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第46回 | メルセデス・ベンツの最新車デザイン・性能情報をお届け

超弩級EV──ビジョン メルセデス・マイバッハ 6

貴重なヴィンテージカーが一堂に会し、華麗さや時代考証の確かさなどを競うイベントを「コンクール・デレガンス」と言う。クルマが文化として根付いている欧米では盛んに行なわれているイベントだ。そのコンクール・デレガンスの頂点に君臨するのが、カリフォルニア州モントレーで開催される「ペブルビーチ・コンクール・デレガンス」である。近年はコンクールやオークションだけではなく、高級車ブランドがコンセプトカーをお披露目することも増えてきた。今年のペブルビーチで注目を集めたのは、メルセデス・ベンツが発表した『ビジョン メルセデス・マイバッハ 6 カブリオレ』という途轍もないコンセプトモデル。ラグジュアリーの極みというべき、2人乗りのEVオープンカーである。

息を呑むようなスタイリングの『ビジョン メルセデス・マイバッハ 6 カブリオレ』

メルセデス・ベンツを擁するダイムラーAGのチーフデザインオフィサー、ゴードン・ワグナー氏は、『ビジョン メルセデス・マイバッハ 6 カブリオレ』をこう表現する。

「現代的なラグジュアリーさを究極の領域にまで昇華させており、我々のデザイン戦略を完全に体現している。息を呑むようなプロポーションと豪華な“オートクチュール”インテリアの組み合わせが、究極の体験を作り出す」

この言葉の通り、一見しただけでもそのスタイリングのインパクトはかなりのもの。驚かされるのは、2シーターなのに全長が5.7mもあり、にもかかわらず、その巨大なボディが鈍重ではなく、むしろ優雅に見えることだ。ロングノーズ・ショートデッキのプロポーションは1950年代の高級オープンカーを思い起こさせ、また、リアスタイルはクラシカルなヨットのようでもある。

下の写真のボディカラーは「ノーティカル ブルー メタリック」と呼ばれる濃紺。「ノーティカル(航海の、海上の)」という言葉でわかるように、このボディカラーも「ヨットのようなフィーリング」を表現したものだ。ホイールもクラシカルなデザインのマルチスポークで、インテリアに合わせてローズゴールドで仕上げられている。

高級ラウンジのような爽快な室内に、SF映画に登場するような未来的な機能を装備

インテリアには、まるで360度のパノラマを愉しめる高級ラウンジのような爽快感が横溢している。

印象的なのは、タッチセンサー式のインターフェイスの役割を持つ未来的なガラストリムを装備する一方、ヘリテージに敬意を表してアナログメーターを採用していることだ。しかし、機能面はSF映画に登場するそれに近く、フロントガラスには運転に必要なあらゆる情報が表示され、ジェスチャーで情報のコントロールや調節が可能だという。

シートは最上級のホワイトレザー。輝きを添えるステッチはホイールと同じローズゴールドだ。このシートにはボディセンサーが組み込まれており、オーナーや助手席に座る乗員の体のコンディションを読み取ってエアコンディショナーを調節してくれる。さらに、マッサージ機能を備えるほか、その日のファッションの色から照明のテーマまで調節するのだ。

フロアには、ヨットの雰囲気を演出するために、アルミのストライプが入るウッドパネルが敷き詰められた。センターコンソールの透明なトンネル内で光るライトチューブは、心臓部であるモーターからの電流の流れを示している。

パワーユニットは最高出力750psを発生する4基の電気モーター、航続距離は322km

パワーユニットはもちろん電気モーターで、最高出力750psを発生する4基のコンパクトな電気モーターを搭載。長いボンネットは70〜80年前のクルマのように2枚のパネルが中央部分の蝶番で開き、そこはエンジンの代わりに広々としたトランクとなっている。

メルセデス・ベンツによると、0-100km/h加速は4秒以下、バッテリーの容量は80kWh。1回の充電による航続距離は、EPA(米国環境保護庁)の検査値では200マイル(約322km)。普通充電と急速充電を1つのコネクタで行う「コンボ(Combined Charging System)」なら、わずか5分間の充電で100km近い距離が走行可能だという。

コンセプトモデルの『ビジョン メルセデス・マイバッハ 6 カブリオレ』が何年か先にこのまま市販化されることは考えにくい。

とはいえ、このクルマはメルセデスのデザイン哲学を体現し、EVに対する同社の取り組みを示したものだ。メルセデス・ベンツは9月のフランクフルトモーターショーで、システム合計約1000psを発生するハイブリッドエンジンを搭載したハイパーカー、メルセデスAMG『プロジェクト ワン』を発表している(余談だが、このクルマの価格は3億円超。限定270台余りといわれる販売台数はすべて売約済みという)。

そう考えると、『ビジョン メルセデス・マイバッハ 6 カブリオレ』をベースに、より現実的な形に近づけたモデルがメルセデス・ベンツのEVブランド『EQ』から登場することもあり得るだろう。ただし、並みの富裕層では手に入れることのできない価格になるに違いないが…。

