シリアで取材中に亡くなった山本美香さんが学生たちに遺した「最期の講義」前編 
「それでも私が戦争取材を続ける理由」

 ただ、こうやって話をしたり、何かを放送できたりしているということはある程度、取材が成功したからであって、そうじゃないこともいっぱいあるんです。空振りだってあるし、どんなに頑張ってもやっぱりダメなこともある。

 そういうときは粘って粘って粘ればいいというものでもなく、仕切り直さなきゃいけない。残念ながら、一度振り出しに戻らなきゃならないということもあります。臨機応変に行動していくことが必要なのです。

戦争は突然起こるわけではない

 フリーランスの強みだと思うのは、取材の時期や期間を自分で選ぶことができる点です。戦争取材は本当に時間がかかるし、例えば、何か重大なことが起こって「ドーン」となっている時期には世界中からたくさんのメディアが駆けつけます。このときは非常に集中して、様々な情報が上がってきますが、そうじゃない時期もたくさんあります。

 戦争は突然起こるものじゃない、と私はいつも言っています。必ず小さな芽があって、それを摘んでしまえばいいんです。その芽を摘めるかどうかがすごく重要だと思います。そこを問題として捉え、こんなことが、こんな小さな地域ですが起きています、大変なことになっていますがどうしましょう、とメディアは問題提起することができる。

 その後、何かが起きてしまったとき、止められなかったときにも、現地ではこんなに大変です、ここが悪化している、ここは少し改善しました、といって継続して情報を出していけば、長引く可能性のある戦争を短く終わらせることができるかもしれない。こういうことを考えながら取材するわけです。

 戦後と言われる長い時期をどうリポートするか、どう取材して分析していくかを考えることも、非常に重要な仕事だと思います。

 長い時間をかけ、日々変化する状況を取材していくことがメディアには求められていて、それにはある程度、時間やテーマ設定に余裕が要ります。またそれはフリーランスでなくたっていいのです。会社の中の遊軍がどんどんテーマを提案して、ずっと継続して問題を追っていく。

 日頃は日の目を見なくて、周りから何やっているのだろうと思われるかもしれないけれど、実はずっと継続してウォッチングしていればいいのです。遊軍がいればの話ですが。