リクエストの泣き笑いに目を奪われがちだが、負けた理由は別にある。8回。なぜグラシアルと勝負した…。
2死からの連打で一、二塁。ここでソフトバンクが大きなギフトをくれた。1ストライクからの2球目に重盗したのだ。二、三塁。なぜこれがギフトなのかというと、一塁が空く。グラシアルの次は4番。だが、デスパイネはすでにベンチに退いていた。秀岳館高の主将として甲子園を沸かせた3年目の九鬼は、5月26日に1軍デビューしたばかり。1試合、2打席(死球と中飛)しかキャリアはないが、予備の捕手だから代打も出せない。満塁策で九鬼勝負。誰だってそう考える。
ロドリゲスは「ストライクを投げなくていいところで、打てる球を投げてしまった。サイン通りには投げたつもりだけど、甘く入ってしまった」と振り返った。
カウント1-1からボールを2球投げたまではよかったが、5球目にミスピッチでストライクを取ってしまった。虚をつかれたグラシアルだが、6球目も見逃してくれるほどお人よしではなかった。「(ボールにする)チェンジアップが浮いてしまった」とは捕手の武山。中前に転がる。2点適時打。グリーンライトだからと重盗するソフトバンクと、2球続けて制球ミスする中日。九鬼に打たれたのならあきらめもつくが、グラシアルに打たれるなんて…。
誰だって次の疑問が浮かぶだろう。「そもそも投げなきゃいけないの?」。外せという指示は、満塁にせよという意味でもある。それなら申告敬遠という便利なルールがあるじゃないか。
「細かいところはお答えできません。いろんなことが起きたシーンでした」。もちろん、敬遠を申告するのはグラウンドの選手ではなくベンチだ。采配の裏側を、与田監督は語らなかった。ベンチの意図。選手の心理。僕らがうかがい知れない部分は確かにある。だけどリクエストの明暗でではなく、敗因はこの2球にある。