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トランプvsファーウェイ:世界のイノベーションを止めるのは誰だ

Trump’s feud with Huawei and China could lead to the balkanization of tech

ファーウェイに対する米国政府の禁輸措置が、同社に対して壊滅的なダメージを与える可能性が高まっている。しかし、こうしたテクノロジーのバルカン化は世界的なイノベーションの妨げになりかねない。by Will Knight2019.05.28

ドナルド・トランプ大統領が中国の巨大テック企業ファーウェイに制裁を加えたことで、中国の一部の消費者の間ではナショナリズム的な感情が高まっている。この数カ月、中国ではアイフォーンの売上が落ち込む一方、ファーウェイ製品の売上が伸長。ウェイボー(微博)をはじめとするソーシャルメディアでは、四面楚歌のファーウェイを応援する愛国的なスローガンを掲げる投稿が相次いでいる。

このことに驚きはないが、不安な傾向ではある。米国の外交政策、特に中国との緊張関係が、テック業界を国境に沿った分断へと導く脅威となっていることを示す最新の兆候だからだ。

「多くの領域で、すでにテクノロジーのバルカン化(互いに対立する地域への分裂)は起こっています」。世界経済フォーラムのテクノロジー政策部長であるツヴィカ・クリーガーはそう話す。「この流れが続けば、企業は市場ごとに異なる製品を作らなければならなくなり、それがさらなる分断を生むことになります」。

クリーガー部長によると、同じ機能を持つ互換性のない製品やプラットフォームは、テクノロジーの進歩を後退させる可能性があるという。「この10年間におけるデジタル企業のかつてないイノベーションを支えてきた容易かつ迅速なグローバルな拡大が見込めなくなり、イノベーションに深刻な影響を与えるでしょう」。

ファーウェイ幹部らは先週、MITテクノロジーレビューの取材に対し、この困難を乗り切ると断言した。だが、ファーウェイに何が起こるにせよ、トランプ大統領の行動にはテック業界の分断をより一層深めるリスクがあり、もっとも直接的には、世界中に広がる電子機器のサプライチェーンの信頼を損なうことになるだろうとも述べた。

「これは真の危機です」。そう話すのは、ファーウェイの上級副社長兼企業広報部長のヴィンセント・ペンだ。「異なる基準や異なるエコシステム、異なるテクノロジーは、世界全体に混乱をもたらします。短期的にはファーウェイにダメージを与えますが、長期的には米国のサプライチェーンと産業に打撃を与えることになります」。

こうした流れのほとんどは、誇張と貿易戦争の集中砲火のまっただ中にあって見失われている。ファーウェイにとって悪いニュースが毎日のように舞い込んでいる。

最近、トランプ政権は圧力をより一層強めた。米国企業に対し、「国家安全保障を脅かす」可能性のある外国製機器の使用を禁止し、禁輸措置対象企業の「エンティティ・リスト」にファーウェイを追加したのだ。これにより、米国企業は特別許可を取得しない限り、ファーウェイへのテクノロジー供給ができなくなる。この制限によって、高度なチップをはじめとする非常に重要な部品の供給が遮断されることになった。

実際、その後間もなく、米国企業のインテル、クアルコム、ザイリンクス(Xilinx)、ブロードコムは、ファーウェイとの取引を中止した。さらに打撃となったのは、モバイル機器およびサーバー用のチップ設計をライセンス販売している英国のアーム(ARM)が、ファーウェイとの取引を中止するよう従業員に命じたことだ。グーグルは、ファーウェイ製デバイスへのアンドロイドOSおよびアプリの供給を中止すると発表した。

トランプ政権は90日間の猶予を発表したが、こうした動きがファーウェイに壊滅的な損害をもたらす可能性はある。ファーウェイはこのような事態に備えてチップの在庫を確保しており、独自OSを開発してきたと主張しているが、大半の専門家は同社が必要なテクノロジーを有していないと見ている。中国は、スマートフォンや5Gに使えるような高度な部品を提供するチップ産業の育成に、この数十年間苦心してきた。

だが、ファーウェイはこの10年間で研究開発に大規模な投資をしており、5Gテクノロジーにおいて世界をリードする存在であることは間違いないだろう。さらに同社は、人工知能(AI)をはじめとする他の分野でも力を伸ばしている。

ファーウェイを追い込むことを正当化する理由として、特に今後の5Gネットワークにおける同社製機器の利用によるセキュリティリスクの可能性が挙げられている。ファーウエイが中国政府と結びついている可能性があるからだ。

バックドアが意図的に設置されていた証拠はないものの、米国政府関係者らは、中国政府がファーウェイに対し、強制的にバックドアを設置させる可能性があると述べている。こうした疑念はこの数カ月間で最高潮に高まっており、もしトランプ政権が方針を転換したとしても消え去ることはないだろう。

最近になって米国政府は規制の焦点を拡大した。ハイクビジョン・デジタル・テクノロジー(Hikvision Digital Technology)およびそのライバル企業である浙江省のダーファ(Dahua)に対する米企業からのテクノロジー供給の禁止を発表したのだ。正当化の理由は、中国政府がこうした企業のテクノロジーを利用して、中国西部のムスリム少数派であるウイグル人を監視しているからというものだ。

トランプ政権の戦略は、貿易取引の強制と、中国のテック業界の発展の規制を同時に実現するように練られているようだ。だが、全体的なアプローチから、中国そのものと、その方向性に対するより広範な不信感が見て取れる。トランプ政権は、中国人留学生に対するビザの発行プロセスをより困難かつ長期化させることで、彼らが米国の一流大学で先端のテクノロジーを学ぶのを非常に困難にしている。

最近までマイクロソフトのチーフエコノミストだったプレストン・マカフィーは、これらは特にイノベーションにとって良くない傾向だという。「貿易摩擦と移民の減少は国境を超えた資本と労働の流れを停滞させ、効率を低下させます」。

マカフィーによると、現状の打破に挑戦しようとするスタートアップ企業に対してさらに悪影響を与えるという。多国籍企業の方が、世界中に生産や研究開発を移転させられる圧倒的な柔軟性があるからだという。「貿易や移民を妨げることは、支配の固定化を引き起こすことにつながります。少なくとも、新規参入者による重要な挑戦の可能性は減るでしょう」。

ファーウェイが直面している困難や中国でのナショナリズム的な雰囲気の高揚を考えれば、同社の創業者である任正非(ジンセイヒ)最高経営責任者(CEO)が米国のライバル企業のファンだと公言しているのはやや皮肉なことかもしれない。

「私の子どもたちはファーウェイよりもアップル製品の方が好きなんです」と、中国のテレビで最近放送されたインタビューで任CEOは語った。「ファーウェイの製品を使っているから愛国者で、ファーウェイの製品を使っていないから愛国者ではないなどとは言えません。ファーウェイの製品は、突き詰めれば、単なる商品です。人々は気に入れば使ってくれます。そこに政治を絡めるべきではありません」。

しかし、それは明らかに希望的観測だろう。


ウィル ナイト [Will Knight]米国版 AI担当上級編集者

MITテクノロジーレビューのAI担当上級編集者です。知性を宿す機械やロボット、自動化について扱うことが多いですが、コンピューティングのほぼすべての側面に関心があります。南ロンドン育ちで、当時最強のシンクレアZX Spectrumで初めてのプログラムコード(無限ループにハマった)を書きました。MITテクノロジーレビュー以前は、ニューサイエンティスト誌のオンライン版編集者でした。もし質問などがあれば、メールを送ってください。

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