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(なつ)絵コンテ どうなってたっけ…?
(麻子)勝手に拾ったのね。
♪~
(下山)マコちゃんはアニメーションにとって一番大事なものを最初から 感覚として分かってる人なんだ。
それは 何ですか?
命を吹き込むことだよ。
♪~
モモッチさん。(桃代)ん?ここにあった動画 知りませんか?
動画?紙です。
下手な絵が描いてあったと思うんですけど…。
さあ…。(富子)それなら大沢さんが持っていったわよ。
大沢さんってマコさんって呼ばれてる人ですか?
そうよ。 本当は あさこっていうんだけど。
あなた あれ 勝手に作画の部屋から持ってきちゃったんだって?
あっ いや あれは…。
あれは 何でも大事なラフだったらしいわよ。
ええっ!?
♪~
♪「重い扉を押し開けたら暗い道が続いてて」
♪「めげずに歩いたその先に知らなかった世界」
♪「氷を散らす風すら味方にもできるんだなあ」
♪「切り取られることのない丸い大空の色を」
♪「優しいあの子にも教えたい」
♪「ルルル…」
(井戸原)なるほど…。どうですか?
これを 堀内君が描いたの?
だと思いますが…。うん…。
すいません。
堀内君! 堀内君 ちょっと…。
(堀内)何ですか?
これ あなたが描いたのよね?は?
前に描いて あの箱に捨てたもんでしょ?どうして これが?
どうも 仕上の子が拾ってったみたいなのよ。
ど… どうして仕上が?知らない そんなことまでは。
でも どうして捨てたの? これ。
いいと思う 私は。
これ すごくいいと思う!
ただ中割できれいに動きをつなぐだけが動画の仕事じゃないんだもの。
こんなふうにしていいのよ。泣く直前に 一瞬 何かを振り向いてまだ戦う目をしながら泣き伏せる。
これよ。 これが中割に入ることで見る人に 白娘の気持ちの伝わり方が全然違うでしょ!この強くて恨みがましい目が入ることで蛇に戻りかけた白娘の悲しみが際立つじゃない。戦いに敗れても まだ納得がいかず許仙は 自分のものだと言いたげに何より 許仙に会いたいという気持ちがにじみ出てんのよ この顔から!あれ… 前に 誰かに 同じようなこと言ったような気がするけど…。
ま いいか。
この顔が泣くから より一層白娘の絶望が伝わってくるのよ。私が言いたかったのは こういうこと。ただのきれいな中割は動きを正確に見せるためには必要なことだけど感情表現においてはただの記号にしかならないこともある。
それ 分かってたんじゃない 堀内君も。これは ただの遊びで描いただけかもしれないけど私は これを ずっと望んでた!
僕じゃないよ。ん?
僕が描いたんじゃない。
僕は こんな稚拙な絵は描かないよ。
だって これ ラフでしょ?ラフでも こんな絵は描かない!
こんな絵を描いたと思われたら心外だよ!
(麻子)じゃ 誰が描いたの?
あっ あの…。なっちゃん。
まさか…。
すいません… それは 私が描きました。
(仲)なっちゃんが描いたのか!
(下山)えっ… どれどれ? 見して。
えっ?
なるほどね。いや よく気付きましたよね この表情に!
うん…。
あっ 井戸原さん。(井戸原)うん?
彼女は 今 仕上にいるけど本当は アニメーター志望なんですよ。
(井戸原)あ そう…。いや~ 原画を描いた僕にもその発想はなかったわ。
どうして描いたの?
すいません! 人に見せるつもりで描いたんじゃないんです。
勉強のために勝手に ここから拾って描きました。
絵を なぞっているうちにそうしてみたくなったんです。
だから どうしてそうしてみたくなったの?
どうして?
白娘の気持ちになっているうちにそうなったんです。
あ… 私 高校の演劇部で偶然 白蛇の化身を演じたことがあるんです。
その時に 自分の経験から想像して自分の魂を動かして演じなくちゃいけないと先生から教わったんです。だから その顔は…。
自分は ただ 許仙が好きなだけなのにそれを周りからどうして悪く思われなきゃいけないのかそういう怒りが 自然と湧いてきたんです。
白娘は ただ 許仙が好きなだけですよね?
本当は 誰も傷つけたくはないし…。
もう分かったわよ!
