転勤

弁護士監修記事 2019年04月23日

転勤命令に従わなくてもよいケースl命令が無効となる場合とは

会社から転勤命令があった場合、就業規則や労働契約に転勤に関する規定があれば、原則として命令に従う必要があります。 ただし、勤務場所を限定するような合意を会社としているときや、転勤が従業員の大きな不利益になるようなケースでは、命令自体が無効になって、命令に従わなくてもよい可能性があります。 この記事では、転勤命令が無効になるケースについて詳しく解説します。

目次

  1. 就業規則・労働契約があれば原則として従う必要がある
  2. 転勤命令が無効になるケース
    1. 会社と従業員の間に勤務場所を限定するという合意がある
    2. 転勤が従業員にとって大きな不利益になる
  3. 転勤命令に従うことができない場合の対処法
    1. 労働局にあっせんを申し立てる
    2. 裁判所に労働審判を申し立てる
    3. 裁判

就業規則・労働契約があれば原則として従う必要がある

alt 会社が従業員に転勤を命令するためには、就業規則労働契約(雇用契約)に、転勤に関する規定があることが必要です。 就業規則や労働契約に「業務上の必要があれば、転勤を命じる」といった規定がある場合、会社は従業員に一方的に転勤を命じることができます。 この場合、従業員は原則として転勤命令に従う必要があります。 一方で、次のような事情がある場合は、就業規則や労働契約に転勤に関する規定あっても、例外的に転勤命令に従わなくてもよい可能性があります。

  • 会社と従業員の間に勤務場所を限定するという合意があった
  • 転勤が従業員にとって大きな不利益になる

転勤命令が無効になるケース

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会社と従業員の間に勤務場所を限定するという合意がある

従業員が採用されるときに、勤務場所を限定する合意を会社としている場合、就業規則に転勤に関する規定があっても、転勤命令が従わなくてもよい可能性があります。 たとえば、就業規則には勤務地について、「東京本社、大阪支社、福岡支社」と書いてあっても、その従業員の労働契約では勤務地が「東京本社」と限定されているような場合です。

明確な合意がなくても勤務地が限定されていたと認められる場合

労働契約書などで勤務地を限定する明確な合意がなくても、裁判例では、以下の事情などを総合的に考慮して、勤務地を限定する合意があったかどうかを実質的に判断する傾向があります。

  • 業務の内容
  • 業務に従事している期間
  • 会社の規模
  • 採用時の状況
  • その会社の転勤実績

たとえば、採用面接時に転勤できない事情を説明した上で採用されていたり、求人票に勤務場所を特定するような記載があったり、これまで転勤の実績がほとんどなかった、といった事情があれば、勤務地を限定する合意があったと認めてもらえる可能性があるでしょう。

転勤が従業員にとって大きな不利益になる

就業規則・雇用契約に転勤の規定があっても、転勤することが従業員にとって大きな不利益になる場合は、転勤命令が無効になることがあります。 就業規則・雇用契約に転勤の規定があって、勤務地を限定する合意がない場合、会社には従業員に転勤を命令する権利がありますが、従業員に大きな負担を強いるような命令は、権利の濫用として無効になる可能性があります。 転勤命令が会社の権利濫用にあたるかどうかについて、最高裁の判例では、主に以下の3つのポイントから判断しています。いずれかにあたれば、転勤命令は無効になる可能性があります。

  • 転勤命令に業務上の必要性がない
  • 転勤命令の業務上の必要性に比べて従業員の生活上の不利益が大きい
  • 転勤命令が不当な動機・目的にもとづいてる

転勤命令に業務上の必要性がない

「転勤するのはどうしてもその従業員でなければならない(他の従業員では代わりにならない)」というほどの必要性はいらないと考えられています。 たとえば、労働力の適正配置や従業員の能力開発、業務運営の円滑化などの理由は、業務上の必要性として認められる可能性があるでしょう。

業務上の必要性に比べて従業員の生活上の不利益が大きい

会社は転勤を命じるとき、従業員の育児や介護などの状況に配慮することが求められています。 たとえば、重い病気の子どもがいる従業員に対し、その従業員が転勤命令に従えないという態度を示しているのに、会社が一方的に命令を押し付けるようなケースでは、転勤命令は無効になる可能性があります。 裁判例でも、共働き夫婦の夫に対する転勤命令について、重症のアトピー性皮膚炎の子どもがいる点など考慮し、転勤命令に業務上の必要性があると認めつつも、生活上の不利益が大きいとして、転勤命令を無効とした事例があります。

転勤命令が不当な動機・目的にもとづいてる

転勤命令の目的が、その従業員を退職に追い込むためだったり、社長の経営方針に批判的言動をとった報復目的だったりした場合、転勤命令の目的が不当だとして無効になる可能性があります。

転勤命令に従うことができない場合の対処法

alt 転勤命令に従うことができない場合、まずは会社に対し、命令に従えない理由について説明しましょう。 労働組合がある会社であれば、労働組合に相談し、協力してもらいながら、会社と交渉してもよいでしょう。 また、理由を説明しても納得してもらえない場合は、以下のような手段を検討してみてもよいでしょう。

