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1、マイクロ波について
マイクロ波は電波の一つで、電波は電磁波の1つです。
電磁波とは電界と磁界が相互に作用しあって伝播するものですから、
真空中でも伝播することができます。
電磁波は「波」ですから、波長と周波数という2つの要素を持っています。
波長は波の頂上から頂上までの長さ、周波数は1秒間に現れる波の数を示しています。
電磁波の速度は周波数にかかわらず一定で約30万km/秒ですから、
これを周波数で割ると波長になります。
図1に示すように電磁波はその周波数により呼び方が変り、
それぞれの特性に応じていろいろな用途に使われています。
光も電磁波の一種です。
そして、3000GHz以下の電磁波を電波と分類しています。
周波数が300MHzから300GHz(波長が1mから1mm)の電波をマイクロ波と呼んでいます。
図1 電磁波の応用と分類
マイクロ波は通信だけでなく、電波望遠鏡による天体観測、レーダーによる移動物体監視システム、
カーナビで皆さんもご存じのGPSによる測位システムなどにも応用されています。
そして、もう一つの応用が加熱です。
2、マイクロ波加熱装置に使用できる周波数について
電波は、ITU(国際電気通信連合)が、その用途に応じて使用できる周波数を割り当てています。
そして、最終的には各国が法律で定めます。
周波数が300MHzから300GHz(波長が1mから1mm)のマイクロ波について、
工業用、科学用、医療用を目的としてITUが割り当てた周波数(ISM周波数)は、
表1のようになっています。
433.92MHzは第1地域(ヨーロッパ)の一部の国で、
915MHzは第2地域(南北両アメリカ)でISM周波数として認められています。
全世界で使用が可能なISM周波数は2450MHz以上のISM周波数です。
表1 マイクロ波帯のISM周波数
一方で、通信障害を生じさせないために電波法があり、非常に厳しい限度値で
電波の漏洩を規制しています。
しかし、例えばISM周波数である2450MHz帯に対して、電波法は
電波漏洩量を規制していません。
したがって、この周波数帯のマイクロ波を使用する装置(これをISM機器と呼びます)は
安全上の限度値を満足するように設計すればよいことになります。
| これに対し、ISM周波数以外の電波を使用する装置は、 例えば装置を設置する部屋全体あるいは建物全体を 電波シールドするなど、大掛かりな電波漏洩対策をして 電波法の規制を満足させるようにしなければいけません。
これが家庭用電子レンジをはじめ、各種工業加熱装置が ISM周波数を使用している理由です。
中でも2450MHz帯が使用されるのは、世界共通に使用できる ISM周波数であると同時に、2450MHz帯のマイクロ波発振管として 図2に示すような比較的安価で、小形軽量永久磁石内蔵マグネトロン (出力:300W~10kW)の存在も貢献しています。 | 図2 2450MHz帯マグネトロン (出力2kW水冷式) |
3、マイクロ波加熱の原理について
降雨がひどいとBSテレビ放送が見られなくなる経験をお持ちの方が多いと思います。
水がマイクロ波を最も効率よく吸収する周波数は18GHz前後と言われています。
電子レンジの周波数が2.45GHz(2450MHz)に対し、
BSテレビ放送周波数は約12GHzですから、
電波が雨に吸収されてBSテレビ放送が見られなくこともご理解いただけると思います。
放送電波は微弱ですから雨が加熱されることはありませんが、
原理的には雨がBS放送電波を吸収して発熱しています。
ここでは、「マイクロ波加熱の原理」「誘電体が吸収するマイクロ波電力」
「マイクロ波が誘電体に浸透する深さ」「誘電体の誘電特性」について説明します。
「マイクロ波加熱とは300MHz~300GHzの電磁波の作用で誘電体を主として
分子運動とイオン伝導によって熱を発生させて加熱すること」と
IEC(国際電気標準会議)は定義しています。
その誘電体のマイクロ波加熱の原理は非常に難しく
一口には説明できませんが、大雑把に言うと次のようになります。
「マイクロ波電界の振動に対して、例えば、永久双極子が少し遅れて
マイクロ波電界の振動に追従するとき、すなわち、マイクロ波電界の変化に対し
位相遅れを伴って永久双極子が変化する場合、この遅れがマイクロ波電界の
変化に対する抵抗力として働いて永久双極子が加熱される。」と言われています。
簡単に言えば、
「永久双極子が抵抗しながらも振動させられることにより発熱する」ということです。
これを、図を用いて説明すると次のようになります。
図3は永久双極子の代表として取り上げた水分子の構造を示しています。
