穏やかなるかなカルネ村   作:ドロップ&キック
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執筆再開しクレマンティーヌを描いていると、不思議と”不憫可愛い”という単語が脳裏に浮かびます(^^




第59話:”それは死亡フラグだ”

 

 

 

唐突の楕円の常闇から姿を現したのは、

 

()()()、まさか私を置いていくとは言わないよな?」

 

愛らしい素顔を無機的な仮面で隠し、ちみっこくて平たい肢体(からだ)に赤いマントを(まと)うという、世間に僅かながら知られた出で立ちのその少女(?)こそ、

 

「イビルアイ」

 

そう、モモンガ(ダークウォリアー)の最愛の妻で、リアル世界では彼女いない歴=年齢だった彼に始めてできた恋人にして某バードマンの布教(せんのう)で下地が出来上がっていたモモンガの女の子の趣味を確定させてしまった張本人、キーノ・ファスリス・インベルンだった。

 

「まさか。置いて行きやしないよ。むしろお前の範囲(フィールド)魔法が生きるミッションだ」

 

モモンガはドヤ顔でブレインへと向き、

 

「完全にオーバーキルだろ?」

 

無論、イビルアイ(キーノ)はふんすっ!とモモンガ専用のタッチパネル的な胸を張るのだった。

 

 

 

☆☆☆

 

 

 

さて、LUCK(幸運値)の低そうなオバロキャラと言えば真っ先にあげられる候補の一人なクレマンティーヌであるが、やはりこの世界線でもあまり運は良さそうにない。

カルネ村に着くなりブレインに切り殺される、蘇生はしたがエンリから《ドミネート/支配》をかけられて何でも喋るトーキングマシン状態。

更にはさっきから行われている物騒な推測とエ・ランテル遠征プランの作成、イビルアイの転移登場に至るまで全て彼女が尋問を受けている部屋、彼女の眼前で起きた出来事なのだ。

 

そして、《ドミネート/支配》をかけられた状態な筈なのに冷や汗が止まらない。

彼女は、スレイン法国が誇る六色聖典の一つ漆黒聖典の第九席次、”疾風走破”だ。自分の強さにはそれなりに自信があったし、英雄の領域に片足を突っ込んでいると思っていた。

だが……

 

(とんだお笑い種だよね……)

 

現在、この部屋にいる五人の中で最弱なのは自分だということがいやというほど判ってしまう。

そもそもダークウォリアーと転移で出て来たちみっこいの……優秀(とクレマンティーヌが信じて疑わない)な法国諜報部(風花聖典)が把握している外見と一致してる事を考えれば、あれがイビルアイで間違いないのだろう。

 

竜王国で人間十人分の強さを誇るとされるビーストマンを、群れごと駆逐してると噂される二人……眉唾物だと思っていたが、なるほど確かに噂は真実かもしれない。

何しろ自分には強さの底が見えないのだっ!

更には剣豪と名高い……そして刹那に自分を切り捨てたブレイン・アングラウスは言うまでも無く自分より明らかな強者。

そして死と蘇生でレベルダウンしてるだろう自分は、

 

(今はあの”ションベン臭い白巫女”よりおそらく下か……)

 

ちなみにエンリが用いた蘇生魔法が『鉄級冒険者以下ならかけた途端に灰になる』とされるほど激しいデス・ペナルティを起こす第5位階魔法《レイズデッド/死者復活》ではなく、”蓮の杖”の補助で可能となるより高位でレベルダウン幅が小さい第7位階魔法《リザレクション/蘇生》だとは気づいてないようだ。

 

もっともクレマンティーヌは生涯気づくことはないだろうが、モモンガの秘蔵っ子であるエンリはこの時点で総合Lv35、デスペナがなくともLv33の彼女より格上であったりする。

流石にPvP的な意味においての対人戦闘技能に関しては流石にガチビルドのクレマンティーヌの方が上だろうが、だが装備差が圧倒的過ぎて例えクレマンティーヌが本国ガチ戦装備を持ち出したとしても、おそらくダメージは入れられないだろう。

