すべての道は金利に通ず by 鈴木涼介氏(シリーズ:ベテランに聞く)

一国の経済の基礎的条件(ファンダメンタルズ)や金融政策と最も密接に関わるのは金利の市場だろう。しかも一回あたりの取引額が大きく、名だたる金融機関やヘッジファンドが慎重に立ち回るため、株や外国為替よりも理路整然とした動きをしやすいとされる。ドイツ銀行やHSBCロンドンで敏腕の金利ディーラーとして活躍した鈴木涼介氏は現在は仮想通貨の世界に身を置くが、自らの経験を踏まえて「すべての道は金利に通ず」と明言する。【聞き手は日経QUICKニュース(NQN)編集委員=今晶、尾崎也弥】

※11月27日付の記事を再配信しています。

鈴木涼介(すずき・りょうすけ)氏

高校から英国で教育を受け、ロンドン大のキングスカレッジ自然科学工学部数学科で学んだのちドイツ証券に入社。円金利スワップ担当としてディーラーのキャリアをスタートさせた。ドイツ銀行東京支店を経て英国に戻り、ドイツ銀ロンドン拠点の金利・通貨スワップデスクでヘッドトレーダーを務めた。2013年に英HSBCロンドンに移籍し主要7カ国(G7)短期金利・通貨スワップ部門のヘッド。18年に独立してゼニファス・キャピタルを立ち上げ。仮想通貨ヘッジファンドを運営するほか、一般向け投資教育プラットフォームの構築を目指し、ツイッターで情報発信も

■判断に迷ったら金利を見よ

外為市場には「金利と為替の方向性が違ったら、たいてい金利が正しい」との自虐的な教訓がある。債券や短期金融市場の効率性と合理性をよくあらわしていると思う。投資判断に悩んだら必ず金利動向を参照すべきだ。

もちろん株や為替と同様、金利にも情報や需給の偏りがもたらすゆがみは生じる。だが、きわめて見えにくい。短期資金やデリバティブ(派生商品)の取引は参加者の信用力に応じて価格や金利水準がころころと変わるため、惑わされるのだ。そんな中で巨額のお金を回していくのだから、相場環境とゆがみの有無を的確に判断できなければ絶対に生き残れない。

例えば現在、日本の金融機関は「ベーシススワップ」や「為替スワップ」を通じてドルを調達する際に大幅な上乗せ金利を求められるのに対し、ドルの保有者は取引相手を選べば円をかなり安く調達できる。さらにドルの需給が引き締まりがちな海外の決算期末を意識し、スワップを年末年始を挟む期間にするだけで円のコストはさらに下がり、国庫短期証券(TB)での運用利回りは良くなる。

もしそのような微妙な違いに気づき、収益を高められる人なら他の市場でも必ずつぶしがきく。資産の割安・割高を見極めて売買する「レラティブバリュー」運用で十分生き残れるだろう。

■「負けて覚える相場かな」

相撲界に「負けて覚える相撲かな」との格言がある。相場も実践あるのみだろう。オンライン証券会社がよく提供している模擬トレードのシステムで練習してからなどとは決して思わないことだ。身銭を切ってディーリングに臨み、負けてお金を失うからこそ真剣に敗因と向き合い、次につなげられる。

もちろん大けがばかりして再起不能になっては意味がない。自信がなければ投じる資金を最小限に抑え、トライ・アンド・エラーの精神を忘れずに臨むべきだ。

長めの相場シナリオをたてるときは過去の経験則やチャートには頼らず、ファンダメンタルズの変化を意識しながらまずは自分で考えてほしい。ファンダメンタルズ分析は外為証拠金取引(FX)や株では短期トレーダーを中心に軽視されがちだが、金利系の投資家は誰もがきちんとやっている。

■仮想通貨でも金利ディーラーの視点

インターネット上の仮想通貨は引き続きビットコイン(BTC)が主役になるだろう。足元では機関投資家や富裕層はあまり仮想通貨に手を出していない。ただ富裕層は「我」や向上心が強く、もっともうけて他人との差を広げたいと頑張る。仮想通貨市場の将来性や収益性が高いと判断すればすぐに買いを増やしそうだ。

ポイントは仮想通貨の上場投資信託(ETF)の行方だ。承認されれば正式に「アセット(資産)クラス」の仲間入りをする。機関投資家の保有ハードルが低くなるので、気の早い個人は先回りした買いを進め、相場には上昇圧力がかかるだろう。

ここで重要なのは金利ディーラーが大切にする時間軸の視点だ。ビットコインETF市場などが再び拡大に向けて動き出したとしても、法律やシステムが整って実際にマネーが流入するのはだいぶ先の話だ。前のめりな買いに対しては淡々と売り、底値を確かめたほうがよい。

BTC市場の復活までにそれなりに時間がかかるとすると、大口投資家はなかなか持ち高を積みあげられない。では、BTCの代わりはないだろうか。

いま注目しているのはリップル(XRP)だ。一民間企業であるリップル社が深くかかわるXRPは、管理者不在の印象が強い仮想通貨らしからぬファンダメンタルズの底堅さをもつ。銀行間の資金決済にも試験的に用いられ、認知度は高い。

トルコやアルゼンチンといった対外債務が多く、経済基盤が脆弱な国の人々が自国通貨安を回避(ヘッジ)する目的でもリップルは使われやすいとみている。足元ではトルコリラ建てのXRP相場がしばしば値を上げている。トルコのエルドアン体制は安定しているが、経済政策は心もとない。トルコでは銀行口座をあえて持たず、リラ安ヘッジのためにリップルなど仮想通貨を求める人が結構いるようだ。

(随時掲載)

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