坂道、文学、映画、そして「猫の街」 尾道
更新 sty1603090012 広島県の東部、瀬戸内海に面した尾道市は、古くから海運の要所として栄えてきた。そのおかげで様々な文化が集まり、この場所に多くの〝呼び名〟を与えることになったのだろうか。
海と山に挟まれ平坦な土地が少なく、多くの住宅や寺社が山肌に沿うように密集しているため「坂道の街」として知られる。また、志賀直哉や林芙美子の小説の舞台として「文学の街」の別名も。
1980年代には「尾道三部作」で知られる大林宣彦監督の映画の舞台として、当時の若者たちに絶大な支持を受け〝ロケ地巡り〟がブームになるなど「映画の街」として、不動の人気観光地の座を守り続ける。
そんな尾道、近年は「猫の街」として多くの猫党を呼び込んでいる。今に始まったことではないのだが、尾道には以前から多くの猫が暮らしていた。自動車が通れない狭い路地や隠れ場所の多い坂道が猫にとっては好都合だったのだろう。広島で過ごした学生時代、尾道での撮影時には必ず、何匹もの人なつこい猫を被写体にした事が思い出される。
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坂道には猫が似合う
少し寒さの和らいだ2月中旬、初めて「猫取材」を目的に尾道を訪れた。千光寺公園の坂道を歩いていると「ニャ~」…後ろから声が。振り返ると1匹のサビ猫が塀の上でこちらを見つめていた。飛び降りてこちらに駆け寄り、足下にまとわりついてくる。「何か食べるもの持って無いの?」とでも言いたげな仕草と表情。
なだめすかしながらモデルになってもらうが、少々不満そう。仕方がないので広場へ移動し、ベンチで少しばかりの「お礼のおやつ」を差し出した。機嫌を良くした〝彼女〟は、ひょいと膝の上に乗ってきて喉をゴロゴロ鳴らし始めた。至福の時間だ。取材であることを忘れそうになるが〝撮れ高〟はまだまだ足りない。早々に降りてもらって次の撮影に向かう。
千光寺を後にして海へ向かう坂道の途中で「三重塔」が視界に飛び込んでくる。正式名称は「天寧寺塔婆」といい、国の重要文化財に指定されているこの塔、もともとは嘉慶2年(1388年)に「五重塔」として建立されたが、元禄5年(1692年)、傷みの激しい上層部を取り払って3層とし、現在の姿となった。そんな〝重文〟のすぐそばでも、猫たちは臆することなく?元気に走り回っている。
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海辺の看板猫
海岸にほど近い商店街の入り口で、遠くに猫の後ろ姿を発見した。ゆっくりと近づくと、まるで道案内するかのように振り返りながら歩いて行くキジトラ。しばらくすると、右手にある美容室の前で立ち止まり「にゃ~おん!」と大きな声を張りあげる。
「お帰り」とドアを開けたのは、この地に店をかまえて40年という「まなぶ美容室」のオーナー、中室学(なかむろ まなぶ)さん。「気ままな猫たちに癒やされて、人生で猫が居ない時が無いくらい」なのだとか。まさに猫に〝招かれた〟ような出会いだった。
案内猫の名前は「グーちゃん」、13歳になるオスだ。店内にはもう1匹、気取った表情の猫の姿が。「ララ」ちゃん(雌8歳)は、商店街の振興のために作成されたホームページで「ガイド猫」として活躍しており、海外からファンが会いに来るほどの人気で、昨年9月には県の「路地裏観光課課長」に任命され、市長自ら辞令を届けに来たのだそう。
「わざわざ遠くから来た人たちが、ララちゃんやグーちゃんを見て喜んでくれることが嬉しい」
笑顔で話す中室さんは、尾道の〝観光大使〟として活躍する猫たちにとって、最高に頼りになる存在だ。
地域の人たちに見守られながら元気に命をつなぐ猫たちは、その姿で人々に〝癒やし〟というお返しをしてくれている。(写真報道局 尾崎修二)