キープ・レフト

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そうだ私たちは支配者に闘いを挑む怒りさえ剥奪されている! 蟹工船で起こったストライキなど、もはやファンタジーの世界ではないのか。
(『蟹工船』エッセーコンテスト大賞/山口さなえ(東京・25歳)

「それでも蟹工船の労働者が羨ましい」と、エッセー大賞の山口は言う。奴隷のようにこき使われてクタクタになっても、仲間意識は共有できたから、と。故郷や家族を思う人間的な感情や、国や会社の理不尽な仕打ちに対する不満と怒りを共有でき、それが連帯感を育んでストライキを可能にしたのだから、と。それに引き換え山口ら世代の若者は、闘うための共通意識や連帯感がまったく無いというのだ。人間性を奪われた真っ暗な世界を、自己責任という呪いをかけられて漂う、孤独で透明なクラゲのような存在…つまり「支配者に闘いを挑む怒りさえ奪われてしまった」のが、現在の自分たちだと言う。だから虐待に抵抗し団結して闘った『蟹工船』のストライキなど、彼女には絵空事か夢(ファンタジー)にしか映らない、というのだ。

物質的な豊かさによって金銭の欲望だけが肥大化し、過剰なサバイバル競争に子供の頃から追いやられる若い世代は、個々が分断孤立化させられ、力を合わせて何かを成し遂げたという達成感を経験していない。その上、「権利を主張」したり何か「異議申し立て」をする者は、“わがまま”“自己中(ジコチュー)”“不平分子”“変人”として、二十一世紀の「民主主義国ニッポン」(ほんとかね?)にあってさえ、「KY(空気読めない人間)」として排除されるのだ。この同調圧力の強さは、もちろん戦後最大の反動右傾化した状況を反映したものだ。これも、「治安維持法」下の蟹工船の時代と重なる。

小林多喜二生誕105年、没後75年を記念して今年(08年)行なわれた「私たちはいかに『蟹工船』を読んだかー小林多喜二『蟹工船』エッセーコンテスト」には、ネットカフェ部門が設けられていた。その応募作の一言一言はどれも胸に刺さる。「一日中働いてなんで僕達はこんなに貧しいのだろう」「今まさに私は蟹工船で働いている」「蟹工船の匂いを私は嗅いだことがある」「小さな蟹工船からやっと脱出したと思っても、まだ別な蟹工船の内なのだ」「誰が敵なのか見えない、誰に憤りをぶつければいいのか分からない」…こうなると何だかストレートに肉体的に弾圧してくる昔の蟹工船の方が、テキの姿がはっきり見えるだけ闘いやすいような気すらしてくる。まさに資本の側は、「鉄の棒やピストルといった外側から傷付ける凶器から、人間を内側からえぐるように傷付ける凶器に持ち替えた」のだ。

山口は「団結や連帯という言葉には不信感すら覚える」と言うが、不運にも就職氷河期にぶち当たってネットカフェ難民に陥ってしまった狗又ユミカは、それでも怒りを放棄せず心にユーモアを忘れず、他者との共感に希望を見い出してこう言う。「会社側の言いなりになって働くイイ子ちゃんタイプは、仲間が労働基準法違反の仕打ちを受けて苦しんでいるのに助けようともしない。彼らこそ良心が麻痺した亡者の部類である。彼らはもっと勉強して人間の心を取り戻さなくてはならない。タバコと手拭のために仲間を売った蟹工船の漁夫になってはダメだ。一方的な解雇・残業代未払い・ボスハラに遭った時は、絶対に泣き寝入りせず労働組合(ユニオン)に加入して闘おう。団結して闘えば必ず勝てる…それが多喜二の『蟹工船』から読みとれるアドバイスだ」と。狗又よ、その通りだ。ジーンと来て目が潤んだ。信頼より不信、希望より絶望の方が容易だが、それでは国や資本の思う壺だ。

