『キバ』の感想記事を全て書き終わったので、後半評をば。第25話「ファンファーレ・女王の目醒め」から、第48話「フィナーレ・キバを継ぐ者」までの所感です。
本稿では「時間軸の切り替え」についてと『キバ』&『ビルド』最終話感想で書かなかった「第48話」について書こうと思います。
sebaooo-tatoba-combo.hatenablog.jp
■時の列車は「野比机の引出し」
工夫したのは'86年の描写です。'86年って、僕はちょうど働き始めた頃で、リアルによく覚えてる。だからこそ、当時のリアルをやろうとしちゃうんですよ。衣装や髪型も、演出部が当時の雑誌をたくさん探してくれて、肩パットやとさか頭を再現しようとしてた。でも途中で、「子どもたちにとっては、'86年は大昔なんじゃないか?その感覚でやったほうがいいかな」と思い直したんです。だから後半は、桐生とかの古い蔵作りの街に行って(わかりやすく "昔" を感じる画を)撮ったりしましたね。
(田崎竜太『仮面ライダーキバキャラクターヴィジュアルガイド3(Celebrate)』より)
桐生とは群馬県東部の市であり、上毛かるたで「桐生は日本の機どころ」と詠われるほど絹織物で有名な、“伝統と創造、粋なまち”である。
…とまぁ、ニワカ知識はさて置き、『キバ』前半の過去篇では「バブル時代」を強調したシーンがよく見られたけど、…正直、過去を強調するシーンとしては機能していなかったのよね。
だから、過去篇は大昔として(わかりやすく“昔” を感じる画を)撮るべき、というのは大正解なんだけど、如何せん気付くのが遅過ぎた…!しかも、田崎竜太しかやっていないしね…!パイロット版でそうしていたら、『キバ』の「時間軸の切り替え」はもっと解り易いものになっていたかな?
しかも、『キバ』前半でやっていた「これから時間軸を切り替えますよ!」演出を、後半ではあまりやらなくなっちゃうのよね…!
※関連記事です。
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これは「バーバー桐生」(つまんね~!)。
突然だが、ここで『ドラえもん』(作:藤子・F・不二雄)の話をしよう。
ドラえもんはのび太の机の引出しからやって来る。なぜ窓や襖(ふすま)ではなく机の引出しだったのか?
通常、机の引出しは物を入れる場所であり、人が入る場所ではない。というか、人が入ることができない。
机の引出しに入るという行為は<非日常>的であり、それがタイムトラベルとマッチするのだ。
一般的に、子ども(児童)は創作物で「時間軸の切り替え」がなされた、ということを認識するのが難しい、とされる。
『ドラえもん』の世界では、机の引出しに入る=タイムマシンに乗って過去や未来に行くというルール付けがされている。
ドラえもんやのび太が「机の引出しに入る」という行為が、「これから時間軸を切り替えますよ!」という合図なのだ。
これと近しい事をやっている平成『仮面ライダー』がある。『仮面ライダー電王』だ。
『電王』では、タロスズや野上良太郎がデンライナーに乗る(デネブや桜井侑斗がゼロライナーに乗る)という行為が(第02話よろしく)「ライド・オン・タイム」する合図なのである。
時の列車は「野比机の引出し」なのである。故にタイムリープも難しく感じないのだ。
『キバ』はタイムトラベル(リープ)モノではないが(たまにするけど)、『ドラえもん』の「机の引出し」に相当するものがあれば(キャッスルドランがあるけど)もっと解り易くなったのではなかろうか?
あの、天上天下唯我独尊男な井上敏樹も『キバ』では反省しているしな…!
――演出的にも序盤は監督陣に若干の戸惑いが感じられたというか、現代と過去の切り替え描写がエピソードごとに違ってたりしてましたね。
井上 そこは監督も悩んでたみたいだね。まあ、教訓としては、あれだけ難しいことをするなら、最初から最後まで視聴者に「わかったよね?」という傲慢さを押しつけてはいけないってことだよ。
(井上敏樹『仮面ライダーディケイド&平成仮面ライダーシリーズ10周年記念公式読本』より)
(まぁ、『キバ』は現在篇と過去篇を「同時並行で描く」がコンセプトだからそれ(『電王』みたいなこと)は最初から出来なかったのかもしれない。)
…はい、というわけで、いよいよ『キバ』最終話感想・真です!
■『キバ』最終話感想・真
[2009年01月18日]第48話「フィナーレ・キバを継ぐ者」
(脚本:井上敏樹、監督:石田秀範)
ラストの結婚式については、「ちょっと雰囲気の違うものになると思っていたのに、(明るくて)意外だった」と何人かから言われました。僕の演出は、人から聞くところによると、悲劇のほうへ悲劇のほうへと行くらしい(笑)。自分で意識はしていないんだけどね。
ただ『キバ』は、(登場人物が)人を信じられなくなったり、人と衝突することの多い話だった。だから、(演出していて)鬱屈したものがたまっていたんですね。たぶんそれで、最後は明るく幸せに終わりたい、解き放ちたい、っていう意識があったのかもしれない。だから自然と最後は、バカみたいに明るいハッピーエンドになったんだ、と思います。
(石田秀範『仮面ライダーキバキャラクターヴィジュアルガイド3(Celebrate)』より)
『アマゾンズ』を撮った男とは思えない発言だな…!
