パワーOP-AMP
(改訂 ver.2:前のver.の図1を変更。R4,5=100オームは間違い。10オームが正しい。100オームだと待機電流が1Aほど流れて過剰であり、放熱器の冷却が大変。10オームとし、ダイオードに1S2076を使用することで、約0.2Aの待機電流となる。)
大きな電流を流すOP-AMPは、パワーオペアンプと呼ばれるが、それを1個のICで実現するのはなかなか難しく、いいICがあまりない。また、動作も安定であるものが少ない。オーディオ用のパワーICもあるが、それらは直流から増幅できないものがほとんどであり、ある直流電圧のバイアスをかけた上に別のサイン波を乗せるといった用途には使用できない。
この章ではオペアンプの外部にパワー増幅段としてパワートランジスターを付けた回路を紹介する。性能としてはDC〜100kHz程度までを増幅する。図1(リンクファイル)に回路図を示す。出力電流のMaxは4A程度であるが、電源容量さえ大きければ10A程度まで行けると思う。出力電圧のMaxは+−24-2 = +−22V程度である。通常、全段のOP-AMP ICは+−15Vぐらいまでしかもたないため、出力の振幅をそれ以上取る場合は2電源系を用い、かつレベル変換の中間段を設けねばならないが、図1の回路はOPA604(共立電子にあり)という+−24VでももつOP-AMPを使い、簡潔な回路構成となっている。使用したトランジスターは全てコンプリメンタリの型番である。トランジスター類は、共立電子かトーカイで入手可能。
下の写真に実装例を示す。アンプ3台と24V 4Aのスイッチング電源6台。写真の例では、これで簡単なコイルから回転磁界を作っている。
回路の実装には注意が必要である。まず、2つのパワートランジスターQ3, Q6は10x10x3cm以上の放熱器に取り付け、放熱を行う。お風呂のお湯よりも放熱器が熱くなるなら、ファンで風を送るか、またはより大きな放熱器に変える。次に、トランジスター部分のバイアスを決めているダイオードD1~4は、トランジスターの発熱によるバイアス変化を打ち消すように、放熱器にエポキシで貼り付け、発熱を感知するようにする。エポキシは普通のやつで十分だが、最近、組み立てパソコンの店にある熱伝エポキシだとさらによいかもしれない。(ただし、銀粒子などが入っていて導通があるものはまずい。)バイアスダイオードを放熱器に貼り付けておかないと回路が熱暴走するので、上記は必須である。
回路図のTr2, 4は電流制限用である。0.22 ohmの抵抗で約0.7Vほどの電圧差が発生すると出力をシャットダウンする。より大きな電流まで回路を動作させるには、この抵抗を小さくするか、発生電圧を分圧する。D7, D8のダイオードはトランジスターの破壊防止用である。
OPA604に付いているVR2はオフセット調整用である 。
回路全体のゲインはR11とR1によって決まり、2k ohm / 1k ohm = 2である。負帰還の抵抗値を変えればゲインを変えられる。2k ohmと並列に入っているコンデンサーC5(680 pF)は位相補償用で、回路の組み立てによる浮遊容量や負荷の形態によってアンプが発振する場合はこの容量を調整する必要がある。また、OPA604出力の330 ohmに付いているC3 = 0.022uFも位相補償用である。これらの補償については、文献1-1, 1-2等を参照されたい。設計は150kHzまでの帯域である。TI社の無償提供によるTina-TIでシミュレーションし、補償コンデンサーは決めてある。(Tina-TIにはOPA604があるが、他のTrは適当に選ぶ。)
この回路は交流磁界を発生させる実験装置のドライブを行う目的で作成され、写真とは別の例では、500回巻きで1mmのエナメル線のコイルをドライブしている。アンプの電源には24V 4Aのスイッチング電源を2台(+−用)、用いている。コイル(L)負荷の場合は周波数と共にインピーダンス( j omega L)が増すので、高い周波数だと出力電圧が不足になることもあり、前記のケースのコイルでは数十KHzまでしか十分にドライブできていない。なお、純抵抗負荷なら、より高い周波数まで可能と思われる。
p.s. 直流増幅、20Hz以下の増幅、および直流オフセットが必要でないなら、市販のオーディオアンプを使う手もある。20Hz ~ 100kHzで100Wのパワーアンプは10万以下で入手可能であり、出力電圧も数十V、得られる。当研究室では用途によってオーディオアンプとパワーオペアンプを使い分けている。
p.s.2 コイルの巻き数が少なかったりすると、コイルの純抵抗が低く、かつ、低周波数領域ではコイルのインピーダンスが低いため、ドライブしきれないことがある。その場合、出力波形が歪むことがある。
このパワーオペアンプと自作の任信号発生器をDC結合したコイルドライバーをこちらに紹介しておく。