Text by Kenzo Maya

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第77回 | メルセデス・ベンツの最新車デザイン・性能情報をお届け

エンスー垂涎の納屋物──メルセデス300SLガルウィング

ヒストリックカーの世界には、「バーン・ファウンド(Barn Found)」と呼ばれるジャンルが存在する。バーンは「納屋」、ファウンドは「見つかった」。つまり、納屋で見つかった古いクルマという意味だ。いわゆる「納屋モノ」。2年前の夏、岐阜県の納屋から発掘された1969年のフェラーリ『365GTB/4“デイトナ”』がオークションで高値落札され、世界中で大きなニュースとなったのは記憶に新しい。そして今年3月、やはり納屋で見つかった古いメルセデス・ベンツが、フロリダ州で開催されたコンクール・デレガンスに登場して注目を集めた。朽ち果てた姿で会場に展示されたそのクルマは、1954年に製造された『300SL“ガルウィング”』。名車中の名車とうたわれる、コレクター垂涎の一台である。

亡き石原裕次郎も愛車にしていたメルセデス・ベンツの名車『300SL“ガルウィング”』

『SLクラス』の「SL」は、ドイツ語でライトウェイトスポーツを意味する「Sport Leicht (シュポルト・ライヒト)」の頭文字からとったものだ。メルセデス・ベンツがラインナップする2シーターオープンカーの最高峰に位置づけられている。その初代モデルとなったのが『300SL』である。1954年のニューヨークモーターショーでデビューした。

通称は“ガルウィング”。特徴のひとつであるガルウィングドアに由来する。『300SL』はワークスレーサーのプロトタイプとして開発されたモデルで、当時のレーシングカーと同じ鋼管スペースフレーム構造をもっていた。それゆえに、ドアの下半分をフレームが通っており、また、開口部の敷居が高いうえに車高が低くて非常に乗り降りがしづらい。こうしたことから、やむを得ずガルウィングが採用されたというエピソードが残っている。

世界初の直噴エンジン搭載車としても知られ、車名の「300」はメルセデス・ベンツの排気量表記で3.0Lを意味する。直列6気筒エンジンは最高出力215psを発生し、最高速度は260km/h。当初は市販予定がなかったが、有力インポーターが北米市場に需要があるとメルセデス・ベンツを説得し、わずか1400台が生産・販売された。そのうちの一台は、あの昭和の大スター、石原裕次郎の愛車となり、現在も北海道小樽市の石原裕次郎記念館に展示されている。その『300SL』が、ご覧のような姿で納屋から発見されたのだ。

半世紀以上もガレージでホコリをかぶっていたが、ほぼオリジナルに近い状態を保持

シャシーナンバー「43」の『300SL』は、2018年末にフロリダ州のとあるガレージで見つかった。発掘したのはドイツ・シュツットガルト郊外に専用施設をもつ「メルセデス・ベンツ クラシックセンター」。同社のヒストリックカーのレストアのほか、レストア済み車両の販売も行う。施設内には真っ赤なボディカラーの『300SL』も展示されている。

この『300SL』は1954年にマイアミ在住のオーナーに出荷された個体で、走行距離計が示しているのは、たったの3万5000kmだ。Englebert社製のCompetition(コンペティション)タイヤにはまだ空気が少し残っていたという。車両自体もほぼ出荷時のままで、ボディパネル、ライト類、ガラスパーツ、グレーのレザーシート、ステアリングホイール、インテリアトリム、パワートレイン、ホイールにいたるまでオリジナルを保持している。

注目してほしいのは、「フロリダ植民400年」を記念した1965年のリアのナンバープレートだ。これを見ると、持ち主は少なくとも1954年から1965年までクルマを所有していたことがわかる。つまり半世紀以上を納屋で過ごしていた可能性が高いのである。

フロリダの国際コンクール・デレガンスには連番シャシーの二台の『300SL』が登場

ボロボロの『300SL』は発見したクラシックセンターの手にわたり、フロリダ州の高級リゾート地、アメリア・アイランドで毎年開催される「アメリア・アイランド・コンクール・デレガンス」(今年は3月7日から10日)にて旧車ファンたちにお披露目された。

その隣に並んでいたのは、見事に修復された鮮やかなブルーの『300SL』。驚いたのは、この個体のシャシーナンバーが「44」だったことだ。そう、納屋で発見された『300SL』の次に生産された個体なのである。『300SL』のような希少なヒストリックカーが連続するシャシーナンバーでコンクール・デレガンスに登場するのはかなりレアな出来事だろう。

『300SL“ガルウィング”』はメルセデス・ベンツのなかでも名車中の名車として知られ、自動車コレクターなら必ず所有したい一台といわれている。その価値は現在も上昇し続けているほどだ。そういう意味では、なんとも貴重で贅沢な光景といえるのではないか。

Text by Kenzo Maya
Photo by (C) Daimler AG
Edit by Takeshi Sogabe(Seidansha)

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