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第9回 | ジャガーの最新車デザイン・性能情報をお届け

ジャガーDタイプ──伝説のマシンが再生産される理由

「伝説」という言葉で語られるクルマは多い。しかし、この名車は正真正銘の「伝説のレーシングカー」だ。ジャガー『Dタイプ』。1955年から世界3大レースのひとつであるル・マン24時間を3連覇し、その美しいスタイリングから、ジャガー史上最もアイコニックなレーシングカーと呼ばれている。2018年2月、その『Dタイプ』が再生産されることが発表された。

1955年当時のスタイリングとスペックをそのまま再現されるジャガー『Dタイプ』

かつての名車が復刻販売されるといった話をよく聞くが、多くは噂のままで終わり、結局は実現されないケースが多かった。その理由は、少量生産のできる体制がメーカー側にないこと、なにより採算の問題が大きいためだ。

ところが、ヨーロッパでは近年、ランボルギーニ、ポルシェをはじめ、かつての名車を復刻するメーカーが増えている。国内でも、マツダが初代NA系『ロードスター』のレストアプロジェクトを開始し、日産もR32型『スカイラインGT-R』の補修部品を再供給するという。

クルマに限らず、ブランドにとって今、「物語」や「歴史」は販売戦略において極めて重要な要素だ。そこで、世界的に自動車メーカーがヘリテージを大切する機運が高まっているのである。

なかでも、ヘリテージに最も力を入れているのがイギリスの名門ジャガー・ランドローバーだ。ジャガーは2018年2月、同社の象徴でもあるレーシングカー『Dタイプ』を復活させるという驚きの発表を行った。それも1955年当時のスタイルとスペックをそのまま再現し、一般販売するという。

62年前の工場の火事によって生産が中止されていた、残り25台の幻の『Dタイプ』

正確にいうと、『Dタイプ』は復刻されるのではない。「生産再開」されるのだ。

じつは、『Dタイプ』は台数100台と発表して1955年に生産を開始しながら、1957年に起きたウェスト・ミッドランズ州コヴェントリーの工場の火災によって製造中のマシンや多くの治具が焼損し、その後の生産継続が不可能になってしまった経緯があった。

当時生産された『Dタイプ』は、100台のうちの75台。つまり、残りの25台を再生産するのは、市場への約束をはたすという意味もあるわけだ。今回再生産が発表されたのは2月だっただが、火災があったのも1955年2月のこと。これはけっして偶然ではないだろう。

再生産される『Dタイプ』の中身を知ると、まさに「生産再開」と呼ぶにふさわしいできばえと感じる。

搭載されるのは、オリジナルの3.4L直列6気筒「XK」エンジン。4速MT(マニュアルミッション)、エアファンネルのみの2バレルキャブレター3連装なども当時のままだ。最高出力は250hpから270hpになると予想される。

そして、当時の最先端技術であった風洞実験から生み出された流麗なボディ形状も見事に再現された。これは、オリジナルの設計図や製造に関するさまざまな記録が残されていたこともあるが、ヘリテージ部門である「ジャガー・ランドローバー・クラシック」のエキスパートたちの存在も大きい。

なぜなら、この緩やかな曲線ばかりで構成されたボディは、職人の手作業に頼らなければ再現することが不可能だったはずだからだ。もちろん、『Dタイプ』のシンボルといえる飛行機のようなテールフィン(垂直尾翼)も健在である。

実際にドライブできる人間は限られるだろうが、ドライバーにとって重要なインテリアも完全に再現される。ステアリングホイールは3本スポークのウッド製で、メーター類、そしてサイドブレーキのレバーにいたるまで、オリジナルそのままという徹底ぶりだ。

再生産される『Dタイプ』の価格は1億円以上? ジャガー本社に直接コンタクト

再生産されるのは、ショートノーズの1955年型とロングノーズの1956年型の2タイプ。顧客はいずれかを選ぶことができる。この体制を作ったジャガー・ランドローバーのメーカーとしての姿勢に拍手を贈りたい。

購入方法はジャガー本社のウェブサイトから直接コンタクトするように促されている。受注生産に近いためか、車両価格は公表されていないが、海外メディアの報道などを見るかぎり、1億円以上になると予想される。

ジャガー・ランドローバーの近年の業績は、売上高・新車販売台数ともに好調を維持しているようだ。そこには、ラインナップの充実だけではなく、ヘリテージへの熱心な取り組みによるブランドイメージの向上も寄与しているに違いない。

Text by Koji Okamura
Photo by (C) Jaguar Land Rover Automotive PLC
Edit by Takeshi Sogabe(Seidansha)

