高齢ドライバーによる重大事故が続く。免許の自主返納、安全運転策、地方での公共交通機関の充実、更新内容の再検討…。事故と犠牲者を減らすため、重層的な方策を早期に進めなければならない。
福岡市早良(さわら)区で四日起きた多重事故の映像はすさまじい。猛スピードで逆走する乗用車による多重衝突。乗用車を運転していた八十一歳男性と同乗の妻が死亡し七人が負傷した。四月には旧通産省工業技術院の元院長(88)の乗用車が東京・池袋で暴走し、母子がはねられて死亡した。
福岡の男性は事故の前、知人に「高齢者の事故が増えている。免許を返納しなければいけないだろうか」ともらしていたという。
七十五歳以上の運転免許の自主返納率は、右肩上がりとはいえ、二〇一八年で5・2%にとどまる。都市部で高く、公共交通機関が都市部ほど発達していない地方で低い傾向がある。ただ、重大事故は人通りや交通量の多い都市部で起きている。
高齢ドライバーが重大事故を引き起こすリスクは低くない。七十五歳以上が第一当事者(責任が最も重い)になった交通死亡事故は一八年、全体の15%に迫る四百六十件。割合は過去最高だった。
行政などは、お年寄りが外出する機会を減らすことなく、免許の自主返納が進みやすい仕組みを一層進めるべきだ。
市町村レベルで運行している格安のコミュニティーバスや乗り合いタクシーはそのひとつ。自主返納したお年寄りに、コミュニティーバスを無期限で無料にする市もある。国は、市街地で競合する複数のバス会社を共同運行にして経費を浮かせ、山間部の路線を維持させるアイデアを打ち出した。
対策は返納以外でも。国は自動ブレーキのついた車に限定した新たな免許創設の検討を始めた。東京都はアクセルとブレーキの踏み間違いを防止する装置の購入費用を補助する考えを示している。
免許更新時の検査にも一考の余地がある。七十五歳以上の運転者は、三年ごとの免許更新時などに認知症と診断されると免許取り消しや停止処分になる。この時に実車でペダルを踏むなどの試験も課せないか。専門家は「高齢者は股関節の可動域が狭くなり、姿勢を変えると踏み間違いが起きやすい」と指摘している。
超高齢化は止まらない。お年寄りの移動の自由を保ちつつ、悲劇を繰り返さないため、官民であらゆる手だてを尽くしたい。
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