穏やかなるかなカルネ村   作:ドロップ&キック
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このシリーズも通算70話を迎えました。
応援ありがとうございます。

そして、同時にエ・ランテル篇のラスト・エピソードになります。
わかりきったエンディングかもしれませんが……






第70話:”それはきっと、悪くない終わりかた”

 

 

 

「秘剣《竜鎚断(りゅうついだん)》!!」

 

 

 

その一太刀は、剣撃と呼ぶにはあまりにも速く、重く、威力がありすぎた……

唐竹割りをどこまでも強化したようなその一閃は、まずスケリトル・ドラゴンを”()()()()()()()()”に割断したっ!

だが、巨大な刃が通り過ぎるなり発生した打撃属性の衝撃が伝播し柔軟性のない骨の体を刹那で砕き、そして通り抜けた音速の剣風が跡形も無く骨の竜の残滓を吹き飛ばした!!

 

その威力まさに「が放つ罪の鉄」が如し。

げに恐ろしきはこれは基礎秘剣に過ぎず、更に上位武技を組み合わせた”奥義【竜王鎚断(りゅうおうついだん)”なる技もあるという。

 

 

 

☆☆☆

 

 

 

「そ、そんな、ありえん……ワシの5年間がただの一太刀などで……」

 

呆然とした表情を浮かべるカジットに対し、ささやかなキメ顔で着地し、剣を背中に収めながら『こっちは終わったぞー』とイビルアイ(キーノ)に小さく手を振るダークウォリアー(モモンガ)

 

(モモンガ、かっこよいぞー♪ あっ、なんか濡れてきちゃった)

 

吸血姫なのに人間、それもかなり敏感な部類のような反応を示すキーノちんである。

なんというか……実に調教済みという感じである。

 

じくじくと疼く股の感触……キーノはこの素直な反応を示すようになった肢体を100年前よりずっと気に入っていた。

人間も吸血姫も素直が一番だ。

それにこの見かけは幼い肢体(からだ)なら、

 

()()()()()()()()()()()()()も可能だし)

 

一体どんなプレイをしてるんだか。二人の性生活は謎に包まれている……としておこう。深淵を覗く者は、また深淵からと覗かれていると賢者も言っていた。

ただ、キーノは某鳥頭のギルメンに、神に対するが如き感謝を捧げている。主に色々とバリエーション的な意味で。

 

などとピンク色の思想で脳の大部分を()()()()ながらも、切り離された戦闘用の思考は最適解を導き出していた。

仮に原作ならば”死の宝珠”の残存エネルギー全てを使い二匹目のスケリトル・ドラゴンを召喚するところだろうが、それを許す感覚を彼女は待っていない。

 

「武技《流水加速》」

 

実はイビルアイが、この思考/神経/筋肉全てに加速効果が高い武技を使うのはかなり反則だ。

かなり異常な方法で人間から吸血鬼に変化したので他に類を見ないほど変り種だが、それでも彼女はアンデッドだ。故にしっかりその種族特性も生きていて、《流水加速》で発生するデメリット、極度の脳性疲労を完全に無効化できる。

 

そして、気がつかれぬ間にカジットの至近距離に入り込み、

 

《ダイヤモンド・カランビット/金剛石の嘴爪(しそう)短剣》

 

完成したエレメンタルマスター(アース)のスキルを見せ付けるように水晶ではなく、より硬度の高い(そして大地への干渉力が必要な)ダイヤモンドで、その名の通り猛禽の(くちばし)や爪を思わせる刃の短剣を瞬時練成する。

どことなく某バードマン(ペロロンチーノ)へのリスペクトが感じられる意匠ではある。

どうでもいいが、”魔法のカランビット”と書くと、何やら別の作品(魔法少女の特殊部隊物)が思い浮かんでしまうが……多分、それは気のせいだ。

 

イビルアイは、逆手に握ったカランビットの大きな湾曲刃を躊躇無く振り、

 

”ヒュバッ!”

 

「ぐはっ!?」

 

握った宝珠ごと、カジットの右手首をいとも容易く斬り飛ばす!

そして間髪いれず、

 

”どごっ!”

