穏やかなるかなカルネ村 作:ドロップ&キック
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珍しく真面目な内容かも?
第71話:”ロフーレ商会”
さて、邪教団体ズーラーノーンが主犯となりエ・ランテルで引き起こした騒乱、後で言う”アンデッド・ナイト事件”は、その出現したアンデッドの数から考えれば驚くほど人的被害も物的被害も少なく終息した。
宵の口と呼ぶには少々遅い時間から始まったアンデッドの大量発生は夜半には事件は解決され、首謀者であるズーラーノーン十二高弟のカジットは意識が戻らないまま当局に引き渡された。
意識が戻り次第、尋問が開始されるはずだった。
その後、夜明け前にはダークウォリアー一行は、24時間体制で待機していた冒険者組合にて簡易的な口頭報告を行った。
そのまま夜明けと同時にカルネ村へ帰ろうとも思ったが、冒険者組合の前で待ち構えていたのは見覚えのある豪華な馬車。
その車体の横には堂々と”ロフーレ商会”の屋号と紋章が刻まれていた。
(ああ。ダークウォリアーとの”昵懇な関係”をアピールしたいってわけね)
☆☆☆
商会長であるバルド・ロフーレはエ・ランテルきっての名士で王国でも指折りの大店の主として有名だ。
そしてカルネ村にとっても重要なビジネス・パートナーだった。
何しろ事実上、カルネ村の物産をほぼ寡占状態で取り仕切ってるのがロフーレ商会だ。
他にも取引がある独立系商人もいるが、それらも「食料をメインで扱うロフーレ商会の取り扱い品目に入っていない」からで、これらの商人もロフーレ自身からの紹介で取引を始めたのだ。
また、ロフーレ商会の旨味は何も他の地域では手に入らない、ないし入手しづらいレアや高品質などの高付加価値な商材が取り扱えるだけじゃない。
例えば、指名依頼という形を取ることにより、カルネ村の自警団を兼ねた白金級冒険者チーム”カルネ村修道会”を優先的に雇えるというのも大きい。
ロフーレ商会は原作よりも輪をかけて大店であり、それ故に大規模な通商隊を組んだり、あるいは高価値商品や貴金属を輸送する場合も多い。
また大店である故に、「表沙汰にできないような手段」で商売の妨害を仕掛けてくるものも少なくない。
そういう場合において、商品が盗まれたり買収されて裏切られたりしない誠実さを持ち、大抵のモンスターや盗賊を返り討ちに出来る実力を持ち、割安で任務を引き受けてくれる”カルネ村修道会”は非常に助かる存在なのだ。
とにかく『いつでも白金級冒険者チームを護衛に雇える』というだけでも安全保障上は大きい。
”カルネ村修道会”の設立は、そもそも徴兵回避対策の方便であり冒険者としての資格を剥奪されない程度の実績を上げ続けられればいい。
極端に言ってしまえば、冒険者として儲ける必要はないのだが……だが、物事には相場というものがある。
あまりにも安い値段で請け負っては、同じ階級の……ひいては冒険者全体の依頼料全体の価格破壊に繋がり、食い扶持を奪ってしまうことになりかねない。
だが、何事も例外というものがあり、この場合は指名依頼がそれにあたる。
指名依頼は「双方の合意によって報酬が決まる」というワーカー寄りの契約であり、違うのは指名者から提示された報酬の幾分かが組合の取り分になるということだ。
なのでロフーレ商会から提示される報酬が、白金級の相場よりも割安でもよいと暗黙の了解ができていた。
普通に考えれば、”カルネ村修道会”は登録人数3桁に達する世界最大規模の冒険者チームで、ただでさえ安い依頼料を普通の冒険者チームのように人頭割したらたちまち子供の小遣いのような金額になってしまう。
だが、何度も似たようなことを書いているが、カルネ村の収入を支えているのは売り先であるロフーレ商会であることは間違いなく、商会が没落すれば村もまたただでは済まないため、そこらへんの事情も考慮されているのだろう。
繰り返すが、”カルネ村修道会”は特に冒険者として名声をあげる必要も利益をあげる必要もないのだ。利益はそれこそ他で出せばいい。それが出来る強固な関係を築いているのが、カルネ村とロフーレ商会だった。
まるで経済学的マッチポンプのようだが、王国有数の大店や王女の領地である村というのは、市長も組合長もそれなりにではあるが、考慮せねばならない物のようだ。
加えてロフーレは、一般的には実存が確定していない都市伝説として語られていたダークウォリアーとその妻イビルアイが10年前からカルネ村に在住してることを普通に知っていた。
それはそうだ。領主であるラナー王女の名代という肩書きであるダークウォリアーとは額の大きな商取引やら新商材の打ち合わせなどで何度も会っているのだ。
だが、少なくとも『公的には』王国で表立って活動していないこの二人にはなんらかの理由があると考えていたし、対面するのが常にカルネ村でも不平はなかった。むしろ行くたびに新しい発見と新たな商材の発掘=ビジネス・チャンスが得られるカルネ村への小旅行は楽しみですらあった。
