わずか82台しか生産されず、ポルシェ自身も所有していなかった“最も古い『911』”
ポルシェ『901』が『356』の後継モデルとして1963年9月のフランクフルトモーターショーでデビューし、量産モデルとして生産開始されたのは、1964年9月のことだ。
しかし、それから数週間後の10月、商標権の問題でプジョーから訴えられ、販売時にはモデル名を『901』から『911』へと急遽変更することとなる。この期間に『901』として作られたのが、計82台存在するとされる最も古い『911』だ。
そのうちの数台は今もコレクターの手で保存されているが、じつはポルシェ自身は『901』を所有していなかった。ポルシェミュージアムに保存されていた『911』のなかで、これまで最も古かったのは1965年に生産されたモデル。ポルシェにとって、その手に幻の『901』を取り戻すことは、非常に重要なプロジェクトなのである。
今回復元された車両は、シャシーナンバー「300.057」(901 No.57)の『901』。1964年10月22日にラインオフした極めて貴重かつ歴史的な車両だ。
可能な限りオリジナルのポルシェ『901』に近づけるために3年をかけてレストア
このプロジェクトが始まったのは、アンティークやコレクターズアイテムを扱うドイツのテレビ番組がきっかけだったという。
2014年、同番組がある車庫で埃をかぶったボロボロの『911』を発見する。そこで、鑑定をポルシェミュージアムに依頼したところ、その車両が『901』であることが判明したのだ。
ポルシェは即座にこの車両の購入を決定し、レストアを開始した。それから3年の年月を費やして復元されたのが、今回公開された『901』である。
とはいえ、ボルボロに朽ち果てたクルマを元通りに戻すのは、我々が想像する以上に手間がかかる作業だ。発見された当時、この車両のボディ全体はひどく錆びつき、室内には雑に修復された痕跡も残されていたという。
加えて、ポルシェはパーツ交換を最小限にとどめ、可能なかぎりオリジナルを利用する原則を採用。ボディの修復にはほかの車両の純正パーツを使い、エンジン、トランスミッション、足回り、電装品も同じ方法でレストアを施した。
こうしたあえて手間のかかる方法を選択したために、この『901』を完全に復元するまで3年もの歳月を要したわけだ。なにしろ、最も傷んでいたボディだけで、その修復に12カ月もかかっているのである。
復元されたポルシェ『901』は、4月8日までポルシェミュージアムで特別展示中
復元された幻の『901』は現在、ドイツ南西部の都市、シュトゥットガルトにあるポルシェミュージアムで、「911 (901 No. 57) – A legend takes off」という特別展示として公開されている(2017年12月14日〜2018年4月8日)。
ポルシェミュージアムの開館時間は、午前9時から午後6時まで、休館日は月曜日。入場料は8ユーロ(約1080円、1ユーロ135円換算)とお手頃だ。ガイド付きの特別ツアーをお望みなら、事前予約すれば60ユーロで利用できる。
スポーツカーのアイコンとして、絶大な人気を誇るポルシェ『911』。その最も古い車両を見るためにシュトゥットガルトへと旅する──。これは『911』ファン、すべてのポルシェファンにとっての聖地巡礼となるのではないか。
Text by Kenzo Maya
Photo by (C) Porsche AG.
Edit by Takeshi Sogabe(Seidansha)