ボンドカーにも選ばれた流麗なスタイリング、ジョブズが所有したBMW『Z8』とは?
今思えば、このクルマはiPhoneの登場を予感させるものだった。ご覧のBMW『Z8』は、スティーブ・ジョブズが2007年6月下旬に発表した初代iPhoneと同様に、アルミ製ボディを纏ったプロダクトだ。おまけに、オリジナルアクセサリーとして付属したのは、モトローラ製の携帯電話である。
『Z8』は1997年の東京モーターショーでコンセプトカーとして発表され、2000年から2003年まで生産された2シーターオープンのスポーツカーだ。
モチーフとなったのは、1950年代後半のBMWの名車『507』。『Z8』はスクリーンでも活躍し、2000年に公開された映画『007ワールド・イズ・ノット・イナフ』ではジェームズ・ボンドの愛車“ボンドカー”として登場している。
実際、その端正なスタイリングは、ジョブズよりボンドに似合いそうだ。加えて、心臓部に搭載したのはBMW『M5』(E39型)用の5.0L V8エンジンである。最大出力400psを発生し、0~100km/h加速は4.7秒を誇った。
落札価格は約3730万円、BMW『Z8』とアップルの製品哲学には共通するものがある
ジョブズがこの『Z8』を手に入れたのは2000年10月のこと。当時親交があったアメリカの大手ソフトウエア企業、オラクルのラリー・エリソン(元CEO、当時はCTO)に「『Z8』とアップルの製品哲学には共通するものがある」と熱心にすすめられたことから、新車で購入したのだという。
たしかに、シルバーのボデイカラーとブラックのインテリアのコンビネーション、パワフルなエンジン、無駄のないシンプルなボディラインは、のちのアップル製品を彷彿とさせる。
『Z8』の当時の価格は、約12万8000ドル(約1430万円)。ジョブズは3年間にわたって『Z8』を所有し、その後、あるオーナーに売却する。自動車オークションの最大手、RMサザビーズが2017年12月にニューヨークで開催したオークションにこのクルマを出品したのはそのオーナーだ。
出品された『Z8』の走行距離は1万5199マイル(約2万4460km)で、ジョブズの名前が記された登録証、純正ハードトップ、オリジナルアクセサリーであるモトローラ製の携帯電話も付属した。気になる落札価格は32万9500ドル。日本円で約3730万円となる高値が付けられたという。
メルセデス・ベンツ『SL55 AMG』にポルシェ『928』…ジョブズのこだわりの愛車
しかし、ジョブズの愛車として最も有名なのは、『Z8』ではなく、ナンバープレートのないメルセデス・ベンツ『SL55 AMG』かもしれない。
カリフォルニア州では、新車は「6カ月以内」にナンバープレートを装着しなければならないと車両規則で定めている(2019年から購入時に仮のナンバーを付けることを義務化)。
そこで、ナンバープレートを付けたくなかったらしいジョブズは、購入して半年経つとクルマを売却し、そのたびに新しい『SL55 AMG』を買い直していたのである。このエピソードが話題になったことで、ジョブズ=『SL55 AMG』のイメージが広まった。ちなみに、このクルマのボデイカラーもシルバーだった。
ポルシェのイメージも強いかもしれない。2015年に公開された映画『スティーブ・ジョブズ』には、若き日のジョブズがポルシェ『928』を運転するシーンが描かれている。ジョブズは当時、「Macの筐体はフォルクスワーゲンではなく、ポルシェのようであるべきだ」と語っていたという。彼はポルシェを理想のブランドのひとつと考えていたのだ。
いずれにせよ、ジョブズが所有したクルマたち──その大半はポルシェ、BMW、メルセデス・ベンツのドイツ車──に共通するのは、卓越した動力性能によって導き出された素晴らしいデザイン性を持っていることだろう。
もしジョブズが生きていたら…。そのときアップルは、いったいどんな革命的な自動運転車を生み出したのだろうか?
Text by Kenzo Maya
Photo by (C)RM Sotheby’s
Edit by Takeshi Sogabe(Seidansha)
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