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ジャガーEタイプ ゼロ──これが世界で最も美しいEVだ

「世界で最も美しい」は、容姿、景色、芸術、さらには科学実験など、ありとあらゆる事象に対して用いられる形容詞だ。電気自動車(EV)なら、その表現は差し詰めこのクルマにこそふさわしいのではないか。ジャガー『Eタイプ ゼロ』。今年5月に執り行われたヘンリー王子とメーガン妃のロイヤルウェディングに登場した電動バージョンの『Eタイプ』だ。2017年にコンセプトモデルとして発表されたが、顧客からリクエストが相次いだことにより、ついにジャガーが少量生産ながらも市販化を決断した。“世界で最も美しいEV”の誕生である。

見た目は“世界で最も美しいクーペ”のまま。ファンが待望した『Eタイプ ゼロ』

ジャガーは、『Eタイプ ゼロ』はコンセプトモデルだと強調してきた。しかし、ロイヤルウェディングに登場したことにより、「もしかして?」と思った人もいたかもしれない。8月下旬に開催されたモントレー・カーウィークのイベントのひとつ、ザ・クエイル・ア・モータースポーツ・ギャザリングで『Eタイプ ゼロ』の実車が披露され、市販化が正式に発表された。

背景には顧客から寄せられた市販化の要望があったようだ。開発を担当するジャガー・ランドローバー・クラシックのディレクター、ティム・ハニグ氏は、「ジャガー Eタイプ ゼロ コンセプトへの肯定的なリアクションには驚きました」とコメントしている。

『Eタイプ ゼロ』のルックスは、ご覧のとおり、1960年代に生産され、「世界で最も美しいクーペ」と呼ばれた名車『Eタイプ ロードスター』そのもの。つまり、これは往年のクラシックモデルにレストアを施し、そこへ最新の電動パワートレインを搭載したEVなのだ。「世界で最も美しいEV」であり、「最新のクラシックカー」といってもいい。

限りなくオリジナルモデルの『Eタイプ ロードスター』に近いドライブフィール

搭載されるのは、電動コンパクトSUV『I-PACE』のシステムをベースに開発された電動パワートレイン。とはいえ、単にモーターやバッテリーを『Eタイプ』に移植したわけではなく、スタイリングからドライブフィールまで当時の雰囲気を損なわないように配慮されている。

具体的には、リチウムイオンバッテリーを『Eタイプ』の直列6気筒「XK」エンジンと同じサイズと重量に設計し、その後方、もとのトランスミッションがあった場所に電気モーターを配置した。それにより『Eタイプ』と同じ前後重量配分を実現。さらに、サスペンションやブレーキを変更せずに電動化を行ったことで、オリジナルに近いドライブフィールを維持しているという。

見た目は往時と同じでも、バッテリーの搭載位置が違えば重量配分が変わり、また重たいバッテリーによってサスペンションを強化すればやはり別のクルマになってしまう。オリジナルのフィーリングを大切にした点に、ジャガー・クラシックの見識と技術の高さが伺える。

この“設計の妙”により、モーターとバッテリーからガソリンエンジンに変更することも可能という。つまり、いつでもオリジナルモデルの『Eタイプ ロードスター』に戻せるということだ。リチウムイオンバッテリーの容量は40kWhで、充電時間は通常充電で6~7時間、フルチャージからの航続距離は270km。モーターの最大出力は300hpとアナウンスされている。

『Eタイプ ゼロ』のデリバリーは2020年夏を予定。価格は4000万円以上になる?

パワートレインとバッテリーを除くと、『Eタイプ ゼロ』で“最新”を感じさせるのは、エクステリアではLEDヘッドライト、インテリアでは『I-PACE』譲りのダイヤル式シフトセレクター、オプションで装備されるタッチスクリーン式のインフォテイメントシステムのみだ。

ただし、顧客が希望すれば、オリジナルモデルの装備も選択できる。「車両ごとに顧客の好みのカスタマイズが提供される」とジャガー・クラシックはアナウンスしている。

デリバリーは2020年夏からを予定しており、詳しいスペックや価格は未発表。2017年に発表されたフルレストアモデル『Eタイプ リボーン』が28万5000ポンド(約4252万円)だったから、それ以上になることは間違いない。なお、『Eタイプ ゼロ』の生産は、ジャガーの本拠地である英国コヴェントリーの「クラシック・ワークス」で行われる。

Text by Muneyoshi Kitani
Photo by (C) Jaguar Land Rover Automotive PLC
Edit by Takeshi Sogabe(Seidansha)

動画はこちら
Jaguar E-type Zero オフィシャル動画
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