  • 労働局であっせんを申し立てる
  • 裁判所で労働審判を申し立てる

上記以外にも裁判所の「民事調停」なども利用できますが、ここではあっせんと労働審判について紹介します。

労働局にあっせんを申し立てる

労働局とは、労働者と会社との間でトラブルが発生した場合に、労働者からの相談に応じ、問題解決のために必要な助言や指導などを行ってくれる公的な機関です。 労働局では、「あっせん」という手続き利用することができます。 あっせんは無料で利用できます。労働局にあっせんを利用したことを理由に、解雇や降格などの不利益を与えることは法律で禁止されています。安心して相談しましょう。 あっせんとは、相談者と会社との間に、弁護士や大学教授、社会保険労務士といった労働問題の専門家で構成する「紛争調整委員」が入り、話合いを促進することで、紛争の解決を目指す手続きです。 紛争調整委員は、それぞれから事情を聞いた上で、問題解決の方法を、「あっせん案」として提案してくれます。 あっせん案の内容について会社と合意できれば、あっせんは終了します。 合意できない場合も、不調としてあっせんは終了となりますが、他の解決手段について説明・紹介してもらうことができます。 労働局であっせんをしてもらいたい場合は、厚生労働省のホームページ から、最寄りの窓口を探しましょう。

あっせん案について会社と合意できた場合でも、会社に対し、あっせん案の内容を強制的に従わせることはできません。あっせん案の内容に会社が従わないときは、裁判所に訴訟をおこして判決を得る必要があります。

裁判所に労働審判を申し立てる

「労働審判」は、経験豊富な労働審判官(裁判官)と、労働関係について専門的な知識を持つ労働審判員(労働組合の役員経験者、企業の人事担当経験者など)が、労働者と会社の間に入り、話合いを行う手続きです。 原則として、3回以内の話合いで終了するため、裁判よりも迅速な労働問題の解決が期待できます。 労働審判は、次の3パターンいずれかの結末にたどり着きます。

  • 話合いによって労働者と会社が合意する(調停成立)
  • 話合いがまとまらない場合は、労働審判委員会が解決案を示す(審判)
  • 審判の結論に納得できない場合は、裁判で争う

alt 労働者と会社の話合いにより、お互いに歩み寄って合意の上で結論を出すことができれば、「調停」が成立します。 話合いがまとまらない場合は、審判官が解決策を提示します。これを「審判」と言います。 労働局によるあっせんと同様に、労働者と会社が話合いを行うことになりますが、調停と審判の場合は、裁判の判決と同じように法的な拘束力を持ちます。 つまり、会社は調停・審判で示された内容に従って対応させることができます。 一方、審判により審判が提示した解決策の内容に納得できない場合、裁判所に異議を申し立て、裁判で争うことになります。

自分自身で審判を行うことに不安がある場合は、弁護士に依頼することを検討してもよいでしょう。弁護士は法律の専門家という立場から、依頼者の代理人として適切な主張をしてくれます。

地方裁判所に申し立てる

調停は、会社の所在地を管轄する地方裁判所に申し立てます。 どの地方裁判所に申し立てればよいのかは、裁判所のホームページで検索できます。必要となる書類や費用は、管轄の裁判所に確認しましょう。 また、労働審判の申立書の記載例が、東京地方裁判所のホームページで紹介されているので、参考にしてもよいでしょう。

労働審判の流れ

労働審判のイメージ alt 当日は裁判所に出廷し、丸テーブルで話合いをすることになります。 話合いでは、審判官が審判を申し立てた労働者(申立人)と、審判の相手になる会社(相手方)から主張を聞き、事実関係を明らかにしていきます。 裁判のようにどちらかが一方的に尋問されるのではなく、審判官が気になった点をその場で両者に問いかけていくような形式です。 1回目の話合いで、争点と事実関係が確認できた場合は、合議の後に審判官・審判員から調停案が提示される場合があります。 調停案について、申立人と相手方がそれぞれ納得すれば、調停が成立します。 1回目の話合いで明らかにならなかった争点や事実関係がある場合や、調停案について両者が納得しないような場合には、2回目の話合いに続きます。 2回目の話合いでも話合いがまとまらなかった場合は、3回目の話合いを行うことになりますが、審判は原則的に3回までの話合いで解決を目指す手続きです。 3回目の話合いが終わった段階で審判官・審判員が示す調停案に両者が納得できない場合は、審判官・審判員が審判の形で最終的な結論を出します。 審判の内容に納得がいかない場合は、審判から2週間以内に異議を申し立てることで、裁判で結論を得ることになります。

裁判

調停・審判で解決できなかった場合、最終的には裁判で判決という形で決着をつけることになります。 裁判では、自分の主張を認めてもらうために、法的に正しい主張を適切に組み立てて、それを証拠で証明する必要があります。 一般の人がこれらのことを行うのは容易ではありません。訴訟を検討している場合は弁護士に依頼することをおすすめします。

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