穏やかなるかなカルネ村   作:ドロップ&キック
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しばらくぶりのコソーリ深夜アップ(^^
旦那が前回活躍したので今回は……









第67話:”吸血の砂漠”

 

 

 

ふわりと夜空に浮かび上がったイビルアイ(キーノ)は、そのまま墓地の壁を越えて上空から()()を俯瞰する。

そこには、ダークウォリアー(モモンガ)が放った竜王の乱気流(ドラゴンロード・タービュランス)により、奥の奥まで真っ二つに切り裂かれたアンデッドの群れがあった。

 

()()()、今回は戦士縛りでカタをつけるのか?』

 

《メッセージ/伝言》でそう問うキーノ。

これまでメッセージが傍受されたことはないが、万が一を考えてモモンガではなくダークウォリアーの時の愛称を呼ぶ彼女である。

 

『ああ。前の”死の螺旋”の時は、魔法の試し撃ちに使ったからな。なので今回は前衛全開で行くよ』

 

『なら、私は右の群れを貰うよ』

 

『いいぞ。お前の魔法、久しぶりにでかいのが見たいな』

 

キーノは仮面の下で喜色満面の表情で、

 

『愛する夫のオーダーに応えるのが善き妻というものだな♪』

 

「刮目して見るがよいぞ!」

 

超大張り切りな彼女は、

 

「《マキシマイズマジック/魔法最強化》、《ペネトレートマジック/魔法抵抗難度強化》、《ワイデンマジック/魔法効果範囲拡大化》、《エクステンドマジック/魔法持続時間延長化》」

 

 

 

まるで月に手を伸ばすようにキーノは両手を掲げる。

 

「”我が名において生み出すは虚ろなる砂の大海 其は足を踏み入れし全ての血肉と魂が 無へと還る地なればこそ”」

 

呪文詠唱と共に、両手首につけた様々な魔法効果が付与された、宝玉が埋め込まれた透かし彫りのブレスレットが月光に煌いた。。

この世界には無い超希少金属七色鉱の一つ、アポイタカラを素材として作られたそれは、言うまでも無く夫からの贈り物だ。

 

無数の幾何学的意匠の魔方陣が展開され、その輝きを吸い込むように深く深く呼吸し……

 

「《ハムナプトラ/吸血の砂漠》!!」

 

 

 

☆☆☆

 

 

 

彼女が両腕を振り下ろしたときに起きたのは劇的な変化だった。

割断され二つの群れになったアンデッド、その右側の群れ足場が突如、きめの細かい砂地となったのだ。

月光に輝く不思議と赤い……夕暮れに染まる砂漠よりなお紅い砂は、突如変化を起こした。

 

砂が蔦のようにあるいは触手のように伸びて砂地を歩くアンデッドを次々と絡め捕り、紅き砂中へと飲み込んでいくのだ。

ただの《束縛》や《行動阻害》ではない。

 

何を隠そう、この”紅い砂漠(ハムナプトラ)”は、この100年で手に入れたブラッドリンカーの職業スキルを持つ彼女の”鮮血の貯蔵庫(ブラッドプール)”の一部を変化/変質させたものだ。

そう、この砂が紅いのは、血に染まってるからである。

 

紅い砂漠に捕らえられた者は、生者であればミイラのように干乾びるまで血を抜き取られ、死者であれば種族:ヴァンパイアである彼女の根源的な力である”負のエネルギー”を吸い尽くされ存在を維持できなくなり塵芥と化すのだ。

言い方を変えるならば、これは攻撃であると同時に”()()”だ。

 

これこそがヴァンパイアという種族特性を持ち、総合Lv90以上の魔法詠唱者で、高い大地や鉱物への干渉力を持つエレメンタルマスター(アース)や錬金術師(アルケミスト)、加えて、ユグドラシルでは無かった……この世界独自の稀有な職業”魔法創造者(スペル・クリエイター)”を持つキーノだからこそ完成しえた魔法……

 

前衛に立つ愛する夫のために後衛に特化するよう己を健気に鍛え上げたキーノ・ファスリス・インベルンが自身の第5位階魔法《サンドフィールド・オール/砂の領域・全域》を叩き台に編み出した強力な範囲攻撃魔法(MAP兵器)……”第十位階()()()()()()”こそ、《ハムナプトラ/吸血の砂漠》の正体だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

 

 

 

 

 

 

その日、共同墓地に配属されていた衛兵の一人、オーソンウェル・ドーソンは信じられない物を見た。

 

アンデッドの大量発生に泡食ってるときに現れたのは、漆黒の甲冑に身を包んだ戦士と小柄な仮面の魔法詠唱者、加えて神官の少女と禿頭のモンクの一団だ。

 

驚いたことに前者の二人はアダマンタイト級だという。

確かにエ・ランテルにも登録しているアダマンタイト級冒険者がいて、カルネ村に住んでいるという()()()()自体はオーソンウェル自身も聞いたことはあるが……

 

『たとえそれが事実であったとしても、隊長が門を開けるって判断したときは正気を疑ったね。だってそうじゃないか? 門の内側には千を超えるアンデッドどもが犇いていて、今にも鉄の扉がこじ開けられそうだったんだ。そんな状況、相手がオリハルコンだろうがアダマンタイトだろうが、普通どうにかできると思わないだろ?』

 

だが、

 

『結果として隊長の判断は正しかったのさ。この上なくな』

 

門を開け放った途端、押し寄せていたアンデッドに射掛けられたのは常軌を逸した魔法攻撃。

扉のそばに押し寄せていたアンデッドは残らず消し飛び、

 

『気がついた時には、黒の戦士が門の内側にいて轟音と共にアンデッドを跳ね飛ばしていたんだ』

 

その後も圧巻だった。

よくわからない一撃が線上にアンデッドを纏めて切り裂き、ついで起こった”()()()()()()()()()”が群れごと木っ端微塵にした。

オーソンウェルは、アンデッドどころか墓地その物が真っ二つになったと思ったらしい。

 

『だけどふわりと浮かんだマジックキャスターはもっと意味不明だったよ。月の光を浴びてなんか呪文を唱えたら、いきなり墓地の一部が砂地になったんだ。それも真っ赤なさ。腐れアンデッドどもは残らずそこに飲み込まれたんだよ……一体残らずな』

 

そして少し顔色を蒼くしながらグラスを呷り、

 

()()は英雄なんてチャチで生易しいモンじゃねぇよ。それとはまったく別の何かだ』

 

そしてインタビューの最後で、オーソンウェルはこう付け加えた。

 

『なあ、俺は一体何を見たんだだろうな……?』

 

 

 

墓地とはそもそも生者の領域ではない。

故にその日のエ・ランテル共同墓地の中で起きた戦いは、決して生者が立ち入ってはならない……”人の領域から外れた戦い”だったのだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




お読みいただきありがとうございました。

《ハムナプトラ/吸血の砂漠》の元ネタは、まんま映画のタイトルです(^^
実は、魔法的には《サンドフィールド・オール/砂の領域・全域》をベースに範囲を拡大、砂を吸血性を持った擬似生命体っぽくしたイメージで。

何気にキーノさんは原作でも《ヴァーミン・ペイン/蟲殺し》なんてオリジナル魔法作ってたのでLv上がればこれくらいいけるかなーと。





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