長することとなり、最終的に技術/実用試験は平成12(2000)年6月末までとなったことは御案内の通りです。
 
 これらの機体関係の改善対策はECPとして採用され、C-1契約以降の量産機に適用されることとなったそうです。
 
 レーダー関係では、世界初のアクティブ・フェーズド・アレイ・レーダーを採用したことで世間の注目を集めましたが、実情は当時の担当者は大変な苦労を強いられたようです。
 
 技術的に合格と言っても、実用に供し得なければ合格とはならないのが当然ですが、製造会社の三菱電機も実情を認識せず、三菱重工に至っては官給品でもあることから機体関係の不具合ほど全力を投入した形跡は見られないのです。
 
 量産機が平成12(2000)年度三沢基地に配備されて以来、空幕は実行予算で受信器と信号処理器の間のデータを記録できるデータレコーダーを購入して定量的なデータを把握するとともに、「技術的追認試験」としてCPUの高速化、OFPの改修等を行い、レーダーの性能・機能の改善を図ったようです。
 

 さらに、空幕は平成15(2003)年度から「F-2へのAAM-4搭載事業」の開発要求を技本に対して行い、レーダー性能はさらなる改善向上が見込まれる予定であり、平成23(2011)年度予算で40機分のレーダー改修予算を要求中であり、いずれレーダーはAPG-1からAPG-2に換装されるとのことです。


(3)へ続く
 
JBpress.ismedia.jpより引用
 
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