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第20回 | フェラーリの最新車デザイン・性能情報をお届け

フェラーリ488ピスタ──最強のスペシャルバージョン

『360』には「チャレンジ ストラダーレ」、『430』には「スクーデリア」、『458』には「スペチアーレ」。フェラーリのV8ミッドシップモデルには、サブネームを冠したスペシャルバージョンが存在する。しかし、『458』から正常進化した『488』には、デビュー以来、スペシャルバージョンが設定されていなかった。色めき立ったのは、2018年の年明けすぐのこと。一部メディアがカリフォルニア当局に申請された「488スペシャルシリーズ」の存在を報じたのだ。そのモデルは、3月のジュネーブモーターショーで最強のV8ミッドシップフェラーリとしてベールを脱いだ。『488 Pista(ピスタ)』である。

フェラーリがモータースポーツで培ってきたヘリテージを受け継ぐV8ミッドシップ

イタリア語の「Pista(ピスタ)」は、日本語では「走路」などと訳される。さまざまな活用が可能で、陸上競技なら「トラック」を指し、スキーなら「ゲレンデ」もピスタで通じるという。

そして、モータースポーツにおいて、ピスタは「サーキット」を意味する。『488 ピスタ』というネーミングには、フェラーリがモータースポーツで培ってきたヘリテージ=遺産を受け継ぐ覚悟が感じられる。

その遺産とは、2003年に発表された『360チャレンジ ストラダーレ』から始まる、歴代のスペシャルバージョンが積み上げてきたレースとの関係だ。

『488 ピスタ』には、WEC(FIA世界耐久選手権)のGTEクラスで過去6年の間に50戦29勝を上げ、5度のマニュファクチャラーズ・タイトルを獲得した経験、さらに25年に及ぶワンメイク・レース・シリーズ「フェラーリ・チャレンジ」による経験がふんだんに生かされているという。

最大の特徴は、軽量化だ。車両重量は1280kgで、ベース車両である『488 GTB』から90kgも絞り込んだ。エンジンカバー、バンパー、リアスポイラーなどにはカーボンファイバーを採用。また、フェラーリ初の試みとして、カーボンファイバー製の20インチホイールをオプション選択できる。

フェラーリ『488ピスタ』の獰猛なパワーを俊敏な走りに変える最先端テクノロジー

この車体に、歴代のV8ミッドシップ・スペシャルバージョンでのなかでも最もパワフルなエンジンを搭載するのだから、その爆発的な加速力は想像に難くない。

6L V8ツインターボの心臓部が持つポテンシャルは、最高出力530kW(720CV)/8000rpm、最大トルク770Nm/3000rpm。0-100km/hまではわずか2.85秒で加速し、最高速度は340km/hに達する。ちなみに、このエンジンは2016年と2017年にインターナショナル・エンジン・オブ・ザ・イヤーの総合優勝を受賞したターボユニットを大幅に進化させたものである。

この獰猛なパワーを俊敏な走りに転化するのが、最高の空力性能と最先端のドライビングテクノロジーだ。

空力性能では、F1マシン由来の「フロントSダクト」と「フロントディフューザー」によって、フロントノーズ下面の気流を上面に誘導して排出し、ダウンフォースを発生させる。リアディフューザーは、従来に比べて空気の抽出とダウンフォースの発生を改善。ダウンフォースは『488 GTB』よりも20%増加したという。

『488ピスタ』は、最新技術によって誰でもプロレーサーのように走ることができる

最先端のドライビングテクノロジーでは、トラクションコントロールシステム「SSC 6.0(サイドスリップアングルコントロール・システム Ver.6)」が大きな役割を担っている。

「SSC6.0」には、スムーズな旋回に寄与する「E-Diff3(電子制御でフェンシャルギア Ver.3)」、F1の知見を生かしたトラクションコントロールシステム「F1-Trac」、路面状況や速度で合わせて瞬時に減退力を変化させる「SCM(磁性流体サスペンション)」、そして世界初の技術で、ソフトウェアを使用してキャリパーのブレーキ圧を調整する「FDE(フェラーリダイナミックエンハンサー)」が組み合わされる。

これらによって『488 ピスタ』は、フェラーリいわく「プロでないドライバーがステアリングを握ったとしても、さまざまな状況でレーシングカー並みの走りを堪能できる」といった、妥協のない使命を担ったクルマに仕上がった。

もちろん、ドライビングプレジャーを高めてくれるフェラーリエンジン独特の高音のサウンドも健在だ。スペシャルバージョンにふさわしく、すべてのギアとエンジン回転数で『488 GTB』を凌ぐ音質と迫力を堪能できる。

無駄のない『488ピスタ』のコクピット、カラーリングはレーシングカーを思わせる

エクステリアは『488 GTB』に準じるが、フロントSダクトはより迫力を増しており、スポーティな雰囲気を醸し出す。フロントSダクトからフロントノーズ、屋根にいたるまで、ボディの中心部に施された白と紺のラインのカラーリングは、レーシングカーを想起させる。