小林多喜二は歴史に残る悪法「治安維持法」違反により、1933年特高警察(左翼思想を取り締まり弾圧するための内務省の部署(現閣僚の町村・高村は特高の息子たち)に逮捕され、東京築地署でその日のうちに虐殺された。三十歳だった。その拷問の凄まじさは、喉仏と睾丸がつぶされていたことからも伺い知れる。体中アザだらけの死体写真が、我々の頃は社会科教科書に載っていたが、今はどうなのだろう。

※07年、年収200万円以下のワーキングプア人口が、ついに1000万人を突破。
※新潮社『蟹工船』(文庫)、5~6月の二ヶ月で、二十四万部!の増刷を決定。

閉じる コメント(14)

「信頼より不信、希望より絶望の方が容易だが、それでは国や資本の思う壺だ。」
落合恵子さんも、一昨日読んだ雑誌「クーヨン」の中で、全く同じ意味の事を言っていました。涙と悲しみで、怒りの心を洗い流されてしまったら、やつらの思う壺だと。彼女のヘアスタイルはその意志の表れなんですね。憤りは、信頼と希望の上に成り立ちます。

2008/6/13(金) 午前 7:57 HRMDN 返信する

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「闘いを挑む権利」は、国が与えるものでも天から降ってくるものでもないはず。自分たちで訴え、実践していく中で権利は獲得していくもの。だいたい今の労働基本権だって、100年以上にわたる労働者の「不法」といわれた闘いの中で確立されていったのだ。「信頼より不信、希望より絶望の方が容易だが、それでは国や資本の思う壺」、まさにそうだと思います。みんな憤っているのだから、仲間は必ず周りにいる。信頼し団結することはできる。100年前の労働者がそうだったように。

2008/6/13(金) 午後 8:25 [ str**gle*nionc*nt*r ] 返信する

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『蟹工船』とワーキングプア世代シリーズ ・・・・この記事、また使わせてください。

2008/6/14(土) 午前 5:44 [ - ] 返信する

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HAMDNさん
そうか?落合恵子のあのファンキー?(まさかドレッシーとかセクシーとかではないですよね)なヘアスタイルは、そういうメッセージ(意思)の表現だったんですね。そんな彼女なのに…『週刊金曜日』の編集長でもあるのに…小泉が登場した時は彼女、なぜか彼に「期待」しちゃったんですよね。彼と対談した本が出てます。いま、ヒトラーのような毒のあるカリスマが出てきたら、けっこう自称(他称も含めて)リベラル&サヨクもイカれてしまうかも…もちろん赤木クンのようなフリーター(「現在のすべての状況をリセットするWARを希望する」といったなんともヤバイ発想しかできない若者たち)らワーキングプア世代は、諸手を挙げて大歓迎でしょうねえ。

2008/6/15(日) 午後 9:49 pen*tsu**shi 返信する

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struggleunioncenterさん
その通りです。
皆「誰でもいいから殺したい」ほど抑圧されているのですから。 とにかく一人でもいいから誰かと心を
通じさせる仲間を作ることからはじめないと…あッ、
新興宗教や江原のスピリチュアルなんかに走っては
ダメですけど!?

2008/6/15(日) 午後 9:59 pen*tsu**shi 返信する

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山口さなえは、友人達を「まるで人間性を喪失した世界を浮遊する、見た目生きているのか死んでるのかわからない物体、私には真っ暗な海を漂う透明なくらげのような存在」と、感想文によせている。山口さなえ自身が、このようなクラゲのような存在であるかのように頼りない言葉でのコメントが、後々、多々目立つのがざんねんだ。厳正な審査で大賞をとられたのだろうが。時間もたち、読みかえせばよみかえすほど、そう感じる。団結、連帯という言葉にすら不信感をもちながら組合でのオルグをやり、ファンタジーとひとことですませるのには、「ん?」って疑問になり、印象すら悪い。
よく考えたら、友人をクラゲにたとえるのも失礼な話である。本当に人間性まで剥奪されているのでしょうか?という突っ込みどころが見出されてくる。 削除

2008/6/17(火) 午後 2:20 [ tokumei ] 返信する

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tokumei さん
そうですよね、くらげはちょっと。ま、山口自身もそのような不安定な頼りない存在ということでしょう。それよりも私は、彼女の団塊世代に対する憎しみというか激しい嫌悪感に、あっけにとられました。団結、連帯への不信もどうやら団塊親爺(ひょつとして全共闘?)への反発かも…

