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第102回 | 大人のための最新自動車事情

テスラが運送業界を変える──EVトラックTesla Semi

「セミトラック(セミトレーラー)」とは、貨物を載せたトラクターを連結装置につなげて牽引するトラックのこと。幹線道路や街中で目にすることも多いはずである。このセミトラックのEV(電気自動車)バージョンとなるモデルを、シリコンバレーを拠点にクールなEVを次々に生み出すテスラが新たに開発した。その名も『Tesla Semi(テスラ セミ)』だ。しかし、なぜテスラがトラックなのか?

テスラのEVトラック『セミ』は航続距離800km、スポーツカー並の空力性能を持つ

『セミ』には、航続距離300マイル(約480km)と500マイル(約800km)の2つのバリエーションが存在する。価格はそれぞれ15万ドル(約1700万円)と18万ドル(約2000万円)だ。

バッテリーは、充電を繰り返し行えるように設計された(容量は非公開)。ただし、アメリカ国内の運搬ルートは片道400km以内が多い。航続距離500マイルのモデルなら、目的地に着いたときに充電しなくても往復することが可能というわけだ。このバッテリーはフロア下の車両下部に搭載。低重心化を実現することでトラックに起こりうる横転リスクを軽減している。

見ての通り、ボディは滑らかな曲線を描き、空気抵抗を極力減らせるように設計された。これは電力を有効に使い、高速道路などで航続距離を伸ばすための措置だろう。テスラによれば、空力性能はスポーツカー並だという。

モーターは『モデル3』のものと同型をベースに、『セミ』専用に強化。各リアホイールに計4つ搭載した。テスラCEOのイーロン・マスク氏は「ディーゼルエンジンのトラックよりも優れた加速性能を発揮する」としている。

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室内の中央に配置された運転席、「ジャックナイフ現象」を防ぐ先進安全機能も搭載

室内はスイッチ類が取り除かれ、シンプルかつ上質なテスラらしい作り。大半の操作を大型のタッチスクリーンディスプレイで行う点も、ほかのテスラモデルと同様だ。しかし、『セミ』は左右2台のスクリーンとなっている。

特徴的なのは、室内の中央に運転席があることだろう。これは事故防止の観点から、視界を最大化するためだ。同じ理由によって運転席はかなり前方に配置されている。「助手席はないのか?」と思うかもしれないが、写真を見ると、運転席の右後方に折りたたみ式の助手席が用意されていることがわかる。

また、自動緊急ブレーキ、オートレーンキーピング、オートパイロットなどの先進安全機能も充実している。車載センサーは、不安定な挙動を検知するとモーターのブレーキを作動させ、ホイールにトルクをかけて「ジャックナイフ現象」を防ぐ機能だ。サラウンドカメラはブラインドスポットを最小限にし、障害物や危険を感知するとドライバーへの警告を行ってくれる。

インターネットへの接続機能も内蔵し、フリートマネジメント(大型トラックや工事用の特殊車両など、業務用車両を維持・管理するシステム)と接続すれば、ルート案内、スケジュール管理、遠隔モニタリングなどに活用することが可能だ。

テスラだけじゃない! 自動車メーカーや新興企業が続々とEVセミトラックを開発

EVセミトラックを開発しているのはテスラだけではない。じつは近年、さまざまな自動車メーカーや新興企業がこの分野に参入している。

たとえば、アメリカのディーゼルエンジンメーカーであるカミンズは、すでにEVセミトラックの『Aeos』を発表済み。日本の三菱ふそうもEVトラックなどに特化したブランド「E-HUSO」を設立するという。ロサンゼルスのスタートアップ企業、ソー・トラックもEVセミトラックの『ET-One』を発表している。こちらは2019年に量産を開始する予定だ。

つまり、EVセミトラックは今、自動車関連企業のトレンドとなっているのである。

EVは、エンジンもトランスミッションも搭載しないので、部品の数が少なく、メンテナンスに手間がかからない。燃料費もディーゼルエンジンに比べて安く済む。そのため、通常のトラックに比べてランニングコストを抑えられるというメリットがある。もちろん、環境面への貢献も大きい。

ネット通販がリアル店舗に取って代わろうとしている点では、日本よりアメリカのほうが先を行く。そのとき、より重要となるのは物流だ。だからこそ低コストで環境性能の高いEVセミトラックに注目が集まっているのだ。

