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第12回 | アストンマーチンの最新車デザイン・性能情報をお届け

アストンマーチンDBR1──24億円超で落札された名車

海外の自動車メディアをチェックしていると、コレクターが手放した希少な名車がオークションに出品され、億単位の落札額でオークションハンマーが叩かれる…といったニュースをよく見かける。先日も、日本の納屋で発見された1969年製のフェラーリ『365GTB/4』、通称「デイトナ」が予想価格を上回る約2億3500万円で落札されて話題となった。そんななか、2017年8月下旬にカリフォルニア州モントレーで開催されたオークションで、英国車として歴代最高価格で落札されたのが1956年に製造されたアストンマーチン『DBR1』だ。その落札額は2225万ドル、じつに約24億6550万円にのぼる。

オークションで史上最高額が付けられた英国車、1956年製アストンマーチン『DBR1』

アストンマーチン『DBR1』を出品したのは、カナダで創業された老舗で、以前は「RMオークション」の名で知られていたRMサザビーズ。2015年から世界最古の美術品オークション会社であるサザビーズと提携し、現在の名称となった。

RMサザビーズをはじめ、各オークション会社は毎年夏、サンフランシスコから南へ約2時間のところにある美しい海岸線で開催される「ペブルビーチ・コンクール・デレガンス」の大規模なオークションに、価値の高いヴィンテージカーを競って出品する。2016年には、シェルビー『427S コブラ』、メルセデス・ベンツ『300SLロードスター』、フェラーリ『F40』、マツダ『コスモスポーツ』といった名車が出品され、コブラは落札されなかったものの、『300SLロードスター』が約1億2386万円で落札されなど活況だった。

しかし、今年の最高落札額は、まさしく桁が違う。クルマは英国車ファンなら誰もが知るアストンマーチンの『DBR1』。これまで英国車でもっとも高値で落札されたのは、1955年製のジャガー『Dタイプ』の2180万ドル(約24億1000万円)だったが、それを上回る2225万ドル(約24億6000万円)で落札されたのである。これによって、『DBR1』は“オークションで史上最高額が付けられた英国車”の称号を得ることとなったのだ。

生産台数わずか5台、1959年のル・マン24時間レースを制した英国車史上に残る名車

『DBR1』が英国車歴代最高となる価格で落札されたのには、いくつかの理由がある。まずひとつは、このクルマが1956年にレーシングカーとして開発され、わずか5台のみが製造された超希少車だったということだ。

1950年代前半、当時もっとも注目されていたチャンピオンシップである世界スポーツカー選手権は、市販車をベースにした車両でなければ出場することができなかった。しかし、1955年にレギュレーションが改定され、レース専用に開発されたマシンでも参戦することが可能となる。このとき誕生したのが『DBR1』だ。

5台の『DBR1』には、一般向けにアストンマーチンが開発した2.5Lの直列6気筒エンジンを搭載したモデルと、ル・マン用の3.0Lエンジンを搭載するモデルの2つがあった。RMサザビーズのプレスリリースによれば、オークションに出品された車両は3.0Lエンジン。しかも、シャーシナンバー「1」が付けられていることから、5台のうち最初に製造されたモデルだったようだ。

『DBR1』は世界3大レースのひとつである1956年のル・マン24時間でデビュー。この年はリタイアしたものの、1959年にはル・マンとニュルブルクリンク1000kmのダブルタイトルを獲得する。当時、不景気によるボンド危機を迎えようとしていたイギリスにとって、アストンマーチンが常勝フェラーリに勝利したニュースは、国中が喜びに湧き上がる出来事だった。

こうした歴史的背景もあり、『DBR1』は超希少車というだけではなく、アストンマーチン、そして英国車の歴史においても、もっとも重要なモデルとされている。そのため、オークションに出品されること自体が大きなニュースとして報じられ、2000万ドル以上の値がつくに違いないと噂されていたのだ。

“アストンマーチンのスペシャリスト”の手によって完璧にリメイクされた『DBR1』

このクルマのステアリングを握ったドライバーたちの名も『DBR1』の価値を引き上げた要因に違いない。たとえば、トニー・ブルックス、スターリング・モス、ジャック・ブラバム、ポール・フレール、ジム・クラーク…。いずれもモータースポーツ史上に燦然と輝く伝説的なレーシングドライバーばかりだ。

そしてもうひとつ、忘れてはならないのが車体の美しさだろう。写真を見ればわかるように、この『DBR1』はこれまで所有していたコレクターによって、本来の価値を下げないように細心の注意を払ってレストアされている。

エメラルドのように輝くグリーンメタリックのボディの塗装はもちろん、ダッシュボードのレイアウトも『DBR1』の設計者であるエドワード・ジョン“テッド”カッティングのリポートを基に再現。しかも、レストアを担ったのは、アストンマーチンのスペシャリストとして知られるR.S. Williams(リチャード・スチュアート・ウィリアムス)社なのだ。

