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この作品 「先へ先へと飛んでいく」 は「夏目友人帳」「田夏」等のタグがつけられた作品です。

カプ名つけたけど、カプ要素ほぼないです。原作らしさを頑張って再現しようとしたけど...

化け化け猫

先へ先へと飛んでいく

化け化け猫

2019年5月20日 20:02
カプ名つけたけど、カプ要素ほぼないです。原作らしさを頑張って再現しようとしたけど、難しいですね。
 こつん、と頭に何かがぶつかる感触。そこまで痛くない。ひらりと落ちていく元凶が見えたとたん、懐かしさを覚えた。子供たちが駆け寄ってくる。ごめんなさい、と謝る声。大丈夫、と返すおれ。そのまま子供たちに渡す。紙飛行機という元凶を。
 懐かしいと言ってもたいして遊んだ記憶はない。体が弱くて友達と外で遊んだ覚えなんてあまりなかったからだ。そう、飛ばしたことはない。飛ばしてみようか。場所は森の奥にある平原はどうだろうか。少しだけ考えて、やろうと決める。そうだ。誘ったらやってくれるだろうか。夏目も、ともに。
 それは意外と早く決まった。学校へ行ったときに誘うと、おれも友達とやったことなかったんだ、と楽し気に笑う顔。うれしくなるけど、ちょっと子供くさいかと思考する。いや、それでも。今やりたいことはやらないといけない気がした。――そう何かあったときのために。
 紙飛行機はきまぐれだ。飛んだり飛ばなかったり。おれの場合は特にそうだった。ただすごく遠くまで飛ぶことも、まったく飛ばないこともない。なんとも中途半端な感じだ。
 夏目はというと、なかなか先へと飛ばない。むしろ、まっすぐ進むどころか後ろのほうへと方向転換して、背中を通り過ぎていく。
「お前はへたくそだな」
 夏目の飼っている猫、にゃんこ先生はそう言い放つ。先生、とうらめしげに返す夏目はどこか楽しそうだ。誘ってよかった。こんなに愉快でたまらない。喜びに目を細める。今更おれも夏目も知ったんだ。こんな風に遊ぶことが心温まることだってことを。
 夏目は相変わらずやけくそ気味で紙飛行機を飛ばす。また後ろへと行くだろう、と予想したが外れた。紙飛行機はぐんぐんと先へ先へと進んでいく。
「おお、夏目すごいじゃないか」
 感心して夏目を見たとたん、不機嫌な表情がおれの視界に入った。「どうしたんだ? 夏目……」と言葉にしてからすぐに気づいた。夏目の顔つきには見覚えがある。
「あやかしか?」
 声をあげると、夏目はこくり、と頷く。やっぱり。あれはあやかしが紙飛行機をつかんで動かした、ただそれだけだったわけだ。
 夏目はわかりやすいな。あやかしのことになるとすぐにああいう顔になる。わかってしまう。おれが慣れているだけかもしれないが。
 夏目はしばらくぶつぶつとひとりごと、ではなく話し合っている。あやかしが見えないおれにはわからない景色が広がっているのだろう。その様子はいつも思うが知らなければ怖い光景だ。いや、食べるなよ、と忠告しているのでおれでも少し怖いが。
「どうやら、このあやかしは遊びたいらしい。まあ、付き合ってやるんだな。そこそこ力が強いあやかしだ。断ったら面倒くさいことになる」
 にゃんこ先生はそう淡々と言う。夏目は申し訳なさそうに謝ってくる。そんなことする必要なんておれは全然感じない。そんなに迷惑なことではない。この程度のことならお安い御用だ。むしろ頼ってくれるのがうれしい。
 それからだった。ふわりと浮く紙飛行機にぎょっとしたり、意外と飛ばすのがうまいあやかしに追いつこうと頑張って紙飛行機を改良したりした。
 夏目はじろじろと何かを見つめ、ぶつぶつとつぶやき始めた。あやかしと会話しているのだろうか。
 夏目は会話らしきものをやめたとたん、紙飛行機を折り始めた。そして、ひゅうっと飛ばす。それはそれは、遠くまでぐんぐんと風に乗って見えなくなるぐらい飛行する。一緒に飛ばしたおれの紙飛行機は少しだけ並走したが、スピードの差ゆえに置き去りにされていく。
 ああ、そうか。夏目は……。夏目はあやかしに教わったんだ。紙飛行機を作る方法を、風に乗せるコツを。
 ぽっぽ、と雨が涙のようにしたたり落ちる音がした。ああ、ちゃんと天気予報を見ておけばよかった。濡れるのは嫌だな、なんて考える。けれど、雨の感触が急に止まった。やんだのか、と思ったが違う。周辺のくさっぱらは雨に打たれている。異質なのは、おれだ。いや、おれの体のうえあたりだ。そこから雨がはじいている。
「田沼」
 呼ばれて夏目に渡される。雨をしのげそうな大きな葉っぱを。
 夏目に状況を聞くと、なるほど、と納得する。どうやらあやかしはおれが濡れないように覆ってくれたらしい。そして、そのままあの葉っぱを夏目に渡した、というわけだ。
「ありがとう、田沼」
 お礼を言う夏目。つい笑ってしまう。
 お礼なんて言われるほどのことじゃない。だって、おれは夏目とあやかしと一緒に遊んで楽しい思いをしただけなのだから。
「おれはうれしいよ。頼ってもらえて、夏目の世界を少しだけ知ることができたみたいでうれしいよ」
 夏目は軽く微笑み返してくれる。夏目は安心しただろうか。それならとてもいいことだ。
 思い起こす。紙飛行機の後ろ姿。先へ先へと飛んでいく、その姿はまるで夏目みたいだった。おれは中途半端にしか進まない。けれど、夏目は違う。あやかしと関わって前へ前へと行っている。それを痛感させられる。
 ああ、嫌だな。こんな風に思い悩むなんて。それほどおれは自分の情けなさを感じ取っている。夏目とは違うことをすごく実感する。
 でも、夏目とは同じぐらい長い距離は飛ばせないけれど、それでも――。その短い距離をともに飛んだことを大切にしたい。大切に、できたらいいのに。
 心の表面では望む、誠実なレベルを。けれど、心の奥底では、長く長く同じを共有できたらいいのに、と渇望する。
 ふと、空が明るくなる。けれど、雨は相変わらずだ。天気雨だろうか。まるでそれは迷っているおれの気持ちみたいで、苦笑せずにはいられなかった。
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