穏やかなるかなカルネ村   作:ドロップ&キック
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サブタイ通り、一部で大人気の彼の登場です(^^




第63話:”英雄願望を拗らせた奴ってメンドい”

 

 

 

「お前がダークウォリアーで間違いないのかよ?」

 

「ああ。相違ないが」

 

神経質そうな男に険のある声と目線で呼びかけられ、ダークウォリアー(モモンガ)は怪訝そうな顔で応えると、

 

「お前、英雄なんだってな?」

 

「そう呼ぶ者もいるらしいな。生憎と自分でそう名乗ったことはないが」

 

英雄と呼ばれることを歯牙にも鼻にもかけてない態度が余計に神経質そうな男……エ・ランテルに現状唯一残っているミスリル級冒険者チーム”クラルグラ”のリーダー”イグヴァルジ”を苛立たせた。

実際、モモンガは自分を英雄だと名乗ったことはない。

というのも、彼にとって理想的HERO(英雄)像というのはもう会えない”純銀の聖騎士(たっち・みー)”であり、今でも自分はそこに遠く及ばないと考えていた。

だからこそ、未だに自分は”たっちさん”に憧れ続けているのだと。

 

「だが、お前は王国じゃ一切冒険者活動はしてないって言うじゃねーか……!」

 

正確には『()()()()』という枕詞がはいるのだが、所詮は国家機密級の情報に触れることのできない一介の冒険者であるイグヴァルジには知るよしもなかった。

 

「別に”冒険者活動は王国でしなければならない”なんて規則はないだろう?」

 

正論だが、正論というのは時にはひどく人を怒らせるものだ。

無論、モモンガにはイグヴァルジを怒らせる気などない。

正体がお骨な漆黒甲冑の重騎士(ダークウォリアー)は、変なところで割と天然なのかもしれない。

 

「俺はお前がビーストマンを鏖死(みなごろし)にしてるなんて信じてないんだよっ!!」

 

「誰だか知らないが、別に君に信じてもらう必要はないだが……そもそも君が何を信じるかは君の自由なんじゃないのか? それこそ私が知ったことではないし」

 

と思い切りトドメを刺した。

 

「テ、テメェ! 勝負しやがれっ!!」

 

(なんだか面倒臭い男だなぁ~。どうしてこうなったんだ?)

 

 

 

☆☆☆

 

 

 

事の発端は、ダークウォリアーからの市長のパナソレイと冒険者組合長のアインザックの出した結論……

 

「被害を最小に抑えるため、我々は討って出たい。ズーラーノーンの潜伏先が判明してるなら尚更に」

 

「それについてなんだが……ダークウォリアー卿、”死の螺旋”阻止を改めて依頼したいのだが……いや、君達がなんらかの理由で王国では表立って冒険者として活動していないのは察している。だが、そこを曲げてお願いしたい」

 

するとダークウォリアーは鷹揚に頷き、

 

「いいだろう。依頼料はそちらの言い値でいい」

 

ひどくあっさり了承したことに軽く驚くパナソレイ達だったが、

 

「カルネ村はラナー王女殿下領だろ? 知ってるかはわからないが、私はその名代でもあるんだ。エ・ランテルが壊滅すれば、そこを消費地にしているカルネ村も干上がるだろう? 王都に販路を求めるのは運賃を考えればペイさせるのが難しいし、村単独で帝国で市場開拓するのは現実的じゃない」

 

ダークウォリアーは苦笑し、

 

「結局、エ・ランテルが無くなって困るのは、我々も同じだということだ」

 

 

 

積極的討伐を行うにせよ、それを察知したズーラーノーンが焦って計画を前倒して強制発動する可能性は否定できないというダークウォリアーの進言もあり、事態の収拾が確認されるまで冒険者への依頼斡旋は中断、ゲーム風に言うなら『緊急ミッション:エ・ランテルの防衛に尽力せよ!』という突発イベントが発生したというわけだ。

 

市長であるパナソレイは緊急事態の発令と全住民の脱出も視野に入れなければならない避難計画の策定をするために市庁舎へ慌てて帰り、アインザックは冒険者達への事態の説明と討伐計画の説明を行った。

 

『ズーラーノーンと思われる拠点に突入するのはダークウォリアー卿とイビルアイ殿、それにゼロ君とエンリ君だ。残る皆は、有事に備え万全の準備を整えると共に、即応状態で待機していて欲しい。無論、諸君らがクエスト受注を出来ない間の賃金は保証しよう』

 

だが、そこで噛み付いてきたのがイグヴァルジであった。

最初は、『白金級がよくてどうして突入に抜擢、ミスリルである俺様が留守番なんだよっ!』というところから始まった。

このイグヴァルジという男、実は少々英雄願望というモノを悪い意味でこじらせているところがあった。

だが、モモンガ(ダークウォリアー)はそんなことを知るわけも無く……

 

「悪いが私は君の実力を知らない。そうである以上、戦力評価はできない。故に連携を重視される少数精鋭の突入作戦には組み込むわけにはいかない」

 

と100年を超える戦闘経験を持つプロとして当たり前の事を言い放った。

これに過剰なまでに反抗心を持ったのがイグヴァルジだったという訳だ。

 

 

 

だが、こんな不遜すぎる態度を取られればエンリもゼロも面白くない。

作戦前の景気づけにこの身の程しらずを一発凹ませてやろうかと前に出ようとしたが、ダークウォリアーに「かまわんよ」と軽く手で制され、

 

「いいだろう。だが、作戦前にあまり手間はかけたくないな……組合長、どこか”実力試し”をしても問題ない場所はないかね?」

 

困惑するアインザックに彼は小さく微笑み、

 

「非常事態なのは理解してる。間違っても再起不能にさせるような真似はせんよ」

 

 

 

☆☆☆

 

 

 

用意されたのは冒険者組合に隣接してる訓練場だった。

そしてそこに対峙するダークウォリアーとイグヴァルジではあるが、

 

 

()()以外とのPvPなんて久しぶりだな~)

 

なんて内心ではついお気楽なことを考えるモモンガ(ダークウォリアー)であった。

考えてみれば、法国勢が攻めてきたときもまともに戦わなかったし。

相手が物足りないなんてものじゃないが……

 

「別にチーム全員でかかってきてもいいんだぞ?」

 

「ふ、ふざけるなっ!! なめやがってっ!!」

 

(まあ、君がそれでよければいいんだけどね)

 

「では、始めようか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




お読みいただきありがとうございました。

ナチュラルにイグヴァルジ君を煽るモモンガ様でした(^^
いや、モモンガ様的にはまったく悪気はないんですけどね。

さて、次回は白熱(笑)の一線に決着が……


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