航続距離の問題など、EVセミトラックにはまだ取り組むべき課題も多い。しかし、すでにペプシコやウォルマートといったアメリカの大手企業が次々と『セミ』を発注している。近い将来、テスラが運送業界を変えるかもしれない。

関連リンク:テスラの中古車情報をチェック関連記事:アストンマーティン初のEV、車名は「ラピードE」に決定関連記事:ヤマト、トヨタ、日野がEVの実証運行を開始
       

Text by Kenzo Maya

Photo by (C) Tesla

Edit by Takeshi Sogabe(Seidansha)

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第130回 | 大人のための最新自動車事情

エモーションEV──バタフライドアの電動スポーツカー

ポルシェ初の量産EVスポーツカーとして話題の『タイカン』は今年生産を開始し、驚異的なスペックを誇るテスラのスーパースポーツカー『ロードスター』も2020年の発売を予定している。EVスポーツカーは、いま旬を迎えつつあるカテゴリだ。そうしたなか、アメリカのフィスカーがCES 2019で初公開した『エモーションEV』が予約受付を開始した。バタフライ4ドアが特徴の高級フルEVスポーツは、いったいどんなクルマなのか。

BMW『Z8』やアストンマーチン『DB9』のデザイナーが手がけた高級スポーツEV

フィスカー『エモーションEV』は、ヘンリック・フィスカー氏の手によるエレガントなデザインの高級EVスポーツカーだ。フィスカー氏はデンマーク出身の著名なカーデザイナー。BMWに在籍していた当時に『Z8』、EVコンセプトモデルの『E1』などを手がけ、アストンマーチンでは『DB9』『DBS』『ヴァンテージ』のデザインを担当した。

その後、独立してメルセデス・ベンツやBMWをベースにしたコンプリートカーやハイブリッドエンジン搭載のオリジナルモデルを製作するが、じつは、テスラで『ロードスター』『モデルS』の2モデルの開発に参加したこともあるようだ。そのせいというわけではないだろうが、『エモーションEV』のデザインはどこかテスラに似た雰囲気もある。

ともあれ、スタイリングは「美しい」のひと言に尽きる。とりわけ特徴的なのは、開くとドア側面が蝶の羽のような形に見える「バタフライ4ドア」だ。同じ上部に向かって開くドアでも、縦方向に開くシザースドアと違い、バタフライドアは外側が斜め前方に、内側が下向きに開く。駐車スペースに苦労する日本ではなかなかお目にかかれないドアだ。

バッテリーはリチウムイオンではなく炭素素材コンデンサ。多くの先端技術を搭載

面白いのは、バッテリーに多くのEVに採用されるリチウムイオンではなく、炭素素材コンデンサのグラフェンスーパーキャパシタを採用したことだ(全個体充電池搭載モデルもラインナップ)。1回の充電あたりの最大走行距離は約640km。急速充電の「UltraCharger」に対応しており、9分間の充電で約205km分の容量までチャージ可能という。

EVパワートレインは最高出力700psを発生し、最高速度は260km/h。このスペックを見ると、テスラ『ロードスター』のようなEVスーパースポーツではなく、あくまでスポーティカーという位置づけなのだろう。全長5085×全幅2015×全高1465mmのボディは軽量のカーボンファイバーとアルミニウムで構成され、駆動方式は四輪駆動だ。

このほか、ADAS(先進運転支援システム)としてクアナジー製LIDARセンサーを5個搭載し、コネクテッドなどのEVスポーツカーらしいさまざまな先端技術を装備する。

『エモーションEV』の価格は1440万円。予約も開始され今年中にデリバリー予定

前述の通り、『エモーションEV』はグラフェンスーパーキャパシタ搭載モデルと全個体充電池搭載モデルの2モデルを設定。価格はグラフェンスーパーキャパシタ搭載モデルが1440万円(税別)、全個体充電池搭載モデルの価格は未定だ。すでに日本でもデロリアン・モーター・カンパニーを正規代理店に予約受付を開始しており、グラフェンスーパーキャパシタは今年中の納車を予定している。ただし、予約金として約24万円が必要だ。

最近では東京都心部などでテスラをよく見かけるようになり、もはやEVは現実的な乗り物になりつつある。たしかに価格は1000万円オーバーと高価。しかし、この美しいルックスなら、他人と違うクルマに乗りたいという欲求を満たすことができるのではないか。

Text by Kenzo Maya
Photo by (C) Fisker, Inc.
Edit by Takeshi Sogabe(Seidansha)

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