水は1個の酸素と2個の水素からなっています。
全体としては電荷を持っていませんが、酸素原子に対し2個の水素原子が約104.5°の角度で
結合している関係で、それぞれマイナス(-)とプラス(+)に少し帯電して、双極子を形成しています。
図3 水分子の構造(左)と永久双極子のイメージ(右) |
そして、図4に示すように、外部電界のない状態ではバランスをとって集合していますが、
電界中に置くと水の双極子が電界にしたがって向きを変えます。
1)外部電界がない場合 | 2)外部電界がある場合 |
| 図4 外部電界の影響を受ける永久双極子 | |
ここで、例えば水に電波を照射するということは、交流の電界を与えるということで、
電子レンジの場合は1秒間に24億5000万回もプラスとマイナスが
入れ替わる振動ということになります。
図5は、低い周波数の電波を水の永久双極子に照射した場合を示しています。
この場合は変化する電界に対し永久双極子は瞬時に追従して方向を変えます。
このような場合、水は発熱しません。
一方、高過ぎる周波数の電波を永久双極子に照射した場合が図6です。
この場合は電界の変化が早過ぎるので双極子は全く追従できず変化しません。
このような場合も発熱しません。
図5 電界の変化が遅すぎる電波の場合 | 図6 電界の変化が早過ぎる電波の場合 |
これに対し、図7は、電界の変化が程々の電波を水に照射した場合を示しています。
この場合は電波の電界の変化に対し時間遅れで永久双極子が追従しています。
このように時間遅れが生じている間で水は電波からエネルギーを吸収し発熱するというものです。
そして、マイクロ波がその程々の周波数ということです。
図7 電界の変化が程々の電波(マイクロ波)の場合 |
上述の説明から、マイクロ波で加熱できるのは誘電体だけと
考えてしまう方もいらっしゃるかもしれませんが、鉄やステンレスなどの金属も、
また砂鉄などの金属酸化物も、マイクロ波で加熱できます。
そして、金属粒子の場合もマイクロ波は加熱しながら内部に浸透しますが、
金属板になると僅かしか浸透できず殆どは反射されてしまいます。
ここでは金属に関する説明は割愛し、「誘電体が吸収するマイクロ波電力」
「マイクロ波が誘電体に浸透する深さ」「誘電体の誘電特性」について説明します。
式1は誘電体が吸収するマイクロ波電力P1を理論的に求めた式です。
式(1)において、比誘電率εrと誘電体損失角tanδは物質(誘電体)特有の値となります。
また、その積、すなわち、εr・tanδを誘電損失係数(単に、損失係数とも呼びます)と言い、
これは誘電体が吸収するマイクロ波電力の程度を表しています。
一方、Eは誘電体に作用する電界強度で、装置の設計で決まる値です。
ここで、式(1)は理論式で実際に誘電体に作用する電界強度Eを求める手段がありませんから、
誘電体が吸収するマイクロ波電力を求める場合は、(b)で説明するカロリー計算から算出します。
アプリケータ内に w [ g ] の液体( 初期温度 T1 [ ℃ ] )を入れた容器を置き、
[W]のマイクロ波電力を t [s] 照射したところ液体の温度が T2 [℃] になったとします。
この液体の比熱は、C [ J / (kg・K) ] とします。
この液体が吸収したマイクロ波電力 [W] は式(2)、加熱効率ηは式(3)となります。
例えば、液体が水の場合、水の比熱 4180 [ J / (kg・K) ]を用いれば
マイクロ波吸収電力が算出できます。
| 式(2) | |
| 式(3) |
マイクロ波が誘電体の表面から内部に浸透する深さは、
電力が表面の50%になる深さで定義し、電力半減深度と呼びます。
その電力半減深度Dを求める式が式(4)です。
| 式(4) |
(a)で、誘電体の比誘電率 εr と 誘電体力率 tanδ は、
その誘電体特有の値であることを説明しました。
図8が、いろいろな物質の比誘電率εrと誘電体力率 tanδ を示す特性図です。
図で、上横軸が電力半減深度Dの目盛で、右下に下がる線が同じ電力半減深度を結ぶ線です。
その結果、大雑把に言うと、電力半減深度の浅い右上の物質ほどマイクロ波吸収が大きい物質、
電力半減深度の深い左下の物質ほどマイクロ波吸収が少ない物質であることが分ります。
図8 物質の誘電特性(周波数:2450MHz) |
4.マイクロ波加熱の特長
マイクロ波加熱は、マイクロ波加熱以外の加熱方法(これを従来加熱とします)にはない
優れた特長があります。それらを挙げると次のようになります。
・内部加熱
・高速加熱・選択加熱
・高い加熱効率・高速応答と温度制御性
・均一加熱・クリーンなエネルギー
・操作性や作業環境がよい以下それぞれについて説明します。
