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第93回 | 大人のための最新自動車事情

ボリンジャーB1──箱型ボディのクールなEVトラック

このクラシカルな箱型ボディを持つトラックは、何十年も昔の軍用車などではない。聞いて驚くなかれ、最新の電動パワートレインを搭載した完全電気駆動のSUT(スポーツ・ユーティリティ・トラック)なのだ。開発したのは米国ニューヨーク州ホバートに本拠地を持つBollinger Motors(ボリンジャー モーターズ)。なんとも無骨なこの電動オフロード四駆は、その名を『B1』と言う。

EVのメリットをトラックに活かす斬新な発想と設計で生まれたボリンジャー『B1』

ボリンジャー『B1』を目にした人は、かなりの高確率で軍用車をイメージするに違いない。あるいは、ごく初期のランドローバー『レンジローバー』やメルセデス・ベンツ『Gクラス』を思い起こすかもしれない(『Gクラス』はNATO軍の軍用車両をアレンジして開発されたクルマだ)。

だが、この『B1』はSUTとして作られた最新EV(電気自動車)なのだ。それも、環境規制に対応するために生まれたのではなく、EVであることのメリットをトラックに活かした斬新な発想と設計で生まれたクルマなのである。

欧州では今、自動車業界に排ガス規制の嵐が押し寄せている。イギリスは2040年までにガソリンやディーゼル車の販売を全面的に禁止し、オランダやノルウェーは2025年、ドイツも2030年までにガソリン車の販売を禁止する。もはや自動車のEV化は避けられないというのが世界的な潮流だ。

ところが、現在の市販EVは環境問題への“対応策”という意味合いから抜け出せず、逆に『テスラ』はスポーツカーとしての方向性を強調するあまり、実用性が置き去りにされた。そのため、EVは特殊なカテゴリという位置づけとなっている

しかし、クルマ好きが全員、ロードスポーツカーが好きなわけではない。むしろ、日常をクルマとともに愉しみたいと考える人のほうが多数派のはずだ。そうなれば、EVも乗り物としての走りはもちろん、そこにどれだけ実用性があるかがポイントとなる。そういう意味で『B1』には注目せざるを得ないのだ。

ピックアップにもなる『B1』、アウトドア派ドライバーには夢のようなコンポーネント

『B1』は注目ポイントだらけだが、まずその特徴を表しているのがシャーシだろう。角材で構成されたかのようなスチール製のラダーフレームは、見た目と見事に符合し、そこにバッテリーを並べるための床板をつけた…といった形状を持つ。

よく知られているように、電気モーターは動力として非常に小さく、バッテリーを含めた重量物を低い重心位置に集中させることができる。このために、ガソリンエンジンでは到底不可能な低重心を実現しただけではなく、前後輪の重量配分を理想的な50:50にすることも可能になった。

そして、なによりもトラックとしての機能を重視、いやトラックとしての機能の追求こそが、この『B1』のコンセプトとなっている。シャーシに乗せた無骨な、しかし美しいボディは全アルミ製で、スペースを取るエンジンや小さなミッション(一般のEVにはミッションはない)特性を生かし、後部の荷室からボンネットまで貫通させたペイロードを確保している。

なにしろ、全長12フィート(365cm)のボディ素材をはみ出すことなくドカンと載せられるのだ。長尺の材料だけではない。後部座席は取り外しが可能なので、トランクだけでも4×8フィート(約120×240cm)のボードを平積みできる広さがある。

しかも、ハーフキャビンへの変更もできるので、ピックアップトラックとして使うことも可能だ。これはアウトドア派のドライバーにとって夢のようなコンポーネントに違いない。

「テスラ」とは違う…シリコンバレーではない牧草地で生まれた画期的EVトラック

クルマの動力性能をはかるものはパワーや加速性能だけではないが、『B1』の数値を見ると披露しないわけにはいかない。

パワーは馬力に換算すると、じつに360hp。加速性能は0-60mph(96.56km)で4.5秒を誇る。これはメルセデスAMG『C63』やアウディ『S4』と並ぶ数字だ。もはやオフロード車の概念を変えかねない動力性能である。

航続距離は、標準の60kwhのバッテリーパックで120ml(193km)。オプションで200ml(322km)走れる100kwhバッテリーが用意される予定だという。

ボリンジャー モーターズの創業者、ロバート・ボリンジャー(Robert Bollinger)は、マサチューセッツ工科大学やカリフォルニア工科大学と並ぶ名門大学、カーネギーメロン大学で工業デザインの学位を取得。大手の広告代理店などに勤めたのち、牧草地の牛舎でSUTの設計に取り組み始めたという。

