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第10回 | ジャガーの最新車デザイン・性能情報をお届け

ジャガーI-PACE──これが名門英国ブランドのEV戦略

ジュネーブモーターショー2018で発表されたジャガー『I-PACE』を目にしたとき、既視感を覚えた人は多いことだろう。それもそのはずだ。そのエクステリアは、2016年のロサンゼルスモーターショーで発表されたコンセプトモデル『I-PACE コンセプト』、ほぼそのままなのだから。当時、「スーパーカーの外観とパフォーマンス、SUVのスペース」を備え、 従来の常識に捉われない電気自動車と謳われたジャガー初のEVは、その後、ニュルブルクリンクをはじめとする世界各地でのテスト走行をスクープされた。それだけに、「いつ出るのか」という渇望感が高まったわけだが、ついにそのベールを脱いだ。

ジャガーを「EV革命の最前線」へと飛躍させる歴史的な新型モデル『I-PACE』

高級EV市場を作り上げ、牽引しているのは間違いなくテスラだろう。そのテスラに真っ向から勝負を挑むのが、ジャガー初のEV、『I-PACE(アイ ペイス)』だ。

現時点では、ジャガーが持つブランド価値とヒストリーが、次世代技術であるEVにプラスに働くかどうかはわからない。テスラのようなスタートアップこそ、EVにふさわしいブランドといった考えもあるだろう。

それでも、カーガイならば、96年の歴史を刻んできた高級車ブランドが本気で手がけるEVに期待をしてしまう。

その期待は裏切られることはなかった。いわく「ジャガーをEV革命の最前線へと飛躍させるモデル」。走行中に発生する排気ガス、CO2、微小粒子状物質をすべてゼロにすることで、クリーンで安全、持続可能な未来に貢献するという理念だけを追い求めるのではなく、「自動車」として完成度も追求した。

そのひとつが、EV最大の弱点である航続距離の克服である。最先端の90kWhリチウムイオン・バッテリーを搭載し、480kmという航続距離を実現(WLTPサイクル=欧州各国や日本の走行データを基にした国際調和サイクル)。100kWのDC急速充電はわずか40分で、家庭でも10時間あまりで0%から80%まで充電ができる。

バッテリーを長持ちさせる工夫は随所にある。たとえば、車内の温度調整。ヒーターとエアコンは電力を消費するので、『I-PACE』は出発前の充電時に車内の温度を事前調整する機能を備えている。 また、極端な高温・低温はバッテリーの持続時間を短くするが、高度な温度管理システムにより、バッテリーを適切な温度に保ち、航続距離に対する外気温の影響を最小限に抑えた。

同価格帯のプレミアムSUVを大きく上回る『I-PACE』の極めて高い動力性能

このバッテリーは、前後アクスルの中央に低く設置し、低重心化に一役買っている。加えて、前後の重量配分が50:50になるように設置場所を調整することで、俊敏な操作性につながっている。

動力源は前後アスクルにそれぞれ設置されたモーターだ。システム合計の最高出力は400PS、最大トルクは696Nm。0-100km/hの加速はわずか4.8秒を実現した。

ちなみに、価格帯が近いクルマと比べると、3L V6ツインターボエンジンを搭載したアウディのプレミアムミッドサイズSUV『SQ5』の最高出力が354PS、最大トルクは500Nm、0-100km/hは5.4秒。この比較からも、『I-PACE』の動力性能の高さが見てとれるだろう。

モーター以外でも、コーナリング時に内側の前輪と後輪にそれぞれブレーキをかけることで、車両の旋回力を向上させたり、加減速、ステアリング、スロットル、ブレーキ操作を1秒間に最大500回モニターし、電子制御ダンパーがサスペンションの設定を調整したりする機能を搭載した。

快適性、洗練性、操縦性を最適なバランスに保つ「アダプティブダイナミクス」も備えている。高速走行時に一定時間以上の速度で一定時間以上走行すると、車高が自動的に10mm下がり、安定性を向上させてくれる(オプションのアクティブエアサスペンション搭載車)。

走行性能の向上はオンロードだけではない。SUVらしく、滑りやすい路面などの悪条件下であらかじめ設定した速度を維持する「オールサーフェイスプログレスコントロール(ASPC)」を搭載。3.6km/hから30km/hの低速でクルーズコントロールのように機能し、ドライバーはステアリング操作に集中できる。

