フェラーリがモータースポーツで培ってきたヘリテージを受け継ぐV8ミッドシップ
イタリア語の「Pista(ピスタ)」は、日本語では「走路」などと訳される。さまざまな活用が可能で、陸上競技なら「トラック」を指し、スキーなら「ゲレンデ」もピスタで通じるという。
そして、モータースポーツにおいて、ピスタは「サーキット」を意味する。『488 ピスタ』というネーミングには、フェラーリがモータースポーツで培ってきたヘリテージ=遺産を受け継ぐ覚悟が感じられる。
その遺産とは、2003年に発表された『360チャレンジ ストラダーレ』から始まる、歴代のスペシャルバージョンが積み上げてきたレースとの関係だ。
『488 ピスタ』には、WEC(FIA世界耐久選手権)のGTEクラスで過去6年の間に50戦29勝を上げ、5度のマニュファクチャラーズ・タイトルを獲得した経験、さらに25年に及ぶワンメイク・レース・シリーズ「フェラーリ・チャレンジ」による経験がふんだんに生かされているという。
最大の特徴は、軽量化だ。車両重量は1280kgで、ベース車両である『488 GTB』から90kgも絞り込んだ。エンジンカバー、バンパー、リアスポイラーなどにはカーボンファイバーを採用。また、フェラーリ初の試みとして、カーボンファイバー製の20インチホイールをオプション選択できる。
フェラーリ『488ピスタ』の獰猛なパワーを俊敏な走りに変える最先端テクノロジー
この車体に、歴代のV8ミッドシップ・スペシャルバージョンでのなかでも最もパワフルなエンジンを搭載するのだから、その爆発的な加速力は想像に難くない。
6L V8ツインターボの心臓部が持つポテンシャルは、最高出力530kW(720CV)/8000rpm、最大トルク770Nm/3000rpm。0-100km/hまではわずか2.85秒で加速し、最高速度は340km/hに達する。ちなみに、このエンジンは2016年と2017年にインターナショナル・エンジン・オブ・ザ・イヤーの総合優勝を受賞したターボユニットを大幅に進化させたものである。
この獰猛なパワーを俊敏な走りに転化するのが、最高の空力性能と最先端のドライビングテクノロジーだ。
空力性能では、F1マシン由来の「フロントSダクト」と「フロントディフューザー」によって、フロントノーズ下面の気流を上面に誘導して排出し、ダウンフォースを発生させる。リアディフューザーは、従来に比べて空気の抽出とダウンフォースの発生を改善。ダウンフォースは『488 GTB』よりも20%増加したという。
『488ピスタ』は、最新技術によって誰でもプロレーサーのように走ることができる
最先端のドライビングテクノロジーでは、トラクションコントロールシステム「SSC 6.0(サイドスリップアングルコントロール・システム Ver.6)」が大きな役割を担っている。
「SSC6.0」には、スムーズな旋回に寄与する「E-Diff3(電子制御でフェンシャルギア Ver.3)」、F1の知見を生かしたトラクションコントロールシステム「F1-Trac」、路面状況や速度で合わせて瞬時に減退力を変化させる「SCM(磁性流体サスペンション)」、そして世界初の技術で、ソフトウェアを使用してキャリパーのブレーキ圧を調整する「FDE(フェラーリダイナミックエンハンサー)」が組み合わされる。
これらによって『488 ピスタ』は、フェラーリいわく「プロでないドライバーがステアリングを握ったとしても、さまざまな状況でレーシングカー並みの走りを堪能できる」といった、妥協のない使命を担ったクルマに仕上がった。
もちろん、ドライビングプレジャーを高めてくれるフェラーリエンジン独特の高音のサウンドも健在だ。スペシャルバージョンにふさわしく、すべてのギアとエンジン回転数で『488 GTB』を凌ぐ音質と迫力を堪能できる。
無駄のない『488ピスタ』のコクピット、カラーリングはレーシングカーを思わせる
エクステリアは『488 GTB』に準じるが、フロントSダクトはより迫力を増しており、スポーティな雰囲気を醸し出す。フロントSダクトからフロントノーズ、屋根にいたるまで、ボディの中心部に施された白と紺のラインのカラーリングは、レーシングカーを想起させる。
コックピットは、スポーツ性を追求したことにより、いっさいの無駄が削ぎ落とされた。
価格や発売開始時期はアナウンスされていないが、『488GTB』の車両本体価格の3150万円(消費税込み)を下回ることはないだろう。最新のV8ミドシップモデルのスペシャルバージョンである『488GTB ピスタ』──。『360 チャレンジ ストラダーレ』『430 スクーデリア』『458 スペチアーレ』といった名車に勝るとも劣らない、歴史に名を残すフェラーリとなりそうだ。
Text by Tsukasa Sasabayashi
Photo by (C) Ferrari S.p.A.
Edit by Takeshi Sogabe(Seidansha)