コックピットは、スポーツ性を追求したことにより、いっさいの無駄が削ぎ落とされた。

価格や発売開始時期はアナウンスされていないが、『488GTB』の車両本体価格の3150万円(消費税込み)を下回ることはないだろう。最新のV8ミドシップモデルのスペシャルバージョンである『488GTB ピスタ』──。『360 チャレンジ ストラダーレ』『430 スクーデリア』『458 スペチアーレ』といった名車に勝るとも劣らない、歴史に名を残すフェラーリとなりそうだ。

Text by Tsukasa Sasabayashi
Photo by (C) Ferrari S.p.A.
Edit by Takeshi Sogabe(Seidansha)

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第29回 | フェラーリの最新車デザイン・性能情報をお届け

フェラーリP80/C──特注のサーキット専用スーパーカー

世界に一台だけのフェラーリを作るのは、コレクターにとって究極の夢だろう。それを叶えてくれるのが「フェラーリ・ワンオフ・プログラム」だ。元映画監督の自動車愛好家、ジェームス・グリッケンハウスが製作を依頼した『P4/5ピニンファリーナ』に始まり、フェラーリクラブ・ジャパン元会長がオーダーした『SP1』など、現在までに十数台のワンオフ・フェラーリが誕生している。そして先日、また一台、フェラリスタ垂涎のワンオフモデルが完成した。車名は『P80/C』。約4年の月日をかけて開発されたサーキット専用車だ。

依頼主はフェラーリ・コレクター。60年代のプロトタイプレーシングカーをオマージュ

『P80/C』をオーダーしたのは、フェラーリのエンスージアストの家に生まれ、自身も跳ね馬に対する深い知識と見識をもつフェラーリ・コレクターだ。オーナーの素性はそれ以外明かされていない。しかし、並外れた財力をもつ人物であることは間違いないだろう。

オーナーからの注文内容は、概ねこういうものだ。1966年の『330P3』、1967年の『330P4』、そして1966年の『ディーノ206 S』。これらのフェラーリから着想を得た現代版のスポーツプロトタイプを創造すること。つまり、伝説のプロトタイプレーシングカーをオマージュした、最先端で究極の性能をもったサーキット専用車を作るということである。

開発を担当したのは、チーフのフラビオ・マンゾーニ率いるフェラーリ・スタイリングセンターと、エンジニアリングとエアロダイナミクス部門からなるチームだ。彼らが互いに協力し、オーナーと価値観を共有することで、世界に一台だけのフェラーリを作り上げた。製作期間は、じつに約4年間。これはワンオフ・フェラーリのなかで最長だという。

ベースモデルはレース車両の『488GT3』。自由な発想で作られたサーキット専用車

『P80/C』はガレージで鑑賞することを目的としたクルマではない。前述したとおり、往年のプロトタイプレーシングカーをモチーフにしたサーキット専用車だ。そのため、ヘッドライドは取り払われ、サーキット走行に必要なテールランプもリアセクションと一体化した独特の形状となっている。フェラーリの市販車は通常、丸型のテールランプをもつ。

ベースとなったのは、レース用車両である『488GT3』。エアロダイナミクスはベースモデルを踏襲しているが、『488GT3』のように「グループGT3」のレギュレーションに準拠する必要がないので、車体の各所に自由な発想が盛り込まれている。たとえば、なんとも大胆なリアの形状は2017年シーズンのF1マシンに採用された「T字ウイング」にヒントを得たもの。フロントリップスポイラーやリアのディフューザーなども『P80/C』のために専用設計された。それらにより、『488GT3』より空力効率がおよそ5%向上している。

エンジンフードのアルミ製ルーバーと凹型のリアウィンドウは、『330P3』『330P4』『ディーノ206 S』といったプロトタイプレーシングカーへのオマージュ。これらはひと目で『P80/C』とわかる特徴的なエクステリアだ。筋肉質なフェンダーが目を引くボディはカーボンファイバーで、フェラーリらしく「Rosso Vero」と呼ばれる赤で塗装された。

まるで戦闘機のコクピット。ロールケージ、6点式シートベルトを備えるインテリア

戦闘機のコクピットを思わせる室内にはロールケージが組み込まれ、インパネやステアリングには『488GT3』の面影を色濃く残している。しかし、ダッシュボードのサイド部分は専用デザインだ。バケットシートは鮮やかなブルー。素材については発表されていないが、アルカンターラと思われる。2座にはそれぞれ6点式シートベルトが装備された。

たったひとりのフェラーリ・コレクターのための作られたモデルなので、エンジンパワーなどのスペックは公表されていない。むろん価格もしかり。実車を目にする機会があるかどうかも定かではないが、どこかのコンクール・デレガンスでお披露目される可能性はある。いずれにせよ、間違いなくフェラーリの歴史に名を残す特別な一台となることだろう。

Text by Kenzo Maya
Photo by (C) Ferrari S.p.A.
Edit by Takeshi Sogabe(Seidansha)

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