そこはニューヨーク州とはいえ、大都会マンハッタンからは遠く離れた場所だ。ボリンジャーは自分たちの居場所がシリンコンバレーから離れていることをたびたび強調しているが、その言葉が「テスラとは違う」ということを意味するのは明白だ。

セレブレティのためのEVスポーツではなく、実用的であることをコンセプトとした無骨なルックスのEVトラック。価格や販売時期に関してはまだアナウンスがなく、今のところ、2018年初頭に1000ドルの予約金を支払うことによって予約注文できることだけが決まっている。

Text by Koji Okamura

Photo by (C) Bollinger Motors

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第130回 | 大人のための最新自動車事情

エモーションEV──バタフライドアの電動スポーツカー

ポルシェ初の量産EVスポーツカーとして話題の『タイカン』は今年生産を開始し、驚異的なスペックを誇るテスラのスーパースポーツカー『ロードスター』も2020年の発売を予定している。EVスポーツカーは、いま旬を迎えつつあるカテゴリだ。そうしたなか、アメリカのフィスカーがCES 2019で初公開した『エモーションEV』が予約受付を開始した。バタフライ4ドアが特徴の高級フルEVスポーツは、いったいどんなクルマなのか。

BMW『Z8』やアストンマーチン『DB9』のデザイナーが手がけた高級スポーツEV

フィスカー『エモーションEV』は、ヘンリック・フィスカー氏の手によるエレガントなデザインの高級EVスポーツカーだ。フィスカー氏はデンマーク出身の著名なカーデザイナー。BMWに在籍していた当時に『Z8』、EVコンセプトモデルの『E1』などを手がけ、アストンマーチンでは『DB9』『DBS』『ヴァンテージ』のデザインを担当した。

その後、独立してメルセデス・ベンツやBMWをベースにしたコンプリートカーやハイブリッドエンジン搭載のオリジナルモデルを製作するが、じつは、テスラで『ロードスター』『モデルS』の2モデルの開発に参加したこともあるようだ。そのせいというわけではないだろうが、『エモーションEV』のデザインはどこかテスラに似た雰囲気もある。

ともあれ、スタイリングは「美しい」のひと言に尽きる。とりわけ特徴的なのは、開くとドア側面が蝶の羽のような形に見える「バタフライ4ドア」だ。同じ上部に向かって開くドアでも、縦方向に開くシザースドアと違い、バタフライドアは外側が斜め前方に、内側が下向きに開く。駐車スペースに苦労する日本ではなかなかお目にかかれないドアだ。

バッテリーはリチウムイオンではなく炭素素材コンデンサ。多くの先端技術を搭載

面白いのは、バッテリーに多くのEVに採用されるリチウムイオンではなく、炭素素材コンデンサのグラフェンスーパーキャパシタを採用したことだ(全個体充電池搭載モデルもラインナップ)。1回の充電あたりの最大走行距離は約640km。急速充電の「UltraCharger」に対応しており、9分間の充電で約205km分の容量までチャージ可能という。

EVパワートレインは最高出力700psを発生し、最高速度は260km/h。このスペックを見ると、テスラ『ロードスター』のようなEVスーパースポーツではなく、あくまでスポーティカーという位置づけなのだろう。全長5085×全幅2015×全高1465mmのボディは軽量のカーボンファイバーとアルミニウムで構成され、駆動方式は四輪駆動だ。

このほか、ADAS(先進運転支援システム)としてクアナジー製LIDARセンサーを5個搭載し、コネクテッドなどのEVスポーツカーらしいさまざまな先端技術を装備する。

『エモーションEV』の価格は1440万円。予約も開始され今年中にデリバリー予定

前述の通り、『エモーションEV』はグラフェンスーパーキャパシタ搭載モデルと全個体充電池搭載モデルの2モデルを設定。価格はグラフェンスーパーキャパシタ搭載モデルが1440万円(税別)、全個体充電池搭載モデルの価格は未定だ。すでに日本でもデロリアン・モーター・カンパニーを正規代理店に予約受付を開始しており、グラフェンスーパーキャパシタは今年中の納車を予定している。ただし、予約金として約24万円が必要だ。

最近では東京都心部などでテスラをよく見かけるようになり、もはやEVは現実的な乗り物になりつつある。たしかに価格は1000万円オーバーと高価。しかし、この美しいルックスなら、他人と違うクルマに乗りたいという欲求を満たすことができるのではないか。

Text by Kenzo Maya
Photo by (C) Fisker, Inc.
Edit by Takeshi Sogabe(Seidansha)

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