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第5回 | フォードの最新車デザイン・性能情報をお届け

フォードFトラック──100歳を迎えた全米No.1モデル

2016年に直営ディーラーをすべて閉鎖し、日本から撤退したアメリカ自動車業界「ビッグスリー」のひとつであるフォードモーター。日本ではフォードに限らず、アメ車はなかなか売れない。ファンには残念な話だが、撤退はやむを得なかったといえる。しかし、アメリカではまったく事情が違う。フォードのピックアップトラック、通称「Fトラック」は、販売台数のライトトラック部門(ピックアップトラック、SUV、ミニバン)で40年間トップに君臨し、乗用車を含めたカテゴリでも30年以上に渡って1位を獲得。まさにアメリカの“国民車”なのだ。このフォードのピックアップトラックが先日、誕生100周年を迎えた。

フルレストアやホットロッド仕様も! 今も人気を集める2代目Fシリーズ『F-100』

フォードのピックアップの誕生は、今から100年前の1917年に作られたトラックの『モデルTT』に遡る。“Fトラック”ことFシリーズの初代モデルが登場したのは、創業者ヘンリー・フォードの最年長の孫であるヘンリー・フォード2世が社長となり、アメリカ経済が戦争から立ち直りつつあった時代。ちょうど戦後初のフォードの新型乗用車、『カスタム』がヒットしたのと同じころだった。

この間、Fトラックはアメリカの風土や文化に合わせてガラパゴスのように独自の進化を遂げてきた。たとえば、1953年に登場した2代目Fシリーズの『F-100』は、ブリキのおもちゃのような外観、愛らしいフロントマスクなどから、今もって多数のファンを持つ人気モデルだ。

外観、内装、エンジンをフルレストアしてピカピカにするのは当たり前。外装はいわゆる“ヤレた”ままにしつつ、心臓部を最新エンジンに換装するオーナー、さらにはストリートロッドに仕立てて西海岸を流したり、ホットロッド仕様にカスタムしてレースに出場したりするオーナーもいる。

現在の主力モデル『F-150(エフ ワンフィフティ)』シリーズが登場したのは1975年。以降、Fトラックは屈指の人気モデルとなり、全米販売台数のトップに君臨し続けることとなるのだ。

しかし、そうはいっても“たかがトラック”であることに変わりはない。Fトラック、そしてピックアップトラックは、なぜこれほどアメリカの人々の間で愛されているのか。そこにはアメリカならではのカルチャーが存在する。

『バック・トゥ・ザ・フューチャー』の主人公マーティも憧れたピックアップトラック

アメリカでピックアップトラックが人気を集めるのは、荷物を運ぶという貨物用途が一番の理由ではない。通常は空荷で走らせ、通勤や通学、買い物といった普段使いされることのほうが圧倒的に多いのだ。

人気の理由は地域によっても異なる。たとえば、東海岸では「他人とは違うチョイス」という意外性で人気を集め、西海岸ではそのマッチョなスタイルがファッションとして人気だったりする。中西部や南部では、西部開拓時代に不可欠だった馬を彷彿とさせることなどから、ヨーロッパ車よりもピックアップトラックを持つことのほうがステータスとなっているようだ。

また、キャンパー、ボート、トレーラーなどの牽引するレジャー用の移動車両としてピックアップトラックが使われることも多い。

もうひとつ大きいのが、ピックアップトラックは州によって自動車税が割安となること。そのため、所得の少ない若者たちがこぞってピックアップに乗り始め、急速に普及していった経緯がある。事実、1985年に公開された映画『バック・トゥ・ザ・フューチャー』では、マイケル・J・フォックスが演じた主人公のマーティが憧れるクルマとしてピックアップトラックが登場するくらいだ(フォードではなくトヨタのピックアップだったが)。

“たかがトラック、されどトラック”、Fトラックはアメリカの人々にとって生活の一部

筆者は『バック・トゥ・ザ・フューチャー』が公開された当時、カップルがピックアップトラックの荷台にブルーシートを被せて水を入れ、即席プールにして愉しんでいるのをロサンゼルスのベニスビーチ近くで見かけたことがある。

また、荷台に芝生を敷いてその上に小屋を置き、2頭のラブラドールレトリバーのための動くハウスにしているピックアップトラックをフリーウェイで目撃もした。これには驚いた。

