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第36回 | 大人ライダー向けのバイク

これが米国魂──Jack Daniel仕様のスカウト ボバー

インディアン・モーターサイクルがテネシーウイスキー「ジャック・ダニエル」仕様の限定モデル、『ジャック・ダニエル リミテッド・エディション スカウト・ボバー』を発売した。クルマもオートバイも「飲んだら乗るな」が常識である。オートバイとウイスキーの組み合わせは一見タブーのように思うかもしれない。ところが、ともにアメリカの老舗メーカーであるインディアンとジャック・ダニエルのコラボレーションは、これで3回を数える。そこには、ジャック・ダニエルという酒造メーカーに対するアメリカ人のリスペクトがあるのだ。

ハーレーダビッドソン以上にアメリカ人の魂を揺さぶるオートバイ「インディアン」

今から70年ほど前の1940年代、インディアンは世界一の生産量を誇るモーターサイクルメーカーだった。レースシーンでも数々の記録を打ち立て、ハーレーダビッドソン以上にアメリカ人の魂を揺さぶる存在と考えるファンも多い。

しかし、自動車の普及に伴い売上高が年々減少していき、1959年に一度は解散を余儀なくされている。その後も再興と倒産を繰り返し、商標権もさまざまな事業者や投資家の手に渡るという数奇な歴史をたどってきた。

経営が安定したのは、2011年にスノーモビルの大手メーカーとして知られるポラリス・インダストリーズの傘下となって以降のこと。資本力の大きさと開発力から、現在は販売実績も好調だ。曲折はあったものの、無事にアメリカ企業のブランドとなり、多くのインディアンファンは胸をなで下ろしたに違いない。

インディアンがジャック・ダニエル仕様モデルを発表するのは、2016年の初代から数えてこれで3台目だ。その理由は、アメリカンモーターサイクルのインディアンにとって、ジャック・ダニエルが敬意を感じざるを得ない存在だからである。

誇りある製品を自分たちの手で守り続けてきた「ジャック・ダニエル」の従業員たち

ジャック・ダニエルは、バーボンウイスキーと基本的な製法は同じだが、テネシーウイスキーとしてケンタッキー州のバーボンと分けられている銘柄だ。

創業は1875年。1904年には万国博覧会で金賞を受賞してアメリカンウイスキーの代名詞的存在となった。しかし、その後の禁酒法時代(1920年〜1933年、テネシー州は1910年から)になると、蒸留所が閉鎖され、倒産の危機を迎えたこともある。それでも、政府の酒類定義にも屈せず、頑なに自分たちの製法を守り続けてきた。

その特徴のひとつは、原酒を樽詰めする前に「自社製造によるトウカエデの炭」で濾過する製法にある。自社で炭焼きを行い、しかも大量のアルコールを貯蔵することは、常に火災の危険を伴う。それゆえに、ジャック・ダニエルでは創業間もないころから従業員有志による「Fire Brigade(消防隊)」が存在してきた。誇りある製品は、自分たちの手で守るのである。

この従業員の情熱と伝統に敬意を表したモデルが『ジャック・ダニエル リミテッド・エディション スカウト・ボバー』だ。2016年に創業150周年を迎えたジャック・ダニエルとその消防隊に対するオマージュともいえるだろう。

タンクやフェンダーに配された「ジャック・ダニエル消防隊」の24金のエンブレム

ベースは人気モデルの『スカウト・ボバー』。ボバースタイルはこの10年ほどの間にアメリカやヨーロッパに定着したカスタムスタイルだが、その起源は1920年代にさかのぼる。

インディアンにとってはむしろ根源的なスタイルといえるので、『スカウト・ボバー』は発売時から世界的に注目を集めた。ボバーらしく、フェンダーをはじめ多くのパーツをできるだけカットして排除し、シンプルで軽快な外観に仕上げている。

『ジャック・ダニエル リミテッド・エディション』は限定モデルらしく、ハンドルレバー、リアフェンダー、ヘッドカバー、マフラーエンドなどをオリジナルのマットブラックで塗装。フューエルタンク、フェンダーなどに配された「Jack Daniel’s Fire Brigade(ジャック・ダニエル ファイア・ブリゲード)」のエンブレムは24金だ。さらに、グリップエンドやフットペグには、ジャック・ダニエルの伝統的な「Old No. 7 Brand」の刻印が刻まれている。

このカラーリングは消防隊が配備する消防車のカラーがモチーフだが、注目すべきはツヤ消しとツヤありのブラック塗装をセンス良く配し、それによって消防隊のイメージと見事にリンクさせていることだ。「煤けた廃墟」もイメージさせるが、それがまたクールさを醸し出している。

限定モデルのオーナーにプレゼントされる名前入りの「ファイヤーマン・アックス」

『ジャック・ダニエル リミテッド・エディション』は世界限定117台の販売だが、運良く手に入れられたオーナーにはもうひとつ、ユニークなプレミアムがある。

それは一台ずつ「Jack Daniel’s Fire Brigade」のロゴが刻まれたファイヤーマン・アックス(消防隊用の斧)が贈呈され、そこにオーナーの名前とシリアル番号(#001~#177)、車両識別番号(VIN)も刻印されることだ。このプレゼントはほかの限定モデルでは考えられない。