ついでに言えば、デスペナが幅が小さいとはいえ発生したクレマンティーヌのレベルは、ネムより下だったりする。

知らぬが仏とはこういうことを言うのだろう。

 

 

 

”はぁ”

 

と溜息をついたあとに、

 

「もう……ゴールしてもいいよね?」

 

「そこの”疾風走破”。放置していたのは悪いと思うが、いきなり微妙な死亡フラグを立てるな」

 

とよくわからない苦言がダークウォリアーから飛んでくる。

蛇足ながらモモンガに縁深いアインズ・ウール・ゴウン、その前身の名が”九人の自殺点(ナインズ・オウン・ゴール)”……なんとなくつながってるような気がしなくも無い。

 

(死亡フラグ……? 前にどこかで聞いた事あるような?)

 

それが法国で言う”神”(ぷれいやー)の言葉だと気づくことは、残念ながらなかった。

 

「とりあえずクレマンティーヌ、お前の協力……情報提供は感謝しよう」

 

内心、『《ドミネート/支配》をかけておいて何を言ってやがるっ!!』と思いもしたがそれを顕にするほどクレマンティーヌも愚かではない。

 

「という訳で騒ぎが終わるまで、ここで大人しくしていてもらえないかな?」

 

「……もし従わない場合は?」

 

「もう一度蘇生魔法を使う羽目になるだろうな。ただ、エンリは私と共にエ・ランテルに出向く予定だ。村に帰るまでどれほどの時間がかかるかわからんが」

 

つまり死んだ状態のままモモンガ(ダークウォリアー)一味が戻ってくるまで放置ということだ。

蘇生の約束をしてくれるならまだ善良と言えるが、それは単に自分にまだ利用価値があると看做(みな)してるからだろう。

 

「俺は正直、どちらでも良い。死体は死体で省ける手間もあることだしな」

 

最初から選択肢など無かったとクレマンティーヌは理解してしまった。

目の前のダークウォリアーは、ブラフなどではなく本気でそう思ってることに、だ。

本気で自分など取るに足らない存在で、いつでも殺せ好きなときに蘇生できると思っているのだ。

そしてそれがおそらくは紛れも無い事実だということに。

 

「従いますよ。ワタシだってこれ以上の”ですぺな”での”れべるだうん”は御免なので」

 

するとダークウォリアーは少々感心したような顔で、

 

「流石は法国の漆黒聖典。プレイヤーの用語もよく知ってるじゃないか?」

 

「まあ、仕事柄」

 

すると何が可笑しかったのかダークウォリアーは機嫌良さそうに笑い。

 

「いいだろう。軟禁くらいはしようと思っていたが気が変わった。客人扱いするわけにはいかないが、村の中でならある程度の行動の自由は許そう。ブレイン、お前にお目付け役を命じる」

 

「うぇ」

 

心底面倒そうな顔をするが、

 

「休暇配置としては悪くあるまい?」

 

「へいへい。わかりましたよ、お館様」

 

だが、そんなやり取りに驚いたのはクレマンティーヌの方で、

 

「よろしいので? 帰ってくる頃には村人が人っ子一人いなくなってもしれませんよ?」

 

せめてもの意趣返しで言ってみるが、逆にダークウォリアー興味深そうな笑みと共に、

 

「やれると思うならやってみるといい。それもまたいい経験だろうしな」

 

内心、モモンガは『留守番で暇を持て余すだろうネムの良い遊び相手になるかもなー』と暢気な事を考えていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




お読みいただきありがとうございました。

結局、エ・ランテルまでいけなかった(汗
何故かクレマンティーヌを書いてたら妙に興が乗ってしまって、ついに往年の名台詞を言わせてしまいました(^^

簡単に死ぬことはなさそうですが苦労しそうなクレマンちゃんの幸運値上昇を祈ると共に、次回こそエ・ランテルにいけたらなと思っています。



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