机の上に置かれたなつのラフスケッチをマコは見てしまいました。
そして大興奮。
マコは空気なんざいちいち読みません。勝手に持ち帰り、井戸原に見せています。
彼も、これはなかなかのものだと納得しております。
このラフを描いたのは誰だッ!
マコは、てっきり堀内のものだと早合点しておりました。
もともとそのシーンのダメ出しをしたのが彼女です。
発破をかけられ、描き直したのだろうと喜んでおります。
「どうして捨てたの? いいと思う。私はこれ、すごくいいと思う!」
マコは意地悪なだけではない。褒める時は褒める。貶す時は容赦ない。
こういうタイプは必要なんですよ!
「こんな風にしていいのよ。一瞬振り向いて、戦う目をしてみせる。これが中割に入る! 恨みが伝わる。許仙に会いたい思いがにじみ出ている。ただの中割じゃないッ!」
これこそが感情表現。こういうのを望んでいた。マコは大興奮です。
この場面、演じる側も乗っていますね。
北海道編のとよババアが筆頭ですが、大森氏の脚本は、結構ガーッとしゃべらせますよね。
覚えるだけでもかなり大変かもしれない。そこに感情を込めて、かつ視聴者にセリフが聞き取りにくくならないようにする。
高難易度ですし、貫地谷しほりさんを新しいものを引き出す、そんな意気込みを感じます。
大森氏の貫地谷さんといえば、『風林火山』のミツやんです。
あの素朴な言葉で、勘助と視聴者の言葉をつかんだ。そういう境地とは真逆ではありませんか。
これはすごいことになっている!
朝から見入ってしまいます。
しかし堀内は、混乱しています。
彼はこんなものを描いてはおりません。
むしろ、稚拙な絵を描いたと思われ、傷ついてしまうほど。
そこには、ラフを取り戻すため作画課に来ていたなつがおりました。
「まさか……」
「それは私が描きました」
今までの気持ちを絵にこめて
作画課の目線がなつに集まります。井戸原もすっかり感心しています。
仕上げなのにどうして描いたのか?と訊かれ、勉強のためだと答えます。
「どうしてそうしてみたくなったの……」
マコにそう問われ、なつは演劇部の経験を語り始めました。
白蛇の姫を演じて、その経験から辿ったこと。
白娘子の気持ちを想像したこと。
倉田に習った、魂で動かすこと。
自分はただ、彼のことが好きなだけなのに、どうして?
そう思うと、怒りが湧いてきた。
誰を傷つけたいわけでもないのに――。
彼女のこれまでの経験が、そこにはあります。
名前を出されなかったけれども、倉田や泰樹もそこにはいるはずです。そして、天陽も。
彼らのことも思い出してしまいます。
もっと怒れ――あの泰樹の言葉が、ここで生きてくるとは!
女の子は怒らない方がいい。いつもニコニコしていてこそ。
それが男にとっては気持ちいい世界です♪
「もぉぉぉ〜むぁ*ぷぅぇぅいさぁぁん〜」
「もぉぉぉ〜おかぁさぁんてぇばぁ〜」
そういう顔芸と奇声を用いて、前作****が描いてきた――そんな馬鹿げた価値観を本作は緻密な積み重ねで一蹴します。
マコの動揺
マコはしかし、ここでこう言い切るのです。
勝手に勉強していたことはわかった。それでもういい。それ以上はいらない。
これはただ、マコの性格が可愛くないだけなのでしょうか――。
嫌な女、生意気で可愛げがない。それで片付ける人は、そうすればいいでしょう。
人生でいろいろなものを得て、そして失いながら生きてきて、これからもそうすればよろしい。個々人の自由ですからね。
しかし、それだけでは決して見つからないこともあるはずだ、と思うのです。
結果、なつのラフスケッチは堀内が仕上げる、そういう方向に持っていかれました。
これはすごいことではありませんか。
そのことに、マコは動揺しているッ!
彼女がそこに気づかないわけがありません。
「これ使ってもいいよね?」
「勝手にすみませんでした! よろしくお願いします!」
井戸原がなつに許可を取る。こういう細かいところもいいのです。
部下の功績を奪って、自分のものだと威張るみみっちい奴って実際おりますからね。まぁ、みなまで言うなってやつですが。
それに対するなつも、喜ぶどころか緊張している。
いい関係だ。
「それが仕事なやらやりますよ! それでいいのなら」
マコと違って素直なところのある堀内は、ちょっとムッとしていて、それが出ているのかもしれません。
マコは難しいんだ……自分の予想が外れたこと。侮った相手が猛者だったこと。
それを見抜けず、混乱しているのかもしれません
無駄なことなんてひとつもない、ただし人による
なつは仕事場に戻り、仕上げに取り掛かります。
今は仕上げが仕事ですから、不満は見せません。
戻る時には嬉しそうな顔を見せましたが、それはそれ、これはこれなんです。
戻ると富子は、なつを叱ります。
動画を勉強して、仕上げをやりたくないのか? そう問われてなつは否定するのですが。
いいな!
なつは真面目です。自分の適性以外でもこなす。そういう律儀さがあります。
発明家だからって、大事な塩の運送を他人任せにするなど、雑用その他もろもろをやらない言い訳にしていた****の**さぁんとは違います。
が……ちょっとここで、夕見子のことを思い出してみますと。
「ハッ、受験勉強という大志があるそれがしに、家事なぞ無用……」
こうでしたよね。
あいつはそういう奴よ。
日常生活に必要なこと。堅実性。それをバカにしかねない。
そういう煽りがある軍師だからさ。
負けず嫌いというところは共通していても、なつのほうがそういうところは真面目なんです。
あ、もちろん夕見子も悪い子じゃないんだよ!
ただ、まぁ専業主婦への適性はゼロですし、そうなることは社会的損失になりかねないと思います。
彼女みたいにね。
◆医学部不正入試、元受験生が3大学を提訴 「絶望と諦めの気持ちが大きい」
意欲のある彼女たちの翼を折らないで欲しい、と切実に願います。
なつに話を戻しますと……彼女は寄り道をプラスにする才能があるのです。
酪農経験も、演劇部のことも。そして孤児だった悲しい日々も。
全てが彼女の中で調和して、プラスに変わっていく。
ただ、繰り返しますが、夕見子タイプにそこを押し付けないようにすべきかと思います。
優先順位が違うだけです。なつからすれば勉強にしか見えないかもしれない。そんな夕見子の読書は、彼女の頭脳の栄養なのです。
****の**さぁんは、雑用も読書もろくにしないから、スタートラインにすら立っていません。
威張りちらすだけの怠け者でした。
なつの影響はよいもの
集中しなさい。
そう言われて作業を始めるなつ。
そんななつに、モモッチが話しかけて来ます。
「塗り絵かと思ったけど、そうじゃない!」
なつを見ていたモモッチは、仕事が面白くなる、そんな可能性に気づきました。
隣の同僚に刺激されて、もっと勉強したいと思い始めたのです。
楽しそう。
初めて楽しさが少しわかった気がする。
今は作業に集中しているけど、思えば絵を見るのも描くのも好きだった。そう気づいたのだと。
美術部に在籍したことすらないのに、仕事にできてうれしい!
だったら自分にも何かできることがあるのかも!
そう思えて来たんだって。
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