つまり、アストンマーチンの歴史上もっとも価値のある名車が、正統な技術者の手によって完璧に蘇ったからこそ、これだけの高値で落札されたのである。巷では、『DBR1』に付けられた24億円超の価格をめぐって「高い」「安い」との議論がなされているが、落札したコレクターは心から満足しているに違いない。

Text by Koji Okamura

Photo by (C) RM Sothebys

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第20回 | アストンマーチンの最新車デザイン・性能情報をお届け

名門ラゴンダ復活──これがアストンの超高級電動SUVだ

アストンマーティンのEV(電気自動車)といえば、真っ先に思い浮かぶのは『ラピードE』だろう。2018年9月、ブランド初のEVとして発表された。これは、4ドアクーペのスポーツカー『ラピードS』のEVバージョンである。そして、アストンマーティンの動向に詳しい人なら、2018年のジュネーブモーターショーで発表された4人乗りリムジンのEV『ラゴンダ・ビジョン・コンセプト』も思い出すはずだ。あれから1年。今回のジュネーブではSUVのEVである『ラゴンダ・オールテレイン・コンセプト』が発表された。

かつての超高級車メーカー「ラゴンダ」が超ラグジュアリーな電動SUVとして復活

アストンマーティン『ラゴンダ』と聞いて、すぐにそのクルマを思い出せるのは、なかなかのカーマニアだ。同名で複数の車種がリリースされているが、最も有名なのは1974年から1990年まで製造されていた大型ラグジュアリーサルーンの『ラゴンダ』である。製造台数は1000台に満たず、日本で実車を目にした機会はかなり限定されたはずだ。

もともと『ラゴンダ』は、1906年に設立された超高級車メーカーだった。ル・マン24時間耐久レースで部門優勝した経験をもつ名門。戦前はベントレーに比肩するほどの存在として名を馳せた。アストンマーティン傘下となったのは1947年。その後、『ラゴンダ』の名は、アストンマーティンのモデルとして、『ラゴンダ ラピード』『ラゴンダ』など高級4ドアサルーンに採用された。近年では、2014年に限定150台で販売された『ラゴンダ タラフ』に約1億1500万円(現在の価格換算)という超高級価格がつけられ、話題となった。

それから4年。昨年のジュネーブモーターショーで、『ラゴンダ』はEVに特化した新しい超ラグジュアリーブランドとして復活した。そのときに発表されたのが、4人乗りのリムジン『ラゴンダ・ビジョン・コンセプト』だ。当時、「今後はクーペやSUVの構想もある」と報じられたが、今年3月に開催されたジュネーブモーターショー2019で、さっそくSUVタイプの『ラゴンダ・オールテレイン・コンセプト』がお披露目となった。

フロントシートが回転して後部座席と対面になる! 近未来的な室内は一見の価値あり

『ラゴンダ・オールテレイン・コンセプト』のデザインは、「スーパーヨットの世界から初期デザイン言語の一部を取り入れた」という。一見すると『ラゴンダ・ビジョン・コンセプト』の背を高くしたようにも見える。ボディラインはリアに向かって流れるような曲線を描き、優雅でありながら力強い。まさに、超ラグジュアリーSUVだ。

バッテリーを搭載したフロアは、高い剛性を実現するために車両後方にヒンジを備えたリアドアを採用。ドアは観音開きだ。またルーフが上に開き、乗降性を高めている。リアにはさらなる驚きがある。幅広いクラムシェルを持つリアハッチには、光源を隠した薄型のライトストリップを装備。LED光源が直接見えないように、下からの反射を利用した。

インテリアは落ち着いたダークカラー。シートは4座独立のキャプテンシートだ。自動運転中にはフロントシートをリアシート側に向けて回転させることが可能だという。室内はかなりすっきりとした印象で、ベントグリルやスピーカーなどは見当たらない。

次なる100年を見据えた7モデルのうちの一台。早ければ2020年に生産開始予定

2013年に創立100周年の節目を迎えたアストンマーティンは、現在、次なる100年のための「セカンドセンチュリープラン」を進めている。この計画にもとづき、今後7年で毎年一台ずつの新型車を登場させて7モデルの基本ラインナップを構築するという。

『ラゴンダ・オールテレイン・コンセプト』は、その第6モデルだ。今回はあくまでコンセプトカーとして発表されたが、すでに量産が視野に入っており、早ければ2022年にも生産が開始される。製造を担うのは、セント・アサン工場。英国ウェールズにあるアストンマーティン第二の生産拠点で、電動車両をメインとする工場だ。少し先の未来を示唆するアストンマーティンの超高級SUVのEV。市販されるとき、どのような仕上がりになっているかが楽しみである。

Text by Tsukasa Sasabayashi
Photo by (C) ASTON MARTIN
Edit by Takeshi Sogabe(Seidansha)

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