1968年に登場したシトロエン『メアリ』をモチーフにしたビーチカー『Eメアリ』
『Eメアリ』が本国で発売されたとき、フランス車に詳しい人なら懐かしさを覚えたに違いない。そう、『Eメアリ』は、1968年から約20年にわたって生産された4シーターオープンの『メアリ』をモチーフとする。
『メアリ』は、シトロエン『2CV』のメカニズムを応用して誕生し、悪路走行を得意とするユニークなクルマだった。1948年に登場した『2CV』は、「こうもり傘に四つの車輪をつけた自動車」というコンセプトから生まれた20世紀を代表するフランスの大衆車。また、『メアリ』は当時としてはめずしい樹脂製ボディを持ち、錆びないことから農家などでも愛用された。
『Eメアリ』の特徴は、ご覧のように、『メアリ』譲りのユニークなスタイリングにある。全長3810mm×全幅1870mmの“短く幅広い”ボディは、フロント周りこそ日本でも限定販売された『C4カクタス』に似ているが、Bピラー以降はクルマというより遊園地の乗り物のようだ。
ボディパネルはプラスチック製で、標準仕様ではサイドウインドウすらつかない徹底ぶり。その一方、ファンカーという性格から、2スピーカーのBluetoothオーディオを装備するのがおもしろい。
最高速度110km/h、ビーチでのレジャー用途なら申し分ない『Eメアリ』の動力性能
今回のマイナーチェンジでは、実用性や安全性、質感が大幅に高められた。
電動パワートレインは、50kW(68ps)の最高出力を持つモーターのトルクを約20%引き上げ、最大トルク166Nmにアップ。最高速度は110km/hに達するというから、レジャー用途のクルマとしては申し分ない。
バッテリーはフランス・ボロレ製のリチウムメタルポリマー電池で、1回の充電で最大195kmの走行が可能とされている。また、新たに安全装備が強化され、ABS、ESP(横滑り防止装置)、4つのエアバッグ、タイヤ空気圧モニタリング、シートベルトリマインダー、自動ハイビームが備わった。
ビーチで泳いだ後にそのまま乗車でき、ホースで水をかけて車両を丸洗いもできる
エクステリアに大きな変更はないが、脱着可能なハードトップ仕様が登場したのは大きなトピックだろう。ハードトップ仕様にはサイドウインドウも装備され、より日常での使い勝手が高まった。
インテリアは、ダッシュボードやドアトリムが『C3』や『C4カクタス』と共通したイメージのデザインになったほか、シートも一新。後部座席へのアクセスを容易にする「イージーエントリーシステム」も採用された。センターコンソールとドアパネルには収納も備える。
シートには撥水加工が施されているので、ビーチで泳いだ後にそのまま乗車できる。また、車外からホースで水をかけて車両を丸洗いすることも可能。これはサイドウインドウのないソフトトップが標準仕様の『Eメアリ』らしい部分だ。
ちなみに、今回のマイナーチェンジでは「メイド・イン・フランス」を証明する「Origine France Guaranteed」の認証を取得した。これはEVとして初のことである。
『Eメアリ』の価格はおよそ350万円、ただしバッテリーは月額1万円のレンタル式
ラインナップは、ソフトトップ仕様とハードトップ仕様、そしてフランスのファッショブランド「クレージュ」によってコーディネートされたブラックモノトーンの「Styled by Courrèges」の3つの仕様が用意される。
標準のソフトトップ仕様とハードトップ仕様は、4色のボディカラーと2タイプのインテリアから選択可能。オプションでAC(エアコン)も装着できる。
価格は日本円でおよそ350万円からと、けっして安くはない。しかし、ビーチカーは、複数台のクルマを所有するような余裕のあるオーナーにこそニーズがある。価格は大きな問題ではないだろう。あらゆるクルマを愉しも尽くした大人が手にする遊びのクルマなのだ。
むしろ問題は、『Eメアリ』が正規輸入されず、そのうえバッテリーがレンタル式(月額およそ1万円)であることだ。それでもほかにないビーチカーを手に入れたいという人は、並行輸入業者に相談してみるといいだろう。
Text by Muneyoshi Kitani
Photo by (C) Automobiles Citroën
Edit by Takeshi Sogabe(Seidansha)