愉しみ方はぞれぞれで、その可能性は無限に広がっている。“たかがトラック”でも、“されどトラック”なのだ。ピックアップトラックは、アメリカの人々にとって生活の一部であり、レジャーの始まりなのである。

ちなみに、『F-150』の上位機種となる『F-150 Rapter(ラプター)』は、450馬力を発揮するV6エンジンにGM(ゼネラル・モーターズ)と共同開発した10速オートマチックトランスミッションを組み合わせ、“モンスタートラック”の異名を持つ。

新開発の4WDシステムなどを採用し、またアップグレードしたフォックスレーシング製ハイパフォフォーマンスショックアブソーバーを装備するなど、その完璧なスペックはキング・オブ・トラックと呼ぶにふさわしい。価格は4万9250ドル(約537万円)から。日本国内で乗るなら、北海道をおすすめしたい。なにせ、全長約5m、全幅約2mというサイズは、ミニバンよりも大きいのだから、杉並辺りの住宅地では曲がれないのだ。

下のリンクにあるフォードのオフィシャル動画では、アメリカの人々に愛されてきたフォード製ピックアップ100年の歴史を振り返っている。クルマが家電化してEV(電気自動車)が主流となる時代が来ても、アメリカではFトラックが人気車種であり続けるに違いない。

Text by Katsutoshi Miyamoto

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第10回 | フォードの最新車デザイン・性能情報をお届け

マスタング シェルビーGT500──これぞマッスルカーだ

フォードは北米市場でセダン系車種の生産を終了し、今後はSUVとピックアップトラックに注力する方針を明らかにしている。2020年以降の「Ford」ブランドは、SUVとピックアップトラックがラインナップの大半を占めることになるのだ。ただし、例外の車種もある。その筆頭が『マスタング』だ。このクルマは、フォードの歴史に燦然と輝く大ヒットモデルであり、今も世界中に多くの根強いファンをもつ。逆にいうと、SUVとピックアップトラック以外のフォード車に乗りたければ、もう『マスタング』しか選択肢がなくなるかもしれない。そうしたなか、フォードから途轍もないモデルが登場した。700馬力を誇るマスタング史上最強のマッスルカー、『マスタング・シェルビーGT500』である。

初代は最高出力355hpの V8エンジンを搭載する1967年登場の『シェルビーGT500』

今年1月にデトロイトで開催された自動車ショーでフォードが発表した新型『マスタング・シェルビーGT500』は、多くのファンとメディアを唸らせた。フォードのモータースポーツ部門であるフォード・パフォーマンスによって設計されたそのクルマは、間違いなくフォード史上もっともパワフルで速い、「史上最強のマスタング」だったからだ。

『マスタング・シェルビーGT500』を紹介するには、まず「シェルビーGT(シェルビー・マスタング)」というモデルの成り立ちについて説明しておく必要があるだろう。

初代『マスタング』は、1964年に発売されると瞬く間に世界のスポーツカー市場を席巻したアメリカ自動車史の金字塔だ。迫力あるスタイリングとパワフルなエンジンは、アメリカ人の意志を示した力強さの象徴でもあった。この初代『マスタング』をベースにレース用のチューンアップを施したのが、1965年に誕生した『シェルビーGT350』である。

1965年当時、アメリカの自動車レース統括組織である「SCCA」主催のプロダクションレース(市販車改造レース)に出場するには、「100台以上の製造と一般販売」の実績によってホモロゲーション(承認)を得る必要があった。そこで、フォードはレーシングドライバーでありカーデザイナーでもあったキャロル・シェルビーに『マスタング』のチューンナップを依頼する。シェルビーが手がけたロードカーの『シェルビーGT350』はヒットモデルとなり、2年後には排気量7000ccのV8エンジンに換装して最高出力を355hpにアップした『シェルビーGT500』も登場。空力を見直してスタイリング面も魅力的になった『シェルビーGT500』は、まさにマッスルカーの名にふさわしい存在となった。

「シェルビー・マスタング」はその後、1969年に生産を終了するが、2007年に6代目『マスタング』をベースに復活。そして今回、「シェルビー・マスタング」シリーズの頂きに立つ「シェルビーGT500」の2020年モデルがデトロイトでお披露目されたのだ。