また、「ロートラクションローンチ」は、濡れた路面、草地、雪道、凍結路などの滑りやすい状況でトルクを最適に制御し、スムーズな発進を可能にした。

幻のPHEVスーパーカー『C-X75』からインスピレーションを得たデザイン

動力性能の高さは、デザインにも表れている。エクステリアのモチーフになったのは、プラグインハイブリッドのスーパーカーコンセプト『C-X75』だ。

2010年秋のパリサロンで披露されたこのコンセプトカーを覚えているなら、かなりのジャガー通だろう。『C-X75』は結局市販化されることはなく、幻のスポーツカーなどと呼ばれたが、その理念は『I-PACE』へと引き継がれた。

たしかに、『I-PACE』はSUVでありながら、クーペのような流線型のシルエット、短く低いボンネット、空力を強化したルーフデザイン、曲線状のリアスクリーンを備えている。流麗なフェンダーからなる低めのキャビンは、躍動感を醸し出し、引き締まったウエストラインへと続く。

これらのデザインは、すべて空力性能の向上につながっている。内向きに弧を描く大胆なグリルも、ボンネットのエアフローを最適化するものだ。ボンネットを抜けた風は、空力性能を追求したルーフラインのカーブに沿ってスムーズに流れる。結果として、個体の抗力特性を表す空気抵抗係数(Cd値)は、スポーツカー並みの「0.29Cd」を実現した。

あえて近未来感に背を向ける英国のオーセンティックな高級車メーカーの矜持

インテリアはジャガーらしく、シックで落ち着いた雰囲気。無理をして近未来的なデザインにまとめようとしないところに、英国に出自を持つオーセンティックな高級車メーカーの矜持を感じる。

騒音を低減する先進の密閉型モーターや、風切り音を最小限に抑えるシャープなエクステリアデザインによる室内静寂性も特筆すべき点だ。EVの利点である静かさが最大限に生かされている。

車内空間はミドルクラスのボディサイズとは思えない、ワンランク上の広さだ。その秘密は、EVの特性にある。モーターが動力源なので、リアにはトランスミッショントンネルが存在せず、それにより890mmの広いレッグルームを実現した。また、10.5Lのストレージ・コンパートメントも備えている。リアのラゲッジスペース容量は656L。後席を折り畳んでフラットにすると1453Lまで拡大する。

Amazon Alexaとも連携、コネクティッドカーの未来を感じさせるAIの活用

テスラを追撃する『I-PACE』だけに、コネクティビティも重要な要素だ。

インフォテインメント・システムには、ダッシュボードの10インチタッチスクリーンとマルチファンクションダイナミックダイヤル付の5インチタッチスクリーンを統合した「TOUCH PRO DUO」を採用した。また、予測航続距離、充電状況、充電速度、電源の状況などの情報はスマートフォンからも確認できる。

ユニークなのは、AIアルゴリズムを利用した「スマート・セッティング」だ。個々のドライバーの習慣や過去の走行ルートなどを学習し、自動でドライビングや車内の設定を調整してくれる。

スマートスピーカーの「Amazon Alexa」とも連携し、「クルマのカギはかかっている?」「充電レベルはどのぐらい?」「今の充電レベルで、会社まで走れる?」などと聞けば、Alexaが回答してくれる。

ジャガー・ランドローバー・ジャパンのホームページを見ると、現時点では『I-PACE』の販売価格はまだ未定。英国での販売価格は6万3495ポンド(税別)とされているので、1000万円前後になりそうだ。

ジャガー・ランドローバーは「自動車業界における自動運転、コネクティビティ、そして将来の電動化のリーディング・カンパニーになる」というコミットメントを掲げている。その第一歩となる『I-PACE』は、ブランドの歴史に残る一台になるはずだ。

Text by Tsukasa Sasabayashi
Photo by (C) Jaguar Land Rover Automotive PLC
Edit by Takeshi Sogabe(Seidansha)

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第13回 | ジャガーの最新車デザイン・性能情報をお届け