まぁ、時が経てば思想も変わる、ということで…!第47話のラストで「僕がキングだ!」と宣言した渡。その心意は、太牙を守るためだった。ビショップが復活させたバットファンガイアを倒した太牙と渡、二人の異父兄弟はお互い殴り合って和解し、太牙(D&P)はライフエナジーに代わる新エネルギーの開発を目指す――。
一方、第47話で目がボヤボヤ病になる(『アギト』終盤の氷川誠みたいになる)名護さんは、メグミンと特訓&共闘し、ついにビショップを倒す。…そしてまさかの二人の結婚式ですよ!
メグミンから名護さんへのキスシーン、リハーサルでは頬っぺたにキスをしていた柳沢ななだったが、本番では唇に!名護さんの照れは、加藤慶祐自らの照れでもあったのだw
井上敏樹らしからぬハッピーエンドだ…!まぁ、実際は以下のやり取りがあったというのは有名な話だが、
井上敏樹「名護は死ぬ!太牙&真夜も死ぬ!渡はハンターに追われ続ける!」
武部直美「殺さないで!」×50
これに関しては、武部直美はGOOD JOBだったと思う…!
結果的に『アギト』や『555』の先(人間と怪人の共存エンド)を描けたわけだし。
井上敏樹もこんな発言をしているしな…!
宇野 『キバ』は武部(直美)さんにハッピーエンドにしろって言われたって前にインタビューかなにかでおっしゃってましたけど、あれはどうなんですか?
井上 プロデューサーはハッピーエンドが好きなんだよ。視聴者の裏の裏は見ない。でも『キバ』はあれでよかったと思うよ。悲劇だと悲劇すぎるからな。
(宇野常寛・井上敏樹『ユリイカ2012年9月臨時増刊号 総特集=平成仮面ライダー』より)
■伊上勝「もう書けない。お前(井上敏樹)が書け。」
『仮面ライダースーパー1』を書きはじめたある日、父はひどく酔っぱらって仕事から帰って来た。腰が抜けたようにリビングの床に座り込み、だが、顔はニタニタと笑っていた。それは父が自分の弱さをさらけ出す時によく見せる自嘲に近い笑いだった。「もう書けない」と父は言った。これからの生活はどうするのかと責める母の言葉に、父は力なく私を指さして続けた。「お前が書け」と。
しばらくして私は本当にシナリオを書き始めた。大学二年の頃だ。東映の七條さんが私の短編小説を読み、結構気に入ってくれて『Dr.スランプ アラレちゃん』を書いてみないかと声をかけてくれたのだ。だが、私はまだ半人前とも言えないような新人でとても父の代わりに家族を支える事など不可能だった。
(井上敏樹『伊上勝評伝 昭和ヒーロー像を作った男』より)
昭和ライダーの脚本を書いた伊上勝の息子、井上敏樹は後に平成ライダーの脚本を書くことになる。
『キバ』とは、昭和&平成ライダー(ライター)の物語である!
■オマケ:「まさお」は漢字でどう書くのか?
『キバ』最終話のラスト、22年後からやって来た紅渡の息子「まさお」は、
(一)正しい夫(おっと)と書いて「正夫」説
(二)正しい音(お と)と書いて「正音」説
の二説がありますが、
「監督と相談して、最初康史(=瀬戸くん)がかっこいい名前を出したんですけど、『かっこよすぎ』で却下(笑)。で、監督が『まさおがいい』と言ったんです。漢字は僕が『正しい夫で』と提案」
(武田航平『仮面ライダーキバキャラクターヴィジュアルガイド3(Celebrate)』より)
紅正夫(くれないまさお)が正解です!
正夫のディティールは、武田航平や石田秀範、その他スタッフが作っていったという。
武田航平曰く、22年後は地球が滅んでいるそうで(マジで!?)、衣装は「未来の戦闘服」のイメージ、『ドラゴンボール』(未来トランクス編)や『PSYREN』(サイレン世界)など、漫画にヒントを得たという。…『PSYREN』!?武田航平が「岩代俊明」作品を読んでいるなんて…!
武田航平的には、未来の戦闘服イコール「ダウン」なのね(笑)。ハーフパンツは弟さんから借り(兄だけでなく弟もいたのか…!)、靴はスタッフが前日に買ってペイントしたとのこと。髪はウイッグ(そりゃあそうか)。首のストールは「渡が巻いているから、正夫も巻いて」と、スタッフの指示とのこと(良い仕事だ!)。
ただ、一つ問題が。
「俺、別の映画の撮影のせいで真っ黒に日焼けしてたんです。だから正夫がギャル男みたいになっちゃった(笑)。それを自分で見たときに、『爽やかじゃない、もうダメだ……じゃあやりたい放題やろう!』と思って、スイッチを切り替えました。監督も、『もうお前の好きなようにやれ!』って盛り上げてくださった。そうやって、みんなの力をひとつに合わせて作ったのが正夫なんです!」
(武田航平『仮面ライダーキバキャラクターヴィジュアルガイド3(Celebrate)』より)
『キバ』未来(紅正夫)篇が見てぇ~!
Vシネマとかで出してよ~!キバットバットIV世とか付けてさ~!『電王』11周年とかやっている場合じゃあないよ!それが無理なら『ジオウ』でやってくれ~!武部直美も参加しているし…!『ビルド』のカズミンを見るに、現在(いま)の武田航平で普通に成立しそうな気もするし…!脚本は勿論井上敏樹で(笑)。
でも、実現しないだろうなぁ…!以上、『キバ』後半評でした!
[了]
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