穏やかなるかなカルネ村   作:ドロップ&キック
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ようやくアンデッド・ナイトが始まりそうですよ?
そして割と人気者の彼が初登場(^^





第65話:”賑やかな夜の始まり”

 

 

 

メンタル面はともかく「脳天スイカ割り」よりはそこそこマシな対ダークウォリアー戦を終えたイグヴァルジ。

オマケに含み笑い(ぷーくすくす)のエンリに回復魔法をかけられるという追い討ちで、軽く涙目になったようだ。

 

その非物理のインパクト(ダークウォリアーは一喝しただけ)があったせいか、以後の話し合いは非常にスムーズに進んだようだ……

 

言い忘れていたが、ダークウォリアー一行が村をたったのは昼過ぎ、むしろ午後のお茶の時間に近い。

アイアンホース・ゴーレムを磨耗を考えない最高速巡航でかっ飛ばしてエ・ランテルまで小一時間程度の小旅行。

そして事情説明とイグ君とのPvP、他の冒険者への説明などなど……気がつけば、城壁に囲まれた街にも夜の帳が下りてきていた。

 

そう夜である。夜とは古今東西、人ならざる者達の時間だ。

 

 

 

☆☆☆

 

 

 

「た、大変だあっ!! アンデッドが墓場から溢れてきたぞぉーーーっ!!」

 

おそらく共同墓地の守衛についていたと思われる若い兵士が大慌てで冒険者組合へと転がり込んできた。

 

「チッ……一歩遅かったか」

 

予想はしていたが思ったより早い災厄の発生に騒然となる場の中、モモンガ(ダークウォリアー)は小さく舌打ちしたが、

 

(いや、ここには残留冒険者が詰めている。まだ致命的な遅れじゃない)

 

するとロビーに陣取ってから時折話しかけたそうな表情をしながら妙にキラキラした目線を向けてきていた若い冒険者に、

 

「そこの君、名は?」

 

「は、はい! 銀級冒険者チーム”漆黒の剣”のリーダー、”ペテル・モーク”ですっ!!」

 

直立不動で一礼する実直そうな青年に、イグヴァルジと一悶着あった後だから余計に好印象を感じながら、

 

「ふむ。ではモーク君、我々は一足先に墓地へ向かうと市長と組合長に伝えておいてくれ」

 

現在、アインザック組合長は避難計画やら何やらの詳細をパナソレイ市長詰める為に市庁舎にいるはずだった。

そしてダークウォリアーは、居並ぶ冒険者達を一瞥し、

 

「我々は敵の初動を可能な限り抑えるために一足先に現場へと向かう! 各員は組合長が戻り次第指示を仰ぎ、迅速かつ忠実にオーダーを実行することを期待するっ……」

 

そして100年物のカリスマと仄かに熟成された中二病を漂わせつつ、

 

「各員、己のもつ最大限の力を発揮し、奮闘せよっ!!」

 

「「「「「「「「「「はいっ!!」」」」」」」」」」

 

「剣を掲げよっ!! 杖を握れっ!! エ・ランテル興亡この一戦にありだっ!!」

 

 

 

☆☆☆

 

 

 

そう遠くない将来に”冒険者の次世代を担う英雄候補の一人”として台頭し、後年は冒険者としても英雄としても円熟味を増しその名を少なくとも冒険者史に刻むことになるペテルは、酒を飲み上機嫌になると時折こう語っていたという。

 

『この出会いが、俺……俺たちの全ての始まりだった』

 

と。

 

「結局、俺は英雄っていうものがよくわかっていなかったんだよ。”本物の英雄”に出会うまではさ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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妻のイビルアイ(キーノ)、エンリとゼロを引きつれ閉ざされた共同墓地の門前に立ったとき、既にその頑丈な鉄の扉は痛みを感じぬアンデッドたちの殴打に晒され、不気味な打音を響かせていた。

 

ちょっとした砦のようになっている墓地の壁の上には顔色を変えた兵士たちがせわしなく動き回っていた。

 

「我が名は、アダマンタイト級冒険者ダークウォリアーっ!! 事態を収拾すべく馳せ参じたっ!!」

 

「あ、アダマンタイト級冒険者だとっ!? 本物かっ!?」

 

壁の上から目に映る範囲の中ではもっとも上役そうな兵が仰天した顔で聞き返してくるが、

 

「本物だ。それとここで押し問答してる余裕はあるのか? 斬りこむ! 直ちに門を開けよっ!!」

 

「しかし、いくらアンタがアダマンタイト級だったとしても、たった4人だろ!? 中にはどんなに少なく見積もっても千を超えるアンデッド共がひしめいているんだぞっ!!」

 

「問題ない。それに数が不安だというなら、後詰めで街の冒険者たちが援軍に駆けつけてくる手筈になっている。」

 

実際、”死の螺旋”程度で生み出せる()()()()()()()()()()()()()など、ダークウォリアー状態のモモンガ一人でもどうということはない。

同じくアダマンタイト級で、100年に及ぶ二人三脚の人間基準なら無茶を通り越して不可能な冒険の末、総合Lv90をとっくに超えてるイビルアイ(キーノ)が一緒で、更に残る二人の弟子までいるなら万全どころか完全に過剰戦力(オーバーキル)だ。

 

何せ脅威度のベクトルは違えど、単純な強さなら明らかに格上のビーストマンの群れ数千が相手でも、鼻歌交じりに駆逐できる面子なのだから。

 

「ほ、本当なんだな……?」

 

だが、それを知らない兵士達は半信半疑な顔を向けてくるが、

 

「ああ」

 

「わ、わかった! どうなっても知らんぞ!」

 

モモンガは鷹揚に頷き、

 

「かまわん。自分の発言の責任くらいは待つさ」

 

 

 

こうして重い響きと共に地獄の門は開かれ、

 

「愉快な賑やかな夜(アンデッド・ナイト)の始まりだな?」

 

居並ぶアンデッドの群れを見ながらそう楽しげに笑う夫の横で、妻は仮面の下で微笑み返した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




お読みいただきありがとうございました。

イグなんとかさんは無事なようですよ?(笑
そしてペテル君が初登場です。
どうも彼には割と堅実な未来がまってる予感。この時点でクレマンちゃんやカジっちゃんとエンカウントしてなければ、割と生存率高いパーティーだと思うんですよ。

そして、100年物のかりちゅまモモンガ様(^^
コソーリ中二病混入中?



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