マイクロ波は、図9に示すように、光と同じスピードで被加熱物に到達します。
そして、第3章(2)で説明しましたように、マイクロ波の状態で被加熱物の内部に進入しながら
被加熱物に吸収されて被加熱物が発熱します。
例えば、水の場合、図8から電力半減深度が約1cmであることが分ります。
このことは、マイクロ波が表面から1cmの深さまで達する間に
50%のマイクロ波電力が水に吸収されて、水が発熱し、
残りの50%のマイクロ波電力は1cmより深い内部に侵入することを表しています。
同様にして、表面から3cmの深さの点でも、未だ12.5%のマイクロ波電力が
マイクロ波電力の状態で内部に進み、3cmより深いところの水が発熱することを表しています。
したがって、図10に示すようにマイクロ波加熱は内部加熱となります。
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図10 マイクロ波は内部から加熱 |
従来加熱では図10に示すように被加熱物の表面から
熱エネルギーが内部に拡散伝達されて昇温します。
一方、マイクロ波加熱では、マイクロ波が浸透できる大きさの被加熱物であれば
全体が発熱しますから、熱エネルギーが熱伝導などにより拡散する時間が無視できます。
したがって、高速加熱が実現できます。
仮に、被加熱物の中心までマイクロ波が浸透できない大きさの場合であっても、
浸透できる深さまでは発熱し、その熱エネルギーが被加熱物全体に拡散して昇温します。
熱エネルギーが表面だけから供給される従来加熱と比較すると、やはり図11に示すように
高速加熱になります。
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マイクロ波加熱は、図8の説明にあるように物質により
吸収するマイクロ波電力に違いがでます。
例えば、図8で硼珪酸ガラスは電子レンジ用ガラス容器として販売されているガラスです。
これに水を入れてマイクロ波で加熱すると、硼珪酸ガラスのマイクロ波吸収電力は
水の3000分の1しかないので無視されて、水だけが加熱されます。
すなわち、図12に示すように、容器の材質をうまく選ぶと加熱したいものだけを加熱できますから、
実質的に加熱効率も良くなります。
図12 選択加熱 |
マイクロ波は光のスピードで被加熱物の中に浸透し
被加熱物自身が発熱します。加熱炉や炉内の空気を加熱するエネルギーロスが
無視できるほど小さいので高い熱効率が得られます。
マイクロ波は光のスピードで被加熱物の中に浸透し
被加熱物自身が発熱しますから、高速な応答が可能です。
例えば、起動・停止も瞬時にできます。また、マイクロ波の出力調整により
被加熱物内で発生する熱エネルギー量を制御することができますから、
図13に示すように被加熱物の温度変化に、瞬時に応答して設定温度を保つことができます。
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被加熱物の各部が同時に発熱するので、複雑な形状のものでも
比較的均一に加熱することができます。
波長に関係する加熱ムラは、スターラ、ターンテーブル、ベルトコンベアなどにより均一化を図ります。
マイクロ波は電界と磁界の相互作用だけで伝搬するので媒質を必要としません。
真空中でも伝搬できます。空気を加熱することなく被加熱物に到達し内部に進入しながら減衰します。
被加熱物がマイクロ波エネルギーを吸収して熱エネルギーに変換して発熱します。
このように、途中の空気を加熱させることがないので、クリーンなエネルギーと言えます。
従来加熱では熱源が必要で、
熱源から被加熱物を含む加熱炉に至るまで昇温するので、
加熱炉が置かれた部屋は輻射熱で暑くなるなど
操作性や作業環境が問題になります。これに対しマイクロ波は、
電気だけでマイクロ波を発生させて被加熱物だけが昇温するので、
加熱炉は高温にならず輻射熱もないので操作性も作業環境も良好な状態が保たれます。
5.マイクロ波電力応用装置の基本構成とマイクロ波デバイス
マイクロ波を発生させる電子デバイスには、マグネトロン、クライストロン、ジャイロトロンなど、
いろいろなものがあります。
その中で、比較的安価で大電力を発生させることができるのがマグネトロンです。
マグネトロンは真空管の一種で、家庭用電子レンジにも使われています。
ミクロ電子では、主として2450MHz帯のマグネトロンを使い、
出力300W~300kWのマイクロ波電力応用装置を製造販売しております。
マイクロ波電力応用装置の基本構成を図14に示します。
「発振器」に内蔵するマグネトロンが発振したマイクロ波は、
「導波管」、「アイソレータ」、「パワーモニタ」、「導波管」、「EHチューナ」を経由して