ジャガーEタイプ ゼロ──これが世界で最も美しいEVだ

「世界で最も美しい」は、容姿、景色、芸術、さらには科学実験など、ありとあらゆる事象に対して用いられる形容詞だ。電気自動車(EV)なら、その表現は差し詰めこのクルマにこそふさわしいのではないか。ジャガー『Eタイプ ゼロ』。今年5月に執り行われたヘンリー王子とメーガン妃のロイヤルウェディングに登場した電動バージョンの『Eタイプ』だ。2017年にコンセプトモデルとして発表されたが、顧客からリクエストが相次いだことにより、ついにジャガーが少量生産ながらも市販化を決断した。“世界で最も美しいEV”の誕生である。

見た目は“世界で最も美しいクーペ”のまま。ファンが待望した『Eタイプ ゼロ』

ジャガーは、『Eタイプ ゼロ』はコンセプトモデルだと強調してきた。しかし、ロイヤルウェディングに登場したことにより、「もしかして?」と思った人もいたかもしれない。8月下旬に開催されたモントレー・カーウィークのイベントのひとつ、ザ・クエイル・ア・モータースポーツ・ギャザリングで『Eタイプ ゼロ』の実車が披露され、市販化が正式に発表された。

背景には顧客から寄せられた市販化の要望があったようだ。開発を担当するジャガー・ランドローバー・クラシックのディレクター、ティム・ハニグ氏は、「ジャガー Eタイプ ゼロ コンセプトへの肯定的なリアクションには驚きました」とコメントしている。

『Eタイプ ゼロ』のルックスは、ご覧のとおり、1960年代に生産され、「世界で最も美しいクーペ」と呼ばれた名車『Eタイプ ロードスター』そのもの。つまり、これは往年のクラシックモデルにレストアを施し、そこへ最新の電動パワートレインを搭載したEVなのだ。「世界で最も美しいEV」であり、「最新のクラシックカー」といってもいい。

限りなくオリジナルモデルの『Eタイプ ロードスター』に近いドライブフィール

搭載されるのは、電動コンパクトSUV『I-PACE』のシステムをベースに開発された電動パワートレイン。とはいえ、単にモーターやバッテリーを『Eタイプ』に移植したわけではなく、スタイリングからドライブフィールまで当時の雰囲気を損なわないように配慮されている。

具体的には、リチウムイオンバッテリーを『Eタイプ』の直列6気筒「XK」エンジンと同じサイズと重量に設計し、その後方、もとのトランスミッションがあった場所に電気モーターを配置した。それにより『Eタイプ』と同じ前後重量配分を実現。さらに、サスペンションやブレーキを変更せずに電動化を行ったことで、オリジナルに近いドライブフィールを維持しているという。

見た目は往時と同じでも、バッテリーの搭載位置が違えば重量配分が変わり、また重たいバッテリーによってサスペンションを強化すればやはり別のクルマになってしまう。オリジナルのフィーリングを大切にした点に、ジャガー・クラシックの見識と技術の高さが伺える。

この“設計の妙”により、モーターとバッテリーからガソリンエンジンに変更することも可能という。つまり、いつでもオリジナルモデルの『Eタイプ ロードスター』に戻せるということだ。リチウムイオンバッテリーの容量は40kWhで、充電時間は通常充電で6~7時間、フルチャージからの航続距離は270km。モーターの最大出力は300hpとアナウンスされている。

『Eタイプ ゼロ』のデリバリーは2020年夏を予定。価格は4000万円以上になる?

パワートレインとバッテリーを除くと、『Eタイプ ゼロ』で“最新”を感じさせるのは、エクステリアではLEDヘッドライト、インテリアでは『I-PACE』譲りのダイヤル式シフトセレクター、オプションで装備されるタッチスクリーン式のインフォテイメントシステムのみだ。

ただし、顧客が希望すれば、オリジナルモデルの装備も選択できる。「車両ごとに顧客の好みのカスタマイズが提供される」とジャガー・クラシックはアナウンスしている。

デリバリーは2020年夏からを予定しており、詳しいスペックや価格は未発表。2017年に発表されたフルレストアモデル『Eタイプ リボーン』が28万5000ポンド(約4252万円)だったから、それ以上になることは間違いない。なお、『Eタイプ ゼロ』の生産は、ジャガーの本拠地である英国コヴェントリーの「クラシック・ワークス」で行われる。

Text by Muneyoshi Kitani
Photo by (C) Jaguar Land Rover Automotive PLC
Edit by Takeshi Sogabe(Seidansha)

動画はこちら
Jaguar E-type Zero オフィシャル動画
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