息を呑むようなスタイリングの『ビジョン メルセデス・マイバッハ 6 カブリオレ』
メルセデス・ベンツを擁するダイムラーAGのチーフデザインオフィサー、ゴードン・ワグナー氏は、『ビジョン メルセデス・マイバッハ 6 カブリオレ』をこう表現する。
「現代的なラグジュアリーさを究極の領域にまで昇華させており、我々のデザイン戦略を完全に体現している。息を呑むようなプロポーションと豪華な“オートクチュール”インテリアの組み合わせが、究極の体験を作り出す」
この言葉の通り、一見しただけでもそのスタイリングのインパクトはかなりのもの。驚かされるのは、2シーターなのに全長が5.7mもあり、にもかかわらず、その巨大なボディが鈍重ではなく、むしろ優雅に見えることだ。ロングノーズ・ショートデッキのプロポーションは1950年代の高級オープンカーを思い起こさせ、また、リアスタイルはクラシカルなヨットのようでもある。
下の写真のボディカラーは「ノーティカル ブルー メタリック」と呼ばれる濃紺。「ノーティカル(航海の、海上の)」という言葉でわかるように、このボディカラーも「ヨットのようなフィーリング」を表現したものだ。ホイールもクラシカルなデザインのマルチスポークで、インテリアに合わせてローズゴールドで仕上げられている。
高級ラウンジのような爽快な室内に、SF映画に登場するような未来的な機能を装備
インテリアには、まるで360度のパノラマを愉しめる高級ラウンジのような爽快感が横溢している。
印象的なのは、タッチセンサー式のインターフェイスの役割を持つ未来的なガラストリムを装備する一方、ヘリテージに敬意を表してアナログメーターを採用していることだ。しかし、機能面はSF映画に登場するそれに近く、フロントガラスには運転に必要なあらゆる情報が表示され、ジェスチャーで情報のコントロールや調節が可能だという。
シートは最上級のホワイトレザー。輝きを添えるステッチはホイールと同じローズゴールドだ。このシートにはボディセンサーが組み込まれており、オーナーや助手席に座る乗員の体のコンディションを読み取ってエアコンディショナーを調節してくれる。さらに、マッサージ機能を備えるほか、その日のファッションの色から照明のテーマまで調節するのだ。
フロアには、ヨットの雰囲気を演出するために、アルミのストライプが入るウッドパネルが敷き詰められた。センターコンソールの透明なトンネル内で光るライトチューブは、心臓部であるモーターからの電流の流れを示している。
パワーユニットは最高出力750psを発生する4基の電気モーター、航続距離は322km
パワーユニットはもちろん電気モーターで、最高出力750psを発生する4基のコンパクトな電気モーターを搭載。長いボンネットは70〜80年前のクルマのように2枚のパネルが中央部分の蝶番で開き、そこはエンジンの代わりに広々としたトランクとなっている。
メルセデス・ベンツによると、0-100km/h加速は4秒以下、バッテリーの容量は80kWh。1回の充電による航続距離は、EPA(米国環境保護庁)の検査値では200マイル(約322km)。普通充電と急速充電を1つのコネクタで行う「コンボ(Combined Charging System)」なら、わずか5分間の充電で100km近い距離が走行可能だという。
コンセプトモデルの『ビジョン メルセデス・マイバッハ 6 カブリオレ』が何年か先にこのまま市販化されることは考えにくい。
とはいえ、このクルマはメルセデスのデザイン哲学を体現し、EVに対する同社の取り組みを示したものだ。メルセデス・ベンツは9月のフランクフルトモーターショーで、システム合計約1000psを発生するハイブリッドエンジンを搭載したハイパーカー、メルセデスAMG『プロジェクト ワン』を発表している(余談だが、このクルマの価格は3億円超。限定270台余りといわれる販売台数はすべて売約済みという)。
そう考えると、『ビジョン メルセデス・マイバッハ 6 カブリオレ』をベースに、より現実的な形に近づけたモデルがメルセデス・ベンツのEVブランド『EQ』から登場することもあり得るだろう。ただし、並みの富裕層では手に入れることのできない価格になるに違いないが…。
Text by Kenzo Maya