また、砦のような外壁に囲まれ、用の無い外部者は基本立ち入りを許さない不文律があるカルネ村(王国では異端である死の神を信仰してる村だからとされている)へのいつでもフリーパスで来訪できるという立ち位置は、何気に彼の自尊心や特権意識を満足させているのも事実だった。
故にダークウォリアーもイビルアイもカルネ村に実存してることは公に言うことはなかった。
いや、プライベートで聞かれても、腹芸を駆使しあえてはぐらかしてきた。
だが、止むに止まれぬ非常事態だったとしても、こうしてついに表立って姿を現した二人を放っておくほど、バルド・フローレは無能ではない。
チームではなく個人として、おそらくは周辺国最強と噂される冒険者と
具体的に、広告塔効果だけを考えても絶大だった。
☆☆☆
そんな事情をなんとなく察した
ダークウォリアーが仰々しい歓待を好かない事を知っていたバルド・ロフーレは簡単な歓迎と労い、そして街をひいては商会を救ってくれたことに感謝の意を述べ、礼として風呂と仮眠を取るためのベッドルームの提供を申し出た。
この時代、
その中でも例外的に、贅沢にも湯浴み場がゲストルームに隣接してるのがロフーレ邸であり、一般的な来客からは富と権勢を見せ付けるためと思われていたが、実際にはカルネ村の影響だった。
湯浴みと仮眠、そして食事と一息ついた一同。
エンリとゼロは、現在組合に提出する本式の報告書の作成を行ってる最中である。どうやらせっかくなのでカルネ村に帰る前に済ませてしまいたいらしい。
そしてダークウォリアーというと……
「う~む……となると今年の小麦相場は益々上がりそうだな」
「ええ。徐々にではありますが、王国の食糧事情は年々確実に悪化してます。それに今年は天候がやや安定しませんし」
茶飲み話のはずが、何時の間にやら現状報告会と大雑把な商談になっていた。
この世界に来て既に一世紀だが、来た当初の人間性が失われておらず、むしろ人間としての円熟味を増したモモンガは、こう商人相手だとかつて生業にしていた営業職としての血が騒いでしかたないのだろう。
昔取った杵柄とでも言うべきか?
またロフーレ自身も『世を動かすのはいつの時代も商人だ』と言って憚らないダークウォリアーの開明的な在り様をひどく気に入っていた。
前近代的な思考が色濃く残る王国では、社会的な実力や実権はあっても商人は「下賎な者」とされ、特に貴族からは地位低き者とみなされていた。
モモンガにとってはお笑い草で、『商人がいなければパン一つ満足に買えない連中が何を言ってることやら』というところだ。
「なら、来年の作付面積を増やすか? いや、開墾自体は可能だけど労働力がなぁ」
どうやら高付加価値で取引されるカルネ村特産農作物の今年の生育具合の話をしながら、こういう話に発展したらしい。
蛇足ながら、少なくともカルネ村の近辺は天候に関する影響は他の地区に比べれば低く、特に干ばつや逆に大雨などには強いとされている。
無論、どこかの
更に、いざとなったら切り札で第4位階魔法の《コントロール・クラウド/雲操作》や更に上位で使える者がこの世界では数えるほどしかいない第6位階魔法の一つ《コントロール・ウェザー/天候操作》を平然と発動させるのだから。
「村人を増やす御予定は?」
モモンガの言うとおり、現在壁の外側への拡張工事をやってる最中だが、作付面積の拡大自体は可能だ。
現在、設営中の外塀の外側だったらまだまだ耕作地を広げられる。
もともと新たに川の水を引き込み作る堀は、農業用水にも流用する予定だ。
元々辺境の開拓村だったカルネ村の周辺はまだまだ未開拓な土地が多く、ある意味灌漑はやりたい放題だ。
天候だって魔法でどうにかなる。
それどころか必要なら超位魔法《ザ・クリエイション/天地改変》で、任意の土地を土壌その物から地下水脈に至るまで、劇的に変化/改善すらできる。実は村の公衆浴場に沸いている温泉も、この超位魔法の賜物である。
だが、肝心の労働力が常に不足気味なのがカルネ村だった。
「最近、どうにも周囲がキナ臭くてね。どこの”
ロフーレは「なるほどなるほど」と頷き、
「ならばいっそ奴隷に手を出してみるのは?」
「労働奴隷は、給与がいらない代わりに購買力が無いし長期的に見れば経済的にマイナスなんだが……それに王国では奴隷制度は廃止されたろ? 少なくとも建前的には」
というかそれは
「仮にも領主様の顔を潰すというのも」
するとロフーレは意味ありげに笑い、
「いえいえ。何も王国で買う必要もありますまい。それに、そのまま奴隷として使役なさらずとも良いではありませんか」
「というと?」
「亜人歓迎のカルネ村なら、国外で買い付け小作人に使うということも可能なのでは?」
それは商人らしい笑みだったという。
「無ければあるところから持ってくればいいのですよ。それが商人というものですから」
お読みいただきありがとうございました。
実はカルネ村の躍進を支える縁の下の力持ち、ある意味モモンガ様やラナーと同じ
実は、次のエピソードのルート決定に重要な役割を果たしたのが彼なのかもしれません。