最高出力はなんと700馬力。加速力はスーパーカークラスで日産『GT-R』よりも速い

注目すべきは、やはりパワートレインだろう。イートン社のルーツ式スーパーチャージャーを備える5.2LのV型8気筒エンジンには専用チューンが施され、その最高出力はじつに700hp超を発揮する。この強力な心臓部に組み合わされるトランスミッションは、TREMEC製の7速DCT(デュアル・クラッチ・トランスミッション)で、ギアシフト時のラグはわずか0.1秒未満とされている。これは間違いなく生身の人間をしのぐ速さだ。

このDCTは、「フルオートマチック」「セミオート・パドルシフトモード」「フルマニュアル・パドルシフト」の3種類のモードから選択することができる。マニュアルミッションを選べることにうれしさを感じる『マスタング』ファンは多いに違いない。

そのパフォーマンスは圧倒的といってよく、0-60マイル(97km/h)加速は3秒台半ば、0-400mの加速は11秒以下という強烈さ。これはまさにスーパースポーツ級で、0-400mにいたってはFR(後輪駆動)でありながら4WDの日産『GT-R』を上回るほどだ。開発チームはストリートモデル最強を目指したとのことだが、その言葉も納得できる。

戦闘機からインスピレーションを得たエクステリアは、機能的かつマッシブで威嚇的

2020年型『シェルビーGT500』の開発を担ったのは、前述したとおり、フォードのモータースポーツ部門のフォード・パフォーマンスだ。開発チームはアメリカ・ノースカロライナ州にあるフォードのモータースポーツテクニカルセンターを活用し、トップクラスのレーシングチームと同様に風洞実験を重ねてこのクルマのスタイリングを完成させた。その筋肉質で威嚇的でさえあるエクステリアは、戦闘機から着想を得ているという。

上下2段のダブルフロントグリルは、開口面積が『シェルビーGT350』から2倍以上も拡大され、冷却効率を50%以上増やすために6つの熱交換器が収められた。ボンネット上で目を引く31×28インチもの大きなルーバー付きフードベントは、風による排熱効果を高めるのと同時に、よりフロントのダウンフォースを得られる形状になっている。

マッスルカーは加速性能ばかりに目がいきがちだが、この『シェルビーGT500』はけっしてドラッグレースだけが得意な直線番長ではない。テストロードやサーキットでの試走を繰り返し、サスペンション・ジオメトリーはボディ設計から見直した。さらに、各種ドライブモードを選択できる専用開発のECU(エンジンコントロールユニット)と併せ、サーキットでのコーナリング性能の高さも重要なアピールポイントとなっているのだ。

強大なパワーを支える足元には、20インチホイールにカスタムメイドのミシュランタイヤを装着し、16.5インチ(420mm)という大径のディスクブレーキを備える。さらに、オプションでカーボンファイバー・トラックパッケージを選択すると、専用開発のミシュラン・パイロット・スポーツ2を履いたカーボンファイバー製ホイールに変更される。パッケージには、角度調整が可能なカーボンファイバー製GT4リヤウイング&スプリッターが含まれるが、その場合は軽量化のためにリヤシートが取り除かれるという。

なお、歴代の「シェルビー・マスタング」に受け継がれてきた"COBRA"のバッジとボディのストライプは、2020年モデルの『シェルビーGT500』でも健在である。

キャロル・シェルビーはオリジナルの『GT500』こそ「本物のクルマ」と呼んでいた

内装は基本的に『GT350』を継承した。しかし、ダークスレートスエードとカーボンファイバー製のインパネ、サイドボルスタリング式のレカロ製シートがレーシーな雰囲気を演出し、12インチのフルカラーメーターや8インチタッチスクリーンを組み合わせる新世代インフォテイメントシステム、12スピーカーを駆動するバング&オルフセンのオーディオセットが2020年モデルの『シェルビーGT500』であることを主張している。

キャロル・シェルビーは2012年に亡くなってしまったが、生前にはオリジナルの『シェルビーGT500』を「私が誇りに思う本物のクルマ」と呼んでいたという。2020年モデルの『シェルビーGT500』にいったいどんな感慨を持っただろうかとついつい思いを馳せてしまうが、現代にその名が受け継がれていることは開発者として名誉なことに違いない。『シェルビーGT500』2020年モデルは、今年後半に北米で発売される見込みだ。

Text by Koji Okamura
Photo by (C) Ford Motor Company
Edit by Takeshi Sogabe(Seidansha)

動画はこちら
2020 Ford Mustang Shelby GT500 オフィシャル動画
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