「アプリケータ」に進み、被加熱物を加熱します。
ここで、発振器が発振したアプリケータに向かうマイクロ波を進行波(あるいは入射波)と呼びます。
一方、アプリケータなどで反射されて発振器側に戻るマイクロ波を反射波と呼びます。
そして、アプリケータ内で消費されるマイクロ波電力はパワーモニタで表示される進行波電力から
反射波電力を引いた値になります。
なお、厳密には、パワーモニタで表示される進行波電力から反射波電力を引いた値は、
EHチューナ以降で消費されるマイクロ波電力を表します。
図14 マイクロ波電力応用装置の基本構成 |
(a) 発振器: マイクロ波を発振するデバイスです。
発振器はマグネトロンを取り付けたランチャー導波管を持ちます。
ランチャー導波管の端は開放になっていて、標準導波管(導波管規格:WRJ-2/WRI-22、
フランジ規格:BRJ-2/FUDR22)が接続できるようになっています。
マグネトロンが発振したマイクロ波はランチャー導波管に接続された導波管内を伝搬して
アプリケータに到達します。したがって、動作確認テストは図14のように、アプリケータまでの
マイクロ波デバイスを接続した後でないと危険です。
(b) アイソレータ: 進行波はそのままアプリケータ側に伝搬させ、
反射波は全て内蔵するダミーロードに吸収させて、発振器に反射波が戻らない様にしたデバイスです。
アプリケータ内のターンテーブルや、スターラの回転に応じて発生する
反射波の変動の影響をなくすことができるので、マグネトロンは安定した動作を継続できます。
すなわち、マグネトロンを保護する機能を持ちます。
(c) パワーモニタ: 方形導波管内を伝播するマイクロ波の進行波電力と
反射波が大きくなると誤差が増大するので注意が必要です。
ミクロ電子のパワーモニタは、発振器のマグネトロン駆動電源方式が異なっても
電力を精度良く表示する工夫がしてあります。
(d) EHチューナ: チューナにはスリースタブチューナとEHチューナがあります。
調整が簡単なEHチューナを推奨します。 EHチューナのEチューナ
あるいはHチューナを調節すると、チューナ部分で反射されるマイクロ波の
位相や大きさが変化します。
そして、パワーモニタの反射波電力の表示値をゼロにするように
EチューナとHチューナを調節することもできます。
これは、E及びHチューナを調節したことにより、アプリケータ側からきた反射波に対し、
大きさが同じで逆位相の波が発生したことを意味します。
そして、その結果、反射波が打ち消された訳です。
パワーモニタの反射波電力の表示値がゼロになれば、チューナ以降アプリケータ内部で
消費される電力は最大になります。
なお、パワーモニタの反射波電力の表示値がゼロになる状態を、整合(マッチング)状態と言います。
(e) アプリケータ: 内部に置いた被加熱物にマイクロ波を照射して
被加熱物を加熱する加熱槽がアプリケータです。
用途に応じて、バッチ式、コンベア式、導波管式など、いろいろな形状があります。
ミクロ電子のアプリケータは、導波管とアプリケータの接続部で生じる反射を
できる限り小さくする工夫がしてあります。
(f) 導波管: マイクロ波(電磁波)は電界と磁界の相互関係で伝播します。
そして、断面がある大きさの金属管内であればマイクロ波を伝送させることができます。
マイクロ波加熱装置では断面が長方形の2GHz用標準方形導波管
(導波管規格:WRJ-2/WRI-22、フランジ規格:BRJ-2/FUDR22)が日本では一般的に使用されます。
(2)(d)で説明しましたマッチングの原理は、アプリケータ内で動くものが無い条件、
すなわち、全て固定した状態での説明です。これに対し、
例えば、図14のようにアプリケータの中にスターラ(撹拌羽根)や
ターンテーブル(回転台)がある場合は、その回転により反射の位置や
大きさが目まぐるしく変化します。この場合のマッチングについて説明します。
例えば、アプリケータの中でスターラだけが回転している場合は、その回転に応じて
パワーモニタの反射電力の表示値も大きく変動しています。
この場合、パワーモニタの反射電力が平均的に最小になるようにEHチューナを調整します。
そのとき、調整し切れなかった反射電力がアイソレータのダミーロードで吸収されます。
図14で、反射を示すオレンジ色の破線がEHチューナで細くなり、
アイソレータのダミーロードで吸収される図になっているのは、この調整の場合を表しています。
なお、パワーモニタを通過する反射電力が大きい場合はその表示値に大きな誤差が生じますから、
反射電力を検出してマイクロ波電力(進行波電力)を制御する場合は、
専用のデバイスを用いて精度良い反射電力を求める必要があります。