穏やかなるかなカルネ村   作:ドロップ&キック
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久しぶりにあの娘の登場です。




第72話:”成したい事は多々あれど、現実は中々手厳しい”

 

 

 

「将来的には養蜂とか養蚕にも手を出してみたいんだよな~。治水事業とかも本格的にやりたいし……どう思う?」

 

水源地としてはひょうたん湖が有名だが、モモンガ的にはせっかく水資源が豊富なアゼルリシア山脈やトブの大森林があるのだから、飲料や農業用にダム湖でも作りたいようだ。

 

(人造湖ができたらリザードマンやドワーフに管理委託してもいいけど……)

 

カルネ村への帰り道、またしてもアイアンホース・ゴーレムを出して家路を急ぐ四人だが、モモンガは前に乗せたキーノについ将来の展望を語ってしまう。

 

「まずは人だろ? カルネ村の産業はぎりぎり維持できてるのが現状だ。金や土地はともかく、人的には新規事業を立ち上げる余力は無いぞ?」

 

ごもっともである。実は労働力的には二つの種族もやや不足気味である。

使い勝手のいい弓騎兵隊の設立を乙女の夢としてるエンリ・エモットとは対照的に、モモンガが夢の一つはカルネ村を一大農業生産地として安定化させることだった。

 

これは今でも手元に引き出せるこの100年で読み漁ったかつてのギルメンが遺した蔵書、特に死獣天朱雀やブルー・プラネットが持ち込んだ文化人類学や自然科学、人類史や農業史の本が大きく影響を与えているだろう。

 

『モモンガ君、古今東西を問わず為政者はどうやって国民を食べさせるかを一番に考えなければならないんだよ。むしろ食べさせられる国民の数が、為政者のステータスと言っていい。そういう意味では農政は国家の基本であり、農政の失敗は国家凋落の原因になる。今を見ていればわかるだろ?』

 

これは在りし日の死獣天朱雀の言葉だったか?

実はモモンガ、元々潜在的に農業に強い憧れがあった。

彼がリアル世界で人間として過ごした西暦2138年において、人間が長きに渡る英知をつぎ込み食料生産を支えてきた農業は完膚無きにまで叩き潰されていた。

農業にとって最も重要な大気も水も大地も、悉く……人の存在を許さぬほど汚染されていたのだ。

100年前まで、街のどこでも売っていた生鮮食品は、今やアーコロジーの一部で細々と水耕栽培で工業的に生産されるもののそれは一握りの富裕層の為の物であり、庶民の口に入るのは栄養学的には生きることが可能な合成食料ばかりだった。

モモンガの深層心理を探れば、もしかしたら彼がキャラメイクでユグドラシルでは主流だった人間種ではなく骸骨を選んだのは、人間という種に対する諦めがあったのかもしれない。

種族特性の飲食不要……というより不可は、鈴木悟という人物の現実に対するささやかな反抗心なのかもしれない。

 

 

 

その憧れが潜在から顕在に切り替わったのは、おそらくはこの転移してきた世界で種族属性を失うほど完全な人化が可能となる”人間の証明たる指輪(リング・オブ・ヒューマンビーイング)”の恩恵で、人として生きれるようになってからだろう。

人の姿を取るなら飲食不要のアイテムでも身に着けない限り飢えるし放置すれば餓死する。つまり必然だ。

そして栄養を摂取するなら食事が合理的で、食事するならどうせなら美味い物の方がいい。

そして漂着した新しい世界は、水も空気も大地も汚染されていないのだ!

 

それでも世界各地を時には傭兵や冒険者、時には評議国特使やエージェントとして転々としてるうちはよかった。

いや、その時でもその土地土地の野菜や果物の種子をこっそり買い集めてアイテム同様に、血が騒いでコレクションしていたようだが……

その憧憬が欲求となり爆発したのが、カルネ村に定住を決めた10年前。

 

ただ、いかんせん放浪生活(?)の90年の間、純銀の聖騎士(たっち・みー)への憧れからか数々のクエストの結果、前衛スキルばかりが上昇(アイテムをやたらいじってたせいかクラフトマン・スキルもとれたが)、気がつけば農業系スキルが入り込む余地の無いビルドに仕上がっていたのだ。

 

このうっかりさも実にモモンガ様らしいが……そこで生来の実験好きも手伝って、本から拾った様々な農業知識を集めた数々の膨大な種子や便利そうなアイテムやゴーレムと共に与え、時には単純農作業用のアンデッドまで召喚して農業の育成に勤しんだのだ。

トブの大森林で出会ったドライアードのピニスン・ポール・ペルリアを熱心にスカウトしたのも、この為である。

 

こんなことばかりし、村の食糧事情や財政が劇的に改善されればそりゃあ神様扱いもされるだろう。

 

人の姿の時も骨の時もとんでもない戦闘力を誇り、見かけも迫力あるが(特にお骨の時)、その内面は存外に平和主義なのかもしれない。

まあ、確実に平和主義一辺倒ではないだろうが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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「「お帰りなさい! お館様!! 奥方様!!」」

 

にこやかに迎えてくれたのは、本日の門番担当の二人だった。

装備の質が何気にエ・ランテルの衛兵より数段上なのは御愛嬌。

途中、午後の定期巡回(パトロール)に出ていたゴブリン・ライダー隊とエンカウントしたから、既に一団が帰路にあるという情報は村に届いているだろう。

エ・ランテルへの半ば出陣じみた小遠征ならともかく、元来モモンガもキーノも農作業の手を止めて総出で迎えるような出迎えは好まないのは、村人なら誰でも知っていることだ。

 

『村人が村を出入りするたび総出で送り迎えはしないだろう? 私とて村の一員なのだ。自然でいい』

 

とは本人の弁。それでも手が空いた者がいれば自然と集まってしまうのだが。

 

 

 

特に維持する必要もないので、アイアンホース・ゴーレムをもとの土塊に還元し、四人が村の中央広場へと向かうと……

 

「ん? 何やら騒がしいな?」

 

時間はちょうど午後の休憩時。

手が空いてる村人たちが集まっている。いや、より正確に言うなら人垣を作って何かを取り囲んでいるようだ。

良く見ればそこにでかくてやたらとモフモフな図体……ハムスケも混じって声援を飛ばしていた。

すると……

 

”バキャッ!!”

 

激しい打撃音が響くと同時に人垣が綺麗に割れ、

 

わきゃっ!?

 

「おっと」

 

何やらカタパルトで弾かれたように飛んできたそれを、モモンガ(ダークウォリアー)は慌てた様子も無くワンハンド・キャッチ。

腕に引っかかるように静止しているのは、”カルネ村修道会”公式のトレーニングウェア姿の……

 

「あんのクソガキ! 可愛い見た目のくせして滅茶苦茶反則じゃないのさっ!!」

 

「何をやってるんだ? 疾風走破(クレマンティーヌ)

 

「んげっ!? ダークウォリアー……」

 

 

 

予想の斜め上を行く風変わりな出迎えに、顔に?マークを浮かべるモモンガなのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




お読みいただきありがとうございました。

次がどこへ出向くにせよ、流石にクレマンさんをいつまでも捕虜として放置するわけにはいかないので、少々彼女のエピソードが続きます。

よろしければご感想、ご評価等々よろしくお願いします。


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