オーバーロード 骨の親子の旅路 作:エクレア・エクレール・エイクレアー
<< 前の話
「都合よくトブの大森林を調査する依頼なんてあって良かったな。依頼をしつつ森の賢王に会いに行ける」
「ネムお嬢さん。私から離れないでくださいね?」
「はーい!」
「白銀」という三人チームになってから初めての依頼でモモンガたちはネムも連れてトブの大森林へ来ていた。
これにはネムに預けたアイテムの一時間は自然で妖精を休ませるという条件をこなすためと、トブの大森林はすでにモモンガたちは掌握しているために危険はないからという理由だった。モモンガたちの傍にいれば危険はないということだ。
依頼の内容としてはトブの大森林の生態調査。どんなモンスターがいて、どんな薬草が生えているかを事細かにフィールドワークとして調査してどこまでが危険でどこからが危険ではないのかを調べること。
駆け出しが無理をしないように線引きをしてほしいという依頼でもある。モモンガたちも先日までは駆けだしだったために受けられなかった依頼だったが、白金に昇級して実力が認められたために受けられるようになった。
「じゃあ早速森の賢王に会いに行くか」
「いきなりかよ」
「エ・ランテル側の南部を支配しているのは森の賢王だからな。支配者に聞くのが手っ取り早いだろう」
「一度戦ってみてえな……」
「向こうが良いなら戦えばいいだろ。俺たちもいるし、ポーションも買ってある」
ハムスターと戦いたくないので、モモンガは本当にちょっと援護するくらいに留めようとは思っているが。ギルメンの一人が飼っていたこともある生き物なので、それ相手に魔法を放つという発想が出てこない。
パンドラがネムの手を引きながら散策は進む。一時間ほど歩いてネムを休憩させつつ、森の賢王の寝所へやってきた。シモベの知らせだと今も寝ているらしい。
「見つけたぞ。相手は寝ているらしい」
「魔法ってのは何でもありだな。唱えてたのか?」
「ブレイン。中には詠唱をしないで発動する技術もある。マジックアイテムでも同様だろう。詠唱するのが魔法だと思っているといつか痛い目を見るぞ」
「へぇ~。王国にはまともな魔法詠唱者がいないからな。勉強になったわ」
ブレインはそう言いつつも、凄腕の魔法詠唱者を知っていた。さすがに第七位階は使えないだろうが、接近戦もできる凄腕を。死霊使いとしても群を抜いていて、冒険者というくくりでも実力は際立っていた。
逆に言えばその人物以外まともな魔法詠唱者なんていないとは思っている。
「お、起きた。こっちに来るぞ」
「マジか!どうすんだ!?」
「人語を話せるようだし、まずは対話だな。一応奇襲だけないか用心するか」
そう言いつつ、近寄ってくる足音からそこまで向こうが急いでいないことを知る。むしろ慎重にこちらへ向かっているようだ。
実力差がわかっているようだとモモンガはさすが賢王と評価を改める。見た目ハムスターだが。
そして現れるハムスター。実際に見てみるとモモンガの倍ぐらいはある体長だった。掌に乗るサイズのハムスターしか見たことがなく、その上この近辺では最強格というのはまだ信じられない。
ブレインが警戒したままだったので、ようやく信じたが。
「お、お主らでござるか?最近この辺りを調べ回っているのは……」
「う、うん?たしかに俺が召喚したシモベがうろついたり、カルネ村の周りには防衛用の天使を召喚しているが……」
「や、やっぱりでござるか……!そこの全身鎧の者も只者ではござらん!降伏するでござるよ~……」
「ええ……」
怯えた様子のハムスターが背中を地面につけて腹をこちらに見せてくる。確実に森の賢王なのだが、こうもあっさりと降伏されても困る。ネムも目をぱちくりさせている。
ござる口調もなんだかと思っていたが、中身がなんというか残念過ぎた。色々なことを把握したうえで降参しているのは敵わない相手に喧嘩を売らないという意味では正しいのだが。
「あー、お前が森の賢王なんだよな?」
「そうでござる。人間にはそう呼ばれているでござる」
「この大森林の南部を取り仕切っている?」
「そうでござる。最近色々な生き物がたくさん移動しているでござるが、まだ秩序はあるのでござるよ」
「そうか。今日来たのは他でもない。交渉がしたくてな」
「交渉?」
戦うわけではないと分かったハムスターは起き上がる。戦意はないようなので、ブレインも気を緩めた。
「近くの村に住んでいるんだが、その近く。ようは森の浅部に入っても人間を見逃してほしくてな。やってることは洗濯と薬草集めくらいだ」
「もう調査も大方済んでいるので、森の方にもあなたにも干渉しないと思いますよ?我々もそこまで森の深くに行こうとは思っておりません。森の生態系を崩せば薬草の自生にも影響いたしますので」
モモンガとパンドラの意見にうーんと考え込むハムスター。知能があるためにただのハムスターがしないような行動をするので見ていて楽しいというのが感想だった。モモンガはギルメンの彼が見れば大喜びしただろうなあと考えていたところで返答がきた。
「お主たちは侵略に来たわけではないのでござるか?」
「こんな広い森を治めるのは物理的に不可能だろう。その土地の者に任せるのが一番だ」
「私たちも冒険者としてあちこちに行くでしょうからここに付きっきりというわけにもいかないので」
「ふむう……。拙者の身に危険はないのでござるな?」
「そちらが村人を襲ったりしない限りは」
「しないでござろう。人間は食べようとも思わないでござるよ。主食は木の実でござるからして」
「なら交渉成立だな」
カルネ村の面々もそこまで森の深くまで行くことはない。それにその際にはこっそりモモンガが呼び出したパンテオンの一体がついていくことになっているのでもしもの事態にはならないだろう。
生存本能からか、ハムスターもこちらに敵対しないらしい。愛玩動物相手に魔法を撃つはめにならなくてよかったとモモンガは安堵した。
それからもハムスターといくつかの交渉をしていく。最終的にはネムがハムスターの上に乗っていて、スクリーンショット機能がなくなったことだけはかなり悔やんだモモンガだった。