 

「ぶっ!?」

 

跳び回し蹴り一発でカジットを昏倒させた。

《スリープ/睡眠》の魔法でも良いような気もしたが、相手は暗黒面に落ちてるとはいえ魔法詠唱者。抵抗(レジスト)されたら面倒だと思った瞬間には脚が動いていたようだ。

小柄な魔法詠唱者という格闘戦にはとことん不向きなビルドだが、吸血鬼という身体能力に優れた種族特性のせいか彼女の近接戦スキルは実は見た目以上に高い。

流石に原作シャルティアには遠く及ばないだろうが、総合Lvの高さ(どんなに少なく見積もってもLv90以上)も相まって、並みの戦士職より近接でも遥かに強い。

未だ新婚気分が抜ける気配すらない旦那(モモンガ)と、日々格闘戦の訓練に励んでいるのだろう。ベッドの上での寝技やらマウント技やら。何もベッドの上とは限らないが。

 

「まあ、死んでないなら問題ないだろう」

 

どくどくと切断された手首から血は流れ続けているが、カルネ村名物”バレアレ商会のポーション”を振りかけたので、命に別状はないだろう。

流石に失なわれた血液が戻ったり、手首から先が生えてきたりはしないだろうが。

 

そしてイビルアイはきらきらと月光を乱反射させるカランビットを消し、

 

「これが今回のキー・アイテムだな。多分」

 

”死の宝珠”を拾い上げた。

 

その瞬間、

 

『おお! 我が支配できぬいと高貴なる闇の御方よ』

 

「はっ?」

 

『我が名は”死の宝珠”と申しまする。この世に死を振りまくために生み出されし魔道具』

 

「はた迷惑な魔道具もあったものだな。お前がこの男を支配し、操っていたのか?」

 

ちょっとこのまま握りつぶしてやろうかとも思ったが、

 

『いいえ。我は”死の螺旋”成就のため、ズーラーノーンがこの男に預けられたもの。我が支配する必要もなく、この男に力を貸していただけにすぎませぬ』

 

「ふーん」

 

真偽のほどは判らないが、自分を支配する力がないことは彼女にもわかった。

 

『されど貴女様に触れていただき、我が如何に矮小か思い至りました。貴女様の偉大なる負の力の前に、我は無き頭をたれる所存でございます』

 

「いや、別にいいが」

 

(命乞いか? 私程度で偉大なるとか言っていたら、”真なるモモンガ(死の支配者)”が触れたら壊れるんじゃないか?)

 

最低でも機能不全くらいは起こしそうだなと思っていると、

 

「イビルアイ、その宝珠と話しているのか?」

 

「ああ」

 

彼女は頷き、

 

「”死の宝珠”というらしい。世にも珍しいインテリジェンス・アイテム(知性あるアイテム)みたいだな」

 

するとダークウォリアーは少し考えてから、

 

「……レアだな。少なくとも”あちら側(ユグドラシル)”には無かったアイテムだ」

 

夫の表情から内心を察した彼女は、

 

「持って帰るか?」

 

「危険は?」

 

「少なくとも私が持つ限りはないな。微弱な支配力もあるようだが、どうやら人間用のそれらしい。機能的にはネガティブ・エナジーのプールとアンデッド生成や制御の補助機能と言ったところか?」

 

「むむっ……何気にお前向きの便利機能だな」

 

負のエネルギーは彼女の活力その物だし、どちらかと言えば不死/死霊(ネクロマンサー)系の魔法が得意ではない彼女を補佐できそうな雰囲気はあったが、

 

「エンリたちは別に触ったところで問題ないような気もするが……まあ、万が一村人が触ったときのことを考えて、いくつか保険(まほう)をかけておけば問題ないかな?」

 

『それに大きすぎるから少し加工したいな~』とモモンガは思ったとか思わなかったとか。

 

冒険者組合からも幾許かの報奨金は出るのだろうが、この事件における唯一の戦利品はこの”死の宝珠”なのかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

 

 

 

 

 

 

 

かくてエ・ランテルを舞台としたズーラーノーンが引き起こした”アンデッド・ナイト”事件は、大きな番狂わせも無くしめやかに終幕を迎えた。

 

人的にも物的にも街に大きな被害は無く。

カルネ村在住のためンフィーリア・バレアレが誘拐されることも無く。

クレマンティーヌやカジットはそれぞれ違う理由で命を落とすことも無かった。

 

クレマンティーヌは未だカルネ村に囚われたままだし、カジットは昏倒したまま警備兵に引き渡された。

前者には何やら別エピソードが待っていそうだが、後者は目を覚まし次第厳しい取調べが待っているのだろう。

 