ジャック・ダニエルの本社があるテネシー州のムーア郡は、現在も自治法として禁酒法の一部が生きている「ドライ・カウンティ(禁酒郡)」と呼ばれる地域だ。蒸留所に行っても試飲することが許されていない。

厳しい環境のなかで愛され続け、企業として敬意を抱かれるテネシーウイスキーにあやかりたい気持ちは、インディアンのみならず、すべてのアメリカ人も同じなのではないだろうか。

Text by Koji Okamura
Photo by (C) Indian Motorcycle
Edit by Takeshi Sogabe(Seidansha)

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第69回 | 大人ライダー向けのバイク

ドゥカティ ディアベル1260──悪役感溢れるクルーザー

クルーザーとは、平坦で長い直線道路を巡航(クルーズ)することに重点をおいたオートバイのスタイルのことだ。ハーレーダビッドソンやインディアンをイメージするとわかりやすいだろう。広大な北米大陸で発達したことから、日本ではアメリカンバイクとも呼ばれている。それをイタリア流のセンスによって味つけしたのが、ドゥカティ『ディアベル』である。従来のクルーザーと一線を画す独創的なデザインをもつ『ディアベル』は、2011年にデビューするや世界中で大ヒット。そして今回、第二世代へと進化した。

クルーザーでも「走りはやっぱりドゥカティ」。ファンの期待に応えるキャラクター

2010年にEICMA(ミラノモーターサイクルショー)で発表された初代『Diavel(ディアベル)』は、斬新なデザインだけではなく、従来のドゥカティのイメージと異なるクルーザージャンルに挑戦したモデルとして話題を集めた。じつは、ドゥカティは2014年にフォルクスワーゲングループに属するアウディに買収され、その傘下となっている。レース由来のスポーツモデルというブランドのアイデンティティを脇に置き、経営戦略を優先した結果の新型車と見る者が多かったことも、注目された理由のひとつだったのだろう。

しかし、初代『ディアベル』は見た目以上にスポーティで、実際にライディングを味わった人々からは「やっぱり走りはドゥカティ」との評価を得ることが多い。そうしたユーザーの声は、期待どおりのキャラクターに仕上げられていることを証明するものだ。

その『ディアベル』が第二世代へと進化した。ドゥカティは3月に開催されたジュネーブモーターショーで2019年モデルの発表を行ったが、そこで専用スペースを与えられ、ショーのアイコンモデルとしてお披露目されたのが『ディアベル1260』だ。しかも、2014年のようなマイナーチェンジではなく、すべてを見直した2代目としての登場である。

低回転域でもパワフルな排気量1262ccの「テスタストレッタDVT」エンジンを搭載

アイコニックな外観は、シルエット自体に大きな変化はない。しかし、全体にボリュームアップしており、重量感も増していると感じる。トレリス(格子状)フレームもまったく新しくなり、ぱっと見た印象としては、よりヒール(悪役)感が演出されているようだ。短いシートエンドとスラッシュカットで跳ね上がるサイレンサーエンドは、リアまわりをすっきりとさせた。同時にマスが凝縮されているようで、鍛えられた筋肉を連想させる。

その細部への作り込みによる質感の高さが評価されたのか、『ディアベル1260』は第二世代であるにもかかわらず、ドイツの権威あるプロダクトデザイン賞「Red Dot Award 2019:Best of the Best(レッド・ドット・デザイン賞)」にも輝いているくらいだ。

エンジンは、初代から継承されてきた排気量1198ccの水冷L型ツインからスープアップされ、1262ccの強力な「テスタストレッタDVT」エンジンを搭載。それにより、最高出力は従来の152hp/9000rpmから159hp/9000rpmへ、最大トルクは12.5kgm/8000rpmから13.2kgm/7500rpmへとそれぞれ高められている。車体重量はドライウエイトで218kgもあるが、これだけのトルクがあれば低速域でも軽快に扱えるはずだ。

ドゥカティ自身も新エンジンについて、「息を呑む加速とスムーズな低回転域のパワー特性を備え、日常ユースにも長距離ツアーにも対応する」としている。そのパワーを受け止めるのは、『ディアベル』のトレードマークである極太のリアタイヤだ。クルマ並の240mmという超ワイドタイヤを装着し、ボッシュ製のコーナリングABSも標準装備された。

特別なコンポーネントを与えられたスポーティ仕様車『ディアベル1260 S』も設定

新型には標準仕様に加えてスポーティな「S」バージョンも設定された。こちらには、専用のシートとホイールが与えられるほか、ブレンボ製M50ラジアルマウント・モノブロック・ブレーキ・キャリパー、オーリンズ製サスペンションなどを装備。さらに、クラッチ操作をせずに変速できる「クイックシフトアップ&ダウンエボ」も標準装備される。

『ディアベル1260』は、すでに1月半ばからボローニャにあるドゥカティの本社工場で生産が始まっており、ヨーロッパでは3月から販売が開始された。日本での発売は7月ごろを予定している。4月13日には大阪で「Ducati Diavel Meeting」が開催されたが、なんとこのミーティングの参加者は現行『ディアベル』のオーナー限定だった。新型のオーナーになれば、こうした特別なイベントへの招待状がドゥカティから届くかもしれない。

Text by Koji Okamura
Photo by (C) Ducati Motor Holding S.p.A
Edit by Takeshi Sogabe(Seidansha)

動画はこちら
Ducati Diavel 1260 オフィシャル動画
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