2008/6/17(火) 午後 9:24 pen*tsu**shi 返信する

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はじめまして。……大賞をとった山口さなえにずっと注目し期待していたが、女性の広場に寄稿されてる文章を読んだら、「2008年の蟹工船」を書いた同一人物なんだろうかと、本当にと違和感がある。審査員からグイグイ読ませると評価されていたが、全くそれが女性の広場の文章には見られない。またルポ形式だったが、自分というものがないので友人をネタにするしかないのだろうかと、もう実力の狭さが知れてしまった。「山口さなえ」と「蟹工船」で検索しても、違うものばかりヒットして、キープ・レフトブログさんをはじめ、あまりまっこうに論じているブログを見かけませんでした。 削除

2008/6/18(水) 午前 1:24 [ GON ] 返信する

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GONさん サンキュー。
「女性の広場」知りませんでした。機会があれば読んでみましょう。山口さんの文章なかなかしっかり書けていたとおもいますが、少々「恨み節」のスパイスがききすぎだったかも? 私なら狗又さんをまず推したかも…。ユーモアも感じられましたし。それにしても、もう少し男性に期待していたのですが(笑)。とは言え昔の飯場より惨い労働環境にあって、皆さんよくぞ心を奮い立たせて書いたと、感服感嘆感激しました。
これからもよろしく。

2008/6/18(水) 午前 2:36 pen*tsu**shi 返信する

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女性の広場6月号「セクハラ、いじめに泣いた友人たち」で、280円です。あと、民主文学6月号に、三月十五日に開催された多喜二の文学を語る集いで「浅尾大輔氏、狗又ユミカ氏、山口さなえ」の3人で行った青年トークが収録されてますよ。お読みになってみたでしょうか。これを読んで、山口さなえにがっかりしはじめました。狗又さんが、「現代のオルグからすると、蟹工船の中で起きたストライキはファンタジーやメルヘンのたぐいなんですか」という、つっこんだコメントをされてて、救われました。(反論なし)
最後のコメントでは、「いや、もう、狗又さんが全部いってしまったので、私は何も言うことがないのですけれども…」です。これ聞いた私の友人は、「何も言うことがないはないでしょ…」とあきれてました。「多喜二と結婚ぜんていに付き合いたい」というコメントは面白かった。女性の広場の山口さなえの文はネットで見れるので、貼り付けさせていただきます。 削除

2008/6/18(水) 午前 8:10 [ GON ] 返信する

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http://www2.odn.ne.jp/k-horimaru/tusin08/080528.htm
です。
友人たちの悲惨な状態を、ですます調のルポで語ってって、その内容はともかく「2008年の蟹工船」より切実さがダウンしてて、がっかりしました。これで、彼女の文章力の限界を感じてしまった。 削除

2008/6/18(水) 午前 8:18 [ GON ] 返信する

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GONさん有り難うございます。しっかり勉強させてもらいます。狗又さんは、なかなかセンスある文をかきますよね。今時の小説家よりしっかりしてるように思います。

2008/6/18(水) 午後 0:39 pen*tsu**shi 返信する

小泉政権、最初、ハンセン病訴訟の控訴を断念したとき、私も期待したんですが…(それも、当時の坂口厚生大臣のおかげかも(笑))。(自戒を込めて)人間いかなる時も熟考せねばいけませんね。単細胞でいては、キ○ガイに刃物ですもの。

2008/6/19(木) 午後 0:29 HRMDN 返信する

新潮社版には、「蟹工船」と「党生活者」が掲載されていますが「党生活者」に資本の側が本工と臨時工との間に対立と分断を持ち込むようなことをしている描写があるんですよ。どこかできいたことのある話だと感じていたら、何のことはない小林多喜二の時代から人民を分断して支配する支配層のやり方は本当に本質的な部分では変わっていないんです。

2008/7/26(土) 午後 9:31 [ - ] 返信する

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