また、”死の宝珠”はハムスケの頬袋にINではなく、イビルアイ(キーノ)の所有物になるようである。

インベントリにそのまま収納されるのではなく、何やら普段使いできるアクセサリか何かに加工されそうだが……どんな未来が待ち受けてるにせよ、彼的には大出世だろう。

少なくとも(ひな)びたオッサンや巨大ジャンガリアンの涎まみれになるよりは、随分とマシな未来のはずだ。

 

さて、では最後に最も運命が変わったかもしれない面々の様子を探ってみよう。

 

 

 

 

「うー、流石に死ぬかと思ったぜぇ~!」

 

とは一連の事件の活躍で、金級への昇格試験が受けられるようになった銀級冒険者チーム”漆黒の剣”、チームのムードメーカーでもあるレンジャーの”ルクルット・ボルブ”がいつもの軽い調子でお疲れアピールをすると、

 

「それほど限界のような戦いであったであるか?」

 

と返すのは森司祭(ドルイド)の”ダイン・ウッドワンダー”だった。

 

共同墓地内部での戦いは、夜半には既にダークウォリアーとイビルアイが決着を付けていたらしく、”漆黒の剣”が参戦していたのはエンリとゼロが陣取っていた墓地門前の戦いだ。

とは言っても、戦い自体は、

 

「実際、ほとんどエンリさんとゼロさんが斃しちゃったしな」

 

と苦笑するのは、リーダーで戦士のペテル・モーク。この中で唯一モモンガ(ダークウォリアー)と会話した人物だった。

彼の言うとおり苦戦とは程遠い状況だったが、門以外の……例えば壁の気づかないような小さな隙間から出たアンデッドがいないとも言い切れないので、少なくとも一両日中は警戒態勢は継続するとのこと。

パトロールに加わればボーナスを付けるという冒険者組合からのお達しが出ており、”漆黒の剣”に限らず有志一同はこの警戒任務に眠たい目を擦りながら参加。

他のチームとローテーションを組んで巡回、現在は活気を取り戻しつつある街のカフェで小休止中だった。

仮眠が取れるのはもう少し後だ。

 

「エンリさん、素敵でしたよねぇ~……」

 

とうっとりした表情で、ゴツいワンドでアンデッドをまとめてタコ殴りにしていた女神官の勇姿を思い出していたのは、性別不明(ニニャ)のタレント持ちな魔法詠唱者、”ニニャ・ザ・スペルキャスター”だった。

ちなみに”ザ・スペルキャスター”という二つ名は本人未公認だったりする。

 

「エンリさん、確かに綺麗だったよな~。それにあのエロい神官服がたまらん!」

 

するとニニャはジト目で、

 

「ルクルット、ワンドで殴られても知りませんよ?」

 

「神罰覿面であるな!」

 

「なんでそうなんだよっ!?」

 

 

 

なんとか今回の事件も全員無事に潜り抜けられた”漆黒の剣”……賑やかな仲間を見ながら、ふとペテルの脳裏に重厚な漆黒の甲冑が過ぎった。

 

「ダークウォリアー卿、噂どおりカルネ村に住んでるのかな?」

 

そんな呟きが、活気を取り戻した町の雑踏の中に消えていった。

 

 

 

 

 

 

 

原作という世界線に比べれば、この事件における出血量はずっと少なかったのかもしれない。

きっとそれは喜ぶべきことなのだろう。

だが、その結果が後にどのようなバタフライ・エフェクトを生み出すのか……それはまだ、誰にもわからない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




お読みいただきありがとうございます。

前書きにも書きましたが通算70話、私の連載では最長不倒距離となりました。
ついでに連載再開後で、現状最大の文章量です(^^

ここまでこれたのも応援してくださる皆様のおかげです。あるがとうございました。

次回以降はちょっとアンデッド・ナイトの事後処理的な話と、流石に捕縛したクレなんとかさんを放置するわけにもいかないので、ちょっと短めのチャプターを考えてるんですが……その先、どないしよ?(汗

一応、アイデアとしては某虹色リバースさんがチャプター・ヒロインになりそうな帝国篇とかも考えてるんですが、正直まだプロットすら無い段階です。

突発的に王女が幼児退行を起こしてると噂される竜王国篇とか書くかもしれませんが……気長にお待ちいただけたら嬉しいです。

では、これからもよろしくお願いします。


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