勝手に勉強してたってことでしょ。
(井戸原)ハハハハ…。
堀内君。 君も なかなか正直でよろしい。は?
君の絵も 純粋な絵だと僕は思ってるんだよ。
発想のしかた一つでいくらでも変わることはできるはずだ。
技術はあるんだから。
この絵は 今の君とは正反対だ。
これを 君のきれいな線でクリーンナップしてくれないか?
動画として完成させてほしい。
これ 使ってもいいよね?
はい… ありがとうございます。
(井戸原)はい。
堀内さん 勝手にすいませんでした!
どうか よろしくお願いします!
それが 僕の仕事ならやりますよ。
それがいいよね。
なっちゃん もう仕上に戻りなさい。
今は 仕上が 君の大事な仕事だからね。
はい。
失礼します。
♪~
奥原さん どうだった?
はい すいません。ちゃんと謝ってきました。
あなた どういうつもりなの?勝手に 動画を持ち出して。
私は ただ 動画の勉強がしたくて…。
仕上は やりたくないというわけじゃないでしょうね?
そんなことありません。
だったら 今は彩色の仕事に集中しなさい。
はい。 すいませんでした。
大丈夫?はい。
(桃代)ただの塗り絵かと思ってたけどそうじゃないのよね これも。
えっ?
私も ちゃんと漫画映画のことを勉強したいと思えてきたわあなたを見て。
だって 楽しそうなんだもの。
楽しいですよ!
私も 今日 初めて その楽しさが少し 分かったような気がしたんです。
今日? 何があったの?
いや… 今は 彩色に集中しないと。
私 子どもの頃から絵を見るのも描くのも好きだったのよね。
普通の高校で美術部でもなかったんだけど…。
だから絵を仕事にできるなんて 思ってなくて。
絵を仕事にしてるじゃないですか。
そうなのよね… してるのよね。
だったら 自分にも もっと何か できることがあるのかなって…。
ありますよ。
モモッチさんはそんなに上手じゃないですか。
楽しさに限りはないと思うんですよどんなことでも。
ただ…自分が それを求めるかどうかの違いで。
♪~
だって 日本のアニメーションはまだ始まったばっかりなんですよ。
あなた 自分のやりたいことに対しては割と ずうずうしいのね。
はい。 そういうとこ開拓者のじいちゃんに鍛えられたんです。
やるとなったら もうやるしかないしょ。
ああ…。
ちょっと 何やってんのよ!
どうですか? 露木さん。
(露木)ん? うん いや いいと思うよ。
けどね 演出の立場から言わせてもらうと演出や原画に指示されていないことを動画の子が 勝手に描くっていうのはどうなんだろうな。
こういうことを許したら悪い前例にもなりかねない。
いや しかし原画を 2人でこなしてる以上実際 手が回らなくなることもありますよ。
そこを 動画に補ってもらうことがあってもしかたがないんじゃないですか?
人手不足は分かるけどさだからといって仕上に入ったばかりの子をそうすぐに 作画に移すというのはね…。
もともと 彼女は6月のアニメーターの試験に受かってたはずなんです。大杉社長に反対されたんだろ?
いや それは誤解されただけですよ。身内に 変な人がいるって…。
でも その誤解は解けたんです。
解けてはいないよ。
仕上に入れる時に大杉社長に お伺いを立てたけど社長は 見事にそのことを忘れていただけだ。
それなら そのまま忘れていてもらいましょう。
しかし この絵はほかの人が クリーンナップしたんだろ?
はい 僕の下の堀内君が。
彼女が描いた絵は こっちのラフです。
あっ ちょっと貸して 見して。
はいはい…。
えっ… これがラフかい…。
まるで素人の絵じゃないかよ。
絵のうまい下手なんて 描いていくうちに上達しない人はいませんよ。
だけど センスは…まして 十九 二十歳の感性は今しか使えないものでしょう。
彼女を 今から鍛えればどこまで伸びるか分からないと僕は思うんですよ。
仲ちゃんが そこまで言うのならどうだろう? こうしたら。
もう一度 試験を受けてもらうんだよ。
えっ?
そして その翌日の昼休みです。
なつは 仲さんに呼ばれてランチをごちそうになりました。
(仲)君を もう一度試験しようと思っている。
えっ?社内部の試験だ。
それに受かったら君を アニメーターにする。
どうする?
やります。
やらせて下さい!
なつよ…まずは 口を拭け。