穏やかなるかなカルネ村   作:ドロップ&キック
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ちょっくら冒険者っぽい話です(^^




第62話:”因縁と呼ぶには薄い過去”

 

 

 

「そんなバカなっ!? ダークウォリアー卿、その情報は間違いないのかねっ!?」

 

いつもの擬態、平仮名喋り(ぷひー)をする余裕もなく机をバンッと叩いてその反動で立ち上がり身を乗り出すのは、太りすぎのブルドックのような印象の男……エ・ランテル市長のパナソレイであった。

 

「我が名に誓って」

 

 

 

冒険者組合の応接室で告げられたのは、パナソレイにとって恐るべき内容だった。

いや、組合長のアインザックにとってもそれは同じだろう。

 

何しろ自分たちの街にいつの間にか名うての邪教集団が入り込み、潜伏してエ・ランテルを死霊都市に作り変えようとしてるというのだ。

おそらくはエ・ランテル始まって以来の危機的状況、”死の螺旋”が発動すればだろう。

 

「我々は一体どのような対処をすれば……」

 

アインザックが唸るような声と共に焦燥の表情を浮かべた。、

 

「カルネ村で確保した”()()()()()()()()()()()()()()”によれば、いつ”死の螺旋”が発動してもおかしくない状況ですな。まず状況を確認しますが……」

 

ダークウォリアーは一度言葉を切り、

 

「ズーラーノーンに潜伏され儀式発動秒読み段階になっている時点で、我々は後手に回ってると言っていい。正直、現段階で共同墓地からアンデッドが溢れ出してないこと自体が僥倖だな」

 

あえて口調を変える。

 

「そこまで切羽詰って……」

 

「いるのさ」

 

ダークウォリアーは彼の太刀筋が如くバッサリ切り捨て、

 

「既に入り込まれてる以上、まず重要なのは市民の安全確保だ。どんな手で出るにしろ、もう避難やら何やらの基本方針固めと計画の立案、それに伴う予備命令の策定くらいはしておいたほうがいいだろう」

 

「急に言われても……」

 

パナソレイの言葉にダークウォリアーは渋面を作り、

 

「何故、私がわざわざ出向いたと思う? 事態は一刻を争うんだ。未だに現実が認識できてないようだが……」

 

 

 

☆☆☆

 

 

 

実はモモンガ(ダークウォリアー)キーノ(イビルアイ)は、”死の螺旋”発動後の街を見たことがあるのだ。

いや正確には、ズーラーノーンがやらかしたアンデッドだらけの街を、「第二のカッツェ平野みたいな場所を放置しとくのもなー」と考えたツアー……ツァインドルクス=ヴァイシオンが経過確認を兼ねて二人を後始末に派遣したのだ。

生き残りの住人などいなかったため、モモンガとキーノはせっかくの機会だからとお骨と素顔の本来の状態で新作/試作/初使用を含めた各種魔法を景気良くぶっぱなし、効果確認の実験場にしたのだが……

 

結果は……ツアーに報告するため満足げな表情で意気揚々と二人が去った、その直後に”()()()()”に調査に入ったスレイン法国漆黒聖典の報告書を引用しよう。

 

『指定された場所にたどり着いた我々が見た物は……何もなかった。比喩ではなく、街に大量増殖したとされるアンデッドどころか、”()()()()()()()()”』

 

結局、この報告書では人間業とはとても思えず「件のプラチナム・ドラゴンロードが、始原魔法で何もかもを跡形も無く吹き飛ばしたのでは?」と結論付けられた。

ツアーにとっては酷い誤解、とんだ風評被害である。

とはいえ依頼したのもツアーだったので、まあそう文句も言えないだろう。

 

「エ・ランテルの共同墓地には自然発生的にアンデッドが発生し、それを駆除しているのは勿論知っている。だが市長、組合長……墓地から最低でも千を超えるアンデッドが人為的に発生した場合、エ・ランテルの持つ防衛戦力でそれに耐えられるかね?」

 

「ぐっ……」

 

「現状、我々がとれる手段はさほど多くない。方策としては大きく分けて二つしかないと言っていいだろう」

 

「その二つとは?」

 

むしろ恐る恐るという口調でパナソレイが聞き返せば、

 

「発動前にこちらから討って出るか、あるいは発生したアンデッドを片っ端から狩りまくるかだ」

 

 

 

そして僅かな静寂の後……

 

「討って出ることは可能なのか?」

 

アインザックが難しい顔で問えば、

 

「不可能ではないと言っておく」

 

簡潔にダークウォリアーは答えた。

 

 

「エージェントから聞き出した情報を精査し、”死の螺旋”の性質を考える限りズーラーノーンが潜伏し儀式を執り行える場所は限られている……だが、問題があるとすれば討伐に動いても実際に勝てるかどうかだろうな」

 

「どういう意味だ?」

 

「”死の螺旋”はズーラーノーンであっても簡単に執り行える儀式魔法じゃない。魔法自体の難解さもさることながら準備を行うには、相応の人員も時間も掛かる……それを出来る存在は、一握りの上位者。おそらく首謀者は”十二高弟”と呼ばれている盟主直属の者だろう」

 

ここでダークウォリアーをフォローするようにイビルアイが仮面の下で口を開いた。

 

「組合長、一説には”十二高弟”の実力は、アダマンタイト級に届くとされている。エ・ランテルでそれに対抗出来そうな冒険者はどれぐらいいる?」

 

皮肉でも悪意でもなく純粋な質問……だがそれに今度こそアインザックもパナソレイも言葉を失った。

エ・ランテルを拠点とする冒険者は、最上位でもミスリル級……最高位のアダマンタイト級の二つ下だ。

そのミスリル級が3チームいるが、間が悪いことに2チームは依頼で街を離れていた。

 

「仮に迎撃を選択したら……」

 

「最低でも市民、非戦闘員の城壁の外への避難が必要だろう。三重の城壁をアンデッドを封じ込める(おり)として使う。これだと人的被害は最低限に抑えられるが、建物や施設への被害は無視できないものになるだろう」

 

 

 

パナソレイとアインザックは色を失った顔を見合わせた……そして、

 

「ダークウォリアー卿、急で申し訳ないがクエストを依頼したいのだが……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




お読みいただきありがとうございました。

実はちょっとだけ”死の螺旋”、正確にはその後始末に関わっていたモモンガ様とキーノ嬢でした(^^

それにしてもミスリル級2チームが不在とは嫌なタイミング。
当然、残ってる1チームというのは……


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