ヨーロッパの職人気質を受け継ぐハスクバーナが送り出す大胆な新型モーターサイクル
この2機種が2015年にコンセプトモデルとして公開されたとき、先進的なボディデザインを纏いつつも、その時点ですでに高い完成度を持っていたことから、量産化を予想する者は多かった。そして、それは2017年11月のEICMA(ミラノ国際モーターサイクルショー)の正式発表によって現実のものとなったのだ。
カジュアルスポーツの『VITPILEN (ヴィットピーレン)701』、その400ccモデルの『ヴィットピーレン401』、さらに、兄弟モデルでスクランブラーのような『SVARTPILEN(シュヴァルトピーレン)401』の3台は、ハスクバーナの「リアル・ストリート・モーターサイクル」に位置づけられている。
ハスクバーナはスウェーデンを本拠とするKTM傘下のメーカーだが、イタリアのオフロードバイクメーカーと思っている人も多いことだろう。あるいは、農林関係者ならチェーンソーのメーカーとして認識しているかもしれない。
企業としての歴史はともかく、強調しておきたいのは、ハスクバーナで働く技術者にはヨーロッパの職人気質が受け継がれているということだ。また、同社は20世紀初頭にバイクを作り始めて以来、現在まで一度も製造を中断していない世界最古のモーターサイクルメーカーとして知られる。
そのハスクバーナが、これほど大胆な新機軸の新型バイクを送り出してきたことは、それ自体が驚きなのである。
『ヴィットピーレン』のコンセプトは「スリムさ」+「軽快さ」=シングルエンジン
まず目を引くのは、『ヴィットピーレン』『シュヴァルトピーレン』ともに、全体の印象が非常にコンパクトなことだ。
それは、スパッと切り落とされたかのようなシートエンド、トラスフレームを構成する鋼管や5本スポークの細さ、シャープなタンク形状、そして部品の一つひとつに感じる隙のない美しさなどが要因だろう。
マフラーのテールエンドをシートエンドと揃えたのは、明らかに意図的なものだ。さらにグレイメタリックのボディカラーは、未来的かつ“スタイリッシュな冷たさ”を演出している。
しかし、実車を目にすると、コンパクトさよりも単気筒エンジンゆえのスリムさのほうがはるかに際立っている。いや、開発プロジェクトでは、スリムさと軽快さを得るためにシングルエンジンを基本としていたというから、それは当然だったのかもしれない。
極限まで贅肉をそぎ落としたシリンダーヘッドは、フレームのメインパイプで作られたケージのなかに完全に収まっている。
KTM『690 Duke』のLC4エンジンをベースにチューニングを加えた爆発的な加速力
『ヴィットピーレン701』のパワーユニットは、KTM『690 Duke』のLC4エンジンがベースで、そこにハスクバーナによるチューニングが加えられている。ボア・ストロークは105×80mmで、総排気量は692.7cc。最高出力はマルチエンジン並みの55kW(75hp)/6750rpmを発揮し、最大トルクは72Nmだ。半乾燥重量157kgの車重と合わせて考えると、痛快な加速力が味わえるのは間違いない。
『ヴィットピーレン401』と『シュヴァルトピーレン401』のパワーユニットは、ボア・ストローク89×60mmで、総排気量は373.2cc。最高出力は32kW(43.5hp)、最大トルク72Nmという数値になっており、半乾燥重量150kgの軽量ボディとのバランスから、シティランナーとしては好適だろう。
そう聞くと控えめなパワーを想像するかもしれないが、シングルエンジンとしては十二分のパワーとレスポンスの鋭さがあるので誤解してはいけない。
バルブ方式はSOHCだが、ヘッド内でカムシャフトと隣り合った位置にバランサーが備えられ、クランク側のバランサーとダブルでシングルエンジン特有の振動を打ち消している。
ロッカーアームにはローラー式を採用。これは静粛性と耐久性の向上、またクリアランス調整のしやすさという点でも有利だ。インジェクションは『ヴィットピーレン701』がケイヒン製で、『ヴィットピーレン401』と『シュヴァルトピーレン401』はBOSH製を採用した。ライドバイワイヤ(機械式ではなく電気信号)のスロットルで操作されるというトレンドも反映されている。
サスペンションは前後ともホワイトパワー製で、『ヴィットピーレン701』『ヴィットピーレン401』は前後ともストロークが135mm。『シュヴァルトピーレン401』はフロント142mm、リヤ150mmとなっている。しかし、これはオフロード向けのスタイリングのコンセプトに合わせたためだろう。
ブレーキは前後ともにブレンボで、フロントキャリパーはラジアルマウントだ。
ミッションはもちろん6速で、『ヴィットピーレン701』『ヴィットピーレン401』はスリッパークラッチを備えている。『シュヴァルトピーレン401』はアンチホッピングクラッチだ。
これらのクラッチは、スーパーモタードなどのレースで盛んに使われ、ハスクバーナにとってはそれこそお馴染みのメカニズム。トルク変動の大きなビッグシングルエンジンには、バックトルクを抑える福音的な存在なのだ。
価格は約135万円、“高機能最小限”のシンプルな贅沢さを持ったモーターサイクル
ホイールは『ヴィットピーレン701』だけがキャストホイールで、『ヴィットピーレン401』『シュヴァルトピーレン401』はワイヤーホイールとなっている。
『シュヴァルトピーレン401』はダートマシンのイメージを持つのでワイヤーでも違和感がないが、『ヴィットピーレン401』にこれを採用したのは、おそらく想定したユーザー層を考慮した価格設定との兼ね合いのためではないか。
その価格は、『ヴィットピーレン701』が135万5000円、『ヴィットピーレン401』『シュヴァルトピーレン401』はともに77万7000円となっている(いずれも税込み)。発売時期は、『ヴィットピーレン401』『シュヴァルトピーレン401』が2018年4月、『ヴィットピーレン701』は同7月の予定だ(『シュヴァルトピーレン 701』は日本導入未定)。
この2タイプ3モデルの北欧製マシンは、これまでのモーターサイクルとは存在そのものが異なるように思える。派手なカラーリングや音ではなく、独創性と精緻な美しさと「高機能最小限」とも呼びたくなるシンプルな贅沢さがあり、注目すべき新しいセグメントの方向性を示している。
価格は少々高めだが、この仕上がりと見比べれば納得できるというものだ。
Text by Koji Okamura
Photo by (C)Husqvarna Motorcycles
Edit by